第40話 授業

◆クライアス国立聖セントオーディン学園

二年生教室


ナレーター視点


とある講堂での講義。

金髪ロング、片眼鏡で30代ナルシスト風のイケメン講師が講義を行っている。


彼の名前はブンドル▪フォン▪レーゼリア。

伝説級ポーションを開発した天才薬師、ハインシュタイン▪レーゼリアの曾孫でありレーゼリア公爵家の長男で薬草学の教授。


ナルシストで美しい物が好き。

授業に絶対の自信を持っており極めて厳格。

ハインシュタイン研究室、主席研究員バイセル講師の兄でもある。




「で、あるからして、この薬草を処方する場合の注意点は、予め毒のある花の部分は取っておく事。そして………」


すーっ、すーっ、すーっ


『ちょっ、ちょっと!?レブン、何寝てるのよ。ブンドル先生の講義中よ、ちゃんと聞かないと!』

「あ、う、ん?」


『しっかりしなさいよ。あなたの事は、お姉様から面倒を見てあげなさいって言われてるんだから!』


授業中、居眠りをしてしまったレブン。

隣席のキャロラインが慌てて小声で起こそうと声をかけた。

キャロラインは親愛する公爵令嬢エレノア▪フォン▪マデリアの依頼でレブンの保護とお目付け役を頼まれており、レブンに不手際を起こさせるわけにはいかない。

そうして行った声かけだったが、それを見逃さない人物がいた。

この授業の主役、ブンドル教授である。


「レイテア子爵令嬢!」

ガタッ「は、はいぃ?!」


「私の講義中の私語とは、美しくありませんね。」

「ブ、ブンドル先生、こ、こ、これには訳がありまして、その」チラッ


キャロラインは、やっと眠け眼で起き上がったレブンをチラ見しながら自身の置かれた状況の理不尽さに天井を仰いだ。



「ん、どうして立ってるのキャロライン?」

『バカね!全部アンタのせいなんだから!』


コホンッ

「なるほど……私語の相手はクロホード伯爵子息ですか」


「あ?!」

「?」


「ふむ、なるほど。レイテア子爵令嬢、クロホード伯爵子息。二人とも授業終了後に私の私室に来なさい。では本日の授業はここまでとする。解散」



ガタガタガタッ

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤッ


皆が立ち上がり講堂を後にしていく中、残された二人。

未だ状況を把握できず、ボケた顔のレブンは辺りをキョロキョロしている。

頭を抱えたキャロライン。

彼女の怒りは頂点に達していた。


ガシッ

「ちょっと!アンタ、いい加減にしてよね?!」

「あ、う?」


キャロラインはレブンの襟首を掴むと、眠気眼のレブンを高く引き上げた。

その光景はかなり異様な光景だ。

怒り心頭の彼女は気づいていないが、手折れそうな細腕で珍しいピンクブロンド髪少女が男子学生を持ち上げている。

その行為は令嬢とは思えないあるまじき行いであるが、それ以前に人を片手で持ち上げられる怪力は現実離れした状況である。


しかしそれには理由がある。

巧みな男装で遠目には男子学生に見える様になったレブン。

しかし性転換して以降、肉体の縮小は著しく背丈ではキャロラインより低く体重でもかなり軽量化してしまった。

それを補う為肩パットで肩幅を広げ、髪をまとめて豊満な胸は布で強く圧迫している。

傍目には、背丈の低い細身ひ弱男子に見えるまでになった。

しかし顔は元々かなりの美男子であり、女体化してからの顔立ちは無骨な男性のソレが消えて、この国希少の銀髪がその顔の美しさを際立たせる。

同性となったキャロラインからさえドキッとするような眼差しは、まさに魔性の美少年と云える儚さだ。

何だか後ろめたくなったキャロライン。

慌ててレブンの襟首から手を離した。



「お、お姉様から貴方の面倒を見る様に言われておりますの!だ、だから私を巻き込むような事は起こさないで頂きたいですわ」


「ごめんキャロライン。昨日からあまり眠れてなくて……」

「そう、なんですの?学生寮に住んでるんですわよね?」


「うん。だけど、いつも中々寝かせて貰えなくて……」

「は?貴方、一体寮で何を……?」



ぎょっとするキャロライン。


疲れ気味のレブン。

男子寮。

寝かせて貰えない。


この状況から彼女が連想した事は、とても冷静ではいられない事だった。

口に手をやったまま、真っ赤になってフリーズしてしまったキャロライン。

その様子に首を傾げるレブン。


「キャロライン?」

「あ、あ、あ、アンタまさか!?私だってまだなのに!いやいやそんな事より男子寮は高位貴族子息だけの専用寮よね?!一体誰と?そんなハレンチな!」


「どうしたの?」

「け、汚らわしい?!触らないで!」バシッ


レブンが触ろうとした手を叩いて避けたキャロライン。

その表情は軽蔑と怒りで、高まる感情を押さえられないという状態だ。

何故、彼女がその様な顔で自分を非難しているか分からず、大きいクエスチョンを浮かべるレブン。

「キャロライン??」

「あ、アンタ、男と寝たのよね!?」


「男と?ああ、男子寮だからね。回りは男だけど……?」

「お、お前、寝たのは一人じゃないの?!な、なんて不潔な!恥を知りなさい!」


「はい?だって男子寮だから回りはみんな個室で夜は寝るよね」

「個室!一体、何人連れ込んでるの?!」


「連れ込んでる???話が見えないんだけど?何の話?」

「今更弁解しても無駄よ!アンタ誰とベッドで寝たの。白状しなさい!」


「ベッド!?ベッドは一人で寝てたけど?」

「今更誤魔化す気!?」



ざわざわざわっ


話すたびに誤解が広がり収拾がつかなくなるキャロラインとレブン。

その様子に何事かと回りに生徒達が集まってくる。


レブンは慌てた。

只でさえジーナス達に付きまとわれて困っているのに、このままでは変な話で目立ってしまう。

出来るだけ学園内では目立たず、薬師試験合格の為に勉学に集中したかった。

今はそれに逆行する状況だ。

しかし興奮した彼女を、冷静に戻す方法が分からない。



「キャロライン!レブン!一体何時まで待たせるつもりだ。さっさと私の部屋に来たまえ!来ないなら私の授業単位は無くなると思いなさい!」


そんな時、救いの神が現れた。

ブンドル教授である。


「は?!はい、ブンドル教授!」


「今、行きます!」



講堂出入口で怒鳴るブンドル教授に、ようやく我に返ったキャロライン。

レブンと共に集まって見ていた野次馬生徒達をかき分け、ブンドルの後に付いていった。



果たしてブンドル教授の話はどのようなものになるのか?

キャロラインの誤解は?


次回、こうご期待。

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