第4話 シンビジウム

「起立、礼」


「「おはようございます」」


「着席」


生徒の威勢の良い声とともに朝は始まる。


生徒全員との目線を確認し、体調不良が居ないか確認する。糸原はニコッと笑顔を見せた。


「2年生になってから1週間が経ちました。席替えをします」


普段は静かなクラスも少し騒がしくなる。席替えはその月の運命を決める、とても大切なものなので無理もない。


「騒がしいと席替えはしません」


2秒。私語さえも聞こえなくなる。昨年の金森先生の指導の素晴らしさを実感する。適当そうに見える金森先生だが、教育力は確かなものなのだと感心した。


「席替えはくじ引きで行います。くじは先生が作ってきました。くじを引いたらその番号の座席にネームプレートを置いていくように」


糸原は座席表を黒板に書いていく。もちろんその席には石崎香里奈の分も含んでいる。


「ではくじ引きを行います」


・・・・


残り2席になった。その2席は1番前か1番後ろ。運命のくじ引き。糸原が問題児として目をつけている青木徹也が祈りを捧げている。ちなみにこのクラスには【問題児が3人いる】


「先生、まさかその箱の中に1枚しかくじ入ってなくて、1番前が俺、石崎が1番後ろで決まってたりしないよな」


さすが、考えが鋭いなと関心。


糸原は箱の中に手を入れると【手に持っていた1枚】を箱の中に入れる。そしてその箱の中から2枚取り出す。


「2枚あります」


そして箱の中に戻してシャッフルをする。


青木は恐る恐る箱の中に手を入れて1枚を取り出した。全員の視線がくじに集中する。糸原、そして青木が息を飲む。そしてくじを開く。


「…27番」


青木は黒板を見る。そして糸原の方を見てニヤリとした。


「よっしゃー。1番後ろの席だ!」


糸原は、賭けに負けた感を出すため、わざと悔しそうな表情を見せた。教室が笑いに包まれる。


そして箱の中から【もう1枚の27番】を取り出してクシャクシャにするとゴミ箱に捨てた。


「仕方がないから青木は1番後ろ。ただし、しっかり勉強しないと前にします。そして石崎の席は1番前の窓側の席」


「先生」


糸原が石崎のネームプレートを前の席に貼ろうとしたとき、石井悠里が手を挙げる。


「石崎さんはもういないのになぜ席があるんですか?」


みんなは石井悠里の方に視線を向ける。そして、石井悠里の疑問は決して間違いではない。


「もちろん私は石崎さんもまだ同じクラスだと思っています。だからと言い、1番前の席だと、私も、みんなも、苦しくなります。辛くなります」


糸原は石井悠里に優しく微笑む。石崎と1番仲の良かったのは石井悠里だという。出席番号でも前後であり、1年生の頃から2人は親友であった。行方不明になったその日も石崎は【石井悠里と遊んでいた】


「石崎さんは必ず戻ってきます。石井悠里さん、あなたが諦めてどうするんですか?」


生徒全員が石井を見る。石井悠里は涙を拭うと席に座った。心配そうに石井を見つめる生徒たちの表情は【一人を除き】一致していた。


青木を1番後ろの席にしたのは糸原の策だった。

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