第34話 エレノア公爵令嬢

◆ザナドウ国境の森の猟師小屋


ハルさんが隣国の王太子だと知れて、固まっていると、エレノア様がボクに顔を近づけ、耳元で囁く。


『後で話しがあるわ。二人だけで話しましょう』

「あ、い」


エレノア様は小屋に一人、入っていく。


参ったなぁ、エレノア様に、ここが知られちゃったよ!

どうしよう!?


悩んでるボクに、ランス君が罰が悪そうに言う。

「レブさんの知り合いだって言ってたから此処に案内したんだけど、不味かったかな?」


「ランス君、いいんだ。君が気にする事じゃないよ。遅かれ早かれだったから」


ボクは笑いながら、ランス君の頭を撫でた。

んん?ランス君、真っ赤だな。

熱でもある?


「レブさん!?」

「ほら、動かないで」


ボクは、ランス君のオデコに、ボクの額を付けて体温を確認する。

ん、大丈夫かな。

あれ?

熱が上がった?


「ランス君、風邪ひいてる?お薬、出そうか?」

「へ、平気で、でです?!」


そうかなぁ?

まあ、本人がそう言ってるわけだし、大丈夫か。

ん?マイリちゃん、何?

ボクの前に歩いてきて、耳打ち?


『レブお姉さん。相変わらず、タラシ炸裂だよね』

「はい?タラシって!?」


いや、マイリちゃん?

その意味ありげな笑顔は何?

ランス君、なんでハルさんに胸を張ってるのかな?

ハルさん、なんで物言いたげにボクを見るの?


あ、それで、ハルさんは、もう、ハルさんじゃないんだよね?


「あ、あの、ハルさん、いや、ハル様?何てお呼びすればいいんでしょうか」

「レブ、今まで通りハルでいい。ここは公の場ではないのだからな。それに、私が困る」


「え?」

「い、いや、何でもない。それより、公爵令嬢の方はどうするんだ?」


「あ、そうだった。じゃあ、ちょっと話してくるから」


ボクは皆に伝えると、エレノア様の待つ、猟師小屋の奥、裏庭に向かう。





そこにはエレノア様が一人、木陰のベンチに腰を掛けていた。



「来たわね、ここに座って」

「は、はい」


ボクはエレノア様の橫に、少し離れて座る。

エレノア様は、ボクの足の先から頭の上まで、ゆっくりと眺め?ボクにくっ付いた。

くっ付いた!?


「本当に女の子、綺麗だわ。わたくしが女として嫉妬するくらい……」

「は、はい?」


エレノア様は、ボクの背後に手を回し、ボクの髪を弄り出す???


「何て綺麗な銀。ここまでの銀髪は国内には居ないでしょうね。いるとしたら隣国、シスレーン神聖皇国の聖女くらいかしら?」

「エ、エレノア様?」


う、うわ、くすぐったい。

エレノア様がボクの髪に、手ぐしを入れてるんだけど、めちゃくちゃくすぐったいんですが!?

「エレノア様、くすぐったいです……」

「ふふ、我慢なさい。貴女あなた、私に断わりもなく居なくなったでしょ?その罰よ」


「ふぇ!?」

「私は貴女のパトロン。その私に連絡もくれない何て、酷いじゃない。このくらいの罰じゃ、物足りないわ」


いやいやいや、物足りてます。

十分、お腹いっぱい……じゃなくて、その美しい顔で、ボクの鼻先まで近づいたら、倒れちゃいますって!悪巧みをしているような目付きが、やたらアンバランスなんですが?


「ふう、まあ、いいわ。学園を離れてからの事は、だいたい、あの子に聞いたから」


エレノア様はボクから離れると、身なりを整えながら、ボクに話した。


あの子、ランス君の事かな?


「ああ、そうそう。ケスラーとハーベルは助かったわよ。貴女のお陰ね」

「あの二人が?!」


息を吹き返したまでは見たけど、その後の事は分からなかったから、良かった。じゃあ、あの後に駆け付けたのは、エレノア様だったのか。


ん?

何でエレノア様は、ボクが助けた事を知ってるんだ?


「二人とも、銀髪の天使を見たって、必死に助けた女性を捜しているらしいわ。良かったわね。さらに執着されてる見たいで」

「えぇっ!?」


何だってぇ!

二人とも、うっすら意識があったのか。

銀髪女性を捜してる?

冗談じゃない!


「エ、エレノア様、この事は内密に……」

「いいけど、あのザナドウの王太子とは、どうゆう関係なの?」


「あ、えーと、友達です。その、ポイズン▪ボアの毒で動けないところを助けまして」

「毒から助けた……ふーん」


あの、エレノア様?

その顎に手をやっての、ふーんって、一体なんの表現ですか。


「エレノア様?」

「やっぱり、レブンは人気者ね。それも大物食いの」


大物食いって何ですか?

大物食いって!

何だが、卑猥ひわいに聞こえるんですが。




「それでね、レブン。貴女に提案があるの」


「て、提案ですか?」




何だろう?

ここがバレた以上、今更、逃げ隠れは出来ないけど、いくらエレノア様の提案でも、無理な提案は受けないよ。


ボクは、次のエレノア様の言葉を、固唾を飲んで待っていた。




「あなた、男に戻るつもりはある?」

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