7.不釣り合い以前の問題

「悪いけど、親が勝手に決めたことなんで。俺は関係ないから、付きまとわないでくれる?」


「はい?」


真理は瞬きをして高田を見た。

もはや、怒りを通り越し、唖然とした。


「昨日だって、教室まで来られて迷惑なんだけど」


心底迷惑そうな視線を受けて、真理は鯉のように口をパクパクとさせた。

言いたいことはたくさんあるのに、呆れすぎて声が出ない。


そんな真理から離れると、高田は自分の下駄箱に向かった。

そして下駄箱を開けると、中からドサドサっと何かが落ちてきた。


「はあ~・・・」


高田は溜息を付きながら、それらを拾った。

よく見ると、可愛らしい封筒ばかりだ。『高田君へ♡』という愛らしい文字が見える。


(あ、なるほど・・・。こりゃ、勘違いしてもしかたないか・・・。さすが王子様)


その光景を見て、真理はやっと腑に落ちた。

そして、口元に手をやった。


下駄箱に手紙・・・。


真理はポンっと手を打った。

そうだ、この手があった。王道じゃないか!


手紙をカバンにしまっている高田をまじまじと見ていると、振り向いた高田と再び目が合った。

その顔は、非常に迷惑そうな顔だ。

真理は慌てて首を振った。


「違う! 違う! あなたを見てたんじゃない!」


「は?」


「あの、安心して! 私も関係ないと思ってる!」


「え?」


「うん。関係ないわ、私たち。ってか、私、あなたに全然興味がないし!」


真理は両手を腰に当てて、うんうんと頷いた。


「・・・」


高田はそんな真理を訝しそうに見つめている。

その態度に真理は苛立った。どこまで自信家なんだ? この男?


「昨日、特進科の教室に行ったのはあなたじゃなくて、他の人に会いたかったからよ。そして、今もね!」


真理はフンっと顔を背けた。

それを見て、高田は軽く肩を竦めた。


「ああ、何だ、そうなんだ。それは、良かったよ。お互い」


高田は靴を取り出すと、乱暴に床に放った。

その態度にも真理はカチンときた。


(く~、嫌な奴~~~)


靴を履いている高田を呪っているところに、後ろから声を掛けられた。


「あれ? 中井さん?」


真理はピョンっと飛び上がった。

慌てて振り向くと、そこには不思議そうに立っている川田がいた。


「か、川田君!」


「あ、高田君も。あれ? もしかして二人、知り合い?」


川田は真理の背後で靴を履いているクラスメイトに気が付いた。


「いーや! 全然っ!!」


真理はブンブンと顔と手を反対方向に大きく振った。


「でも、ここ特進科の下駄箱・・・」


「川田君。また明日」


高田は、川田の言葉を遮るように挨拶すると、スタスタ歩いて行ってしまった。

川田はポカンと高田を見送った。

改めて真理に振り向くと、


「どうしたの? 中井さん。こんなところで」


不思議そうに尋ねた。


「えーっと・・・、ははは。何でもないの! そ、それより、川田君、もう帰り?」


「うん」


(よっしゃっ!!)


真理は心の中でガッツポーズをした。

そして勇気を振り絞る。言え! 言うんだ!


「じゃ、じゃあ・・・」


―――途中まで一緒に帰らない?


真理がそう言おうとしたところで、川田は何かを思い出したようにカバンの中を漁り始めた。


「あ! やべっ。本返すの忘れてた! じゃあね。中井さん、またね!」


「え・・・?」


川田は挨拶したと思ったら、くるりと向きを変えて、廊下を駆けて行ってしまった。

真理はポツンとその場に取り残された。


せっかく絞り出した勇気が空しく散ってしまった真理は、ガックリと肩を落とし、スゴスゴと普通科の下駄箱の方に歩いて行った。


「ふーん、なるほどね・・・」


その様子を遠目から見ていた高田は一人呟くと、何事もなかったかのように歩き出した。





「あれは無い! 絶対に無い! あり得ない!」


真理は自分の部屋のベッドの上で、クッションをボカボカ殴っていた。


今日の高田の態度を思い出すと腹立たしくてならない。

川田とも上手くいかなかったことが、高田への怒りに拍車をかける。


「ぐぬぬ~」


真理はクッションをギュギュ~と抱きしめた。


自分だって許嫁なんてお断りだ。

当然、高田だってそうだろう。拒否されたことについては、何ら問題はない。

腹立たしいのはそこではない。


まるで、真理が許嫁になった事を喜んでいると思い込んだ上に、ストーカー扱いしたことだ。

なんて自信家なんだ、高田って男は!


その上、はっきり違うと言ってやったと言うのに、あの澄まし顔!

少しは思い上がった自分に動揺すればいいものを!


「う~~! 気に入らん!」


真理はクッションの端をガリガリ噛みついた。


「不釣り合い以前の問題だったわ! あんな男!」 

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