魔王攻略編
魔王攻略編1 束の間の休息
強力な魔族を討伐してきてやったせいか、俺に対してソフィアはやたらと上機嫌だ。
「マコト、やるじゃない!」
「運がよかっただけだ」
「あ、あのさ。異世界から急に
と提案されたがすぐ思いつかない。
「うーん?」
そうだな、貴族の気取った食生活が続いてる。たまにコーンフレークとかでいいんだけど。そう思ってしまうとなんかジャンクフードの口になってきて、ハンバーガーをなぜかリクエストしてしまった。
それでいざ実食、って夕食のメインに出てきた。サーブされた大皿に2つのっているのは、パッと見たところハンバーガーだが何か違う。
まず、左の。上からチーズ掛かってる。
ハンバーガーの上から、たっぷりとけたチーズをかけてあるぞ。
皿にたっぷりと流れたチーズの芳醇な香りがただよう。
チーズの隙間からチラッとのぞいてる中の具もこれ、ステーキじゃん。
惜しいなー…。かなり惜しい。
俺が求めてたのは手で持ってかぶりつくやつなんだよ。
右のハンバーガーはバンズの上からケチャップ風のソースが掛かってるし。
はっ、と気づく。
俺の反応をうかがうソフィアの目。
苦労したのかな、これ作るの。
ハンバーガー再現プロジェクトのX的な音楽が聴こえてきた。
見守られてるのにこたえるように、「これこれ〜〜!!」って感じのナイスな笑顔でサムズアップすると、ソフィアの笑顔の花がパッと咲く。いいね、人を幸せにするウソって好きだな。
まあいい、食ってみるか。
ナイフとフォークをチーズバーガーに当ててみる。うおっ、パンがふわっふわ。これは、意外と期待できるのか?
パンをフォークで固定して、ナイフでゆっくり切りひらくとステーキに到達。やわらかくてスッと切れるぞ。敷かれたパンごと一口サイズにカットして、フォークで口に放りこむ。
いや、これは。うまいな。
焼きたてのパンから、麦の香りがふわっと鼻にぬけていく。はさまれたステーキはあきらかにいい肉だ、かむたびに肉汁がジュワッとあふれてくる。うまっ。
酸味のあるソースと少しクセのある野菜の酢漬けも見事にマッチしていて、ひと口ごとにハンバーガーだった。たしかにこれはハンバーガー。
リニー家の料理長、やるじゃないか。
結構なサイズだったが、ぺろりと食べてしまった。俺とアリアは高魔力者特有の大食いだ。少食のエミは小サイズのハンバーガーをゆっくり丁寧に食べた。ちっちゃいハンバーガーはなんか可愛かった。
マナーなのでみんな無言で食い終わった。こっちがアリア、俺、エミ、床でミルク舐めてる狼子供のアカとクロ。あっちがソフィアとその親であるリニー伯夫妻。
そう、この会食はリニー家の当主であるリニー伯の
大貴族様との夕食だったので俺もすこしは緊張したかな。パーティーでもう会ってるけど。リニー伯はソフィアに雰囲気が似たイケメンだ。夫婦とも20代後半に見えるのは高魔力者が老けづらいせいだ。魔力はアリアと同じくらい。
この世界も貴族制度は複雑で、きっと伯爵じゃないけどリニー伯と脳内変換してる。それで困る日はどうせ来ないし、興味がないから雰囲気でいい。
「今回の首狩族の殲滅、あらためて感謝する。わずかな残党が北へ逃げたとしても、洞窟の北の山を根城にしている敵対魔族と交戦になるだろう。上位個体をすべて倒しており再起は不可能だ」
「リニー領は魔王城に最接近していることもあり、戦線の押し上げは人族の悲願です。それにわずかでも貢献できて光栄です。聖女としての使命を、また一つ果たせました」
俺は洗脳の効いてない召喚勇者というよくわからない立場なので、上位貴族の当主に直答したりはしない。アリアにすべて任せればいいので気が楽だ。
「アリア君が首を引きずって帰ってきたのを見て、私も本当に驚いたよ」
「ふふっ、あまりに重かったですから引きずってしまいました」
重い、っていうかデカかった。あんなの持ちきれないだろ、馬かポーターが欲しかったな。連れてったらどうせすぐ殺されるけど。アイテムボックスとかないのかよ。首を抱えてるのに酸のスライム池に襲われた時はちょっとどうしようかと思ったぞ。首を1個落として食われたし。
「マコト君。首狩族のアジトで獅子奮迅の大活躍だったらしいじゃないか。せっかくだから英雄譚を直接聞かせてほしいな」
「えっ、俺から?」
「ああ。ぜひお願いしたい」
前言撤回。
リニー伯、めっちゃ気さく。
大貴族なのに。
いや、最前線でトップをやってるから、好感をもたれやすい距離の詰め方が自然と身についてるのか。親子そろって。ソフィアも直情的ではあるが、貴族らしからぬ裏表のなさで悪印象を継続しづらいタイプだしな。
聞かれたら直答せざるを得ない。が、礼儀がよくわからん。ウラハ家とリニー家の関係とかどうでもいいし、アリアに相談するまでもない。
ちょっと気を抜く。適当でいいか。
「別にそんな、面白い話はないな。首狩姫の魔力が俺より強くてあせったが、直接戦闘の経験が浅くてたやすく狩れた。他の魔族や魔王もこうだといいけどな」
高魔力特有の圧力のせいで近接戦闘はほとんど経験してなかったんだろう。高魔力の魔族同士で戦うこともきっとないし。魔王にもすこし勝ちの目がみえてきた。
「この先、マコト君が苦戦する相手は、そうだな……。近隣の最凶個体、悪鬼ブドゥルシャハクだろうか」
「ブドゥルシャハク? どうな魔族だ」
「強い相手と見れば同族殺しさえする戦闘狂だ。とにかく強くて残忍な性格をしている。この街がまだ堕ちてないのは弱すぎてブドゥルシャハクが興味を持っていないせいかもしれないな、ハッハッハ」
……笑えないぞ。
✳︎
その夜。
俺は飛び起きた。
「ふぁ。マコトー、どうしたの?」
「エミ、感じないか?」
「え、わからないけど。なにを?」
かすかに地面が揺れてる。
この城砦に、リニーの街に、なにかが近づいている。大量のなにかが。
勇者の超感覚だけが察知した。
いや。
「ワオン!」
「アオーン!」
アカとクロも気付いた。
魔族が近づいている。報復らしい。
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