第13話 ブルースター
香里奈は警戒しながらも自己紹介をした。
「石崎香里奈です。今は偽名で生活しています」
鈴木先生は糸原を誘拐犯と疑うであろう。糸原の覚悟は出来ていた。目の前に行方不明の石崎香里奈がいるという事実。そして匿っていた人が糸原という真実。
案の定、整理がついた鈴木先生は糸原の方をじっと見る。その感情は糸原への怖さだろうか、それとも怒りだろうか。
「なぜ、香里奈さんを誘拐したんですか?信じていたのに。なんで、なんでなんですか?」
鈴木先生は泣き出した。香里奈も糸原も困ってしまう。
その涙は怖さでも怒りでもなかった。糸原へ対する失念だった。事実、鈴木先生は糸原へ好意を寄せていた。その糸原が誘拐犯であったことを知り、人物像自体が崩れた。
【また駄目だと】糸原が立ち上がろうとしたとき、香里奈が口を開いた。
「先生は違います。先生は私を助けてくれたんです。誘拐ではありません。保護です」
糸原は驚いた。香里奈が自らそれを見せたからだ。服をまくってその傷を鈴木先生に見せる。
大学で教職を学んでいた鈴木先生なら、その傷の奥に隠される光景も思い浮かぶはずだ。
糸原もその傷を見た時は驚いた。香里奈は、普通に生活していればどこにでもいる可愛らしい中学生にしか見えない。しかし、腕には無数の傷があり、腰近くの臀筋に大きなアザがあった。
「信じてください。先生は悪い人ではありません!」
糸原は香里奈の肩を叩くと「ありがとう」と言う。あとは鈴木先生の考え次第だ。もし鈴木先生が警察や石崎徹に連絡するものならば、糸原も【準備はできている】
でも香里奈の言葉で十分だった。鈴木先生は大きく息を吸って吐いた。香里奈を見つめて優しく微笑む。そして糸原に真剣な眼差しを向ける。
「分かりました。話してください。経緯を」
糸原は香里奈を保護することに至った経緯を【嘘を混じえて】話すことにした。
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