第12話 後見人?

◆とある薬師の視点


「何、領主様の印を押した、念書が欲しいだと?!」

「はい、その、一応、私共がレシピを公開するにあたり、領主様の確認を頂きたく」



今日、【魔獣避け香】を考案した、ベナティア村の親子がやって来た。依頼していた【魔獣避け香】のレシピを持って来たと思いきや、念書を貰いたいのだと言う。いまさら何だと言うのだ?

そもそも、薬師ギルドからの指摘を受け、町での販売が出来ないから、私が仲立ちをしてやっているのに、その恩に報いるべきところを、私を疑うが如く念書を要求するとは、これだから平民は礼儀も常識も知らぬ馬鹿ばかりなのだ。


「……見せて見ろ。適当に書いた念書など、領主様に見せられるものか」

「は、はい。これで御座います」


ちっ、せっかくあの【魔獣避け香】の試験効果を評定委員会が認めたところなのに、なんでいまさら念書の話しなど出してくるのか。レシピを確認したら、直ぐに新薬特許申請を行う予定だったんだ。絡め手でその権利を奪う予定だったのだからな。

まあいい、田舎の村人が念書の正式書式を知る筈がない。書式不備として、無視すればいいんだ。どれどれ……!?


は?!

何だ?何でだ?たかが辺境の国境沿いの村人風情が、何で皇国公文書書式を知っている?

そんな馬鹿な!

誰かの入れ知恵か!だが、皇国公文書書式を知っているとなると、只の平民の筈がない。

まさか、薬師ギルド関係者か!?

わ、分かったぞ!あの【魔獣避け香】の性能が良すぎて、ギルド上層部の目に止まったんだ。それでベナティア村のこの親子に先回りして、すでに直接取り引きを持ちかけている!?

くそっ、そうはさせないぞ!


「わ、分かった。きちんと書かれている。明後日にでも、領主に判断を仰ごう!だが、くれぐれも言っておく。契約が確定するまで、勝手に他との取り引きを始めない事。分かったな!」

「は、はい?」


ふーっ、危ないところだった。仕方ないが特許権益は諦め、正攻法で契約をすれば、ギルドも無理な引き抜きはすまい。だいぶ利益は減るが、全てを奪われるよりマシだ。

「欲張り過ぎると、神がお怒りだったのかも知れない。これで良かったのだ」


私は屋敷の窓から、村に帰る親子を見て、自分に言い聞かせた。



「取り敢えず、領主、レイテア子爵に念書の印を頂かねば……」



◆◆◆



◆レブン視点


「レブ様ーっ!」、「レブお姉さま!」

「ランス君?、マイリちゃん?!」


結局この兄妹は最近、毎日来てるよね?七歳と十歳だよね?確か村から片道一時間の道のりだよね?


「はぁ、二人共、いつも遠いところから、ご苦労様。でも本当に毎日来てるんだね」

「俺は、レブ様の護衛ですから当然です」

「あたしは、レブお姉様の後見人ですから当然です」


「はあ、マイリちゃん。ボクはお兄さんだからねって、後見人!?」


後見人??いきなりマイリちゃん、何を言い出すのかな。


「え、ええっと、マイリちゃん?後見人って何かな?」

「親権者のいない未成年を保護、監督し、その法律行為を代表する者」


「ぶっ???!!何でそんな事を知ってるのか知らないけど、ボクは十六歳だから、もう成人してるからね?!そもそも、未成年のマイリちゃんが後見人をする事は出来ないよ」

「そうなの?じゃあ、お母さんにやって貰おうかな」


人差し指を顎に当て、天井を見上げながら考えてるマイリちゃん??

「あの、マイリちゃん?なんで後見人にこだわるかな!?」

「それは、レブお姉様が変な男に引っ掛からない様にする為でーす!」


「お、男!?」

「ほら、いるじゃないですか、そこに変な男!」


びゅっ、びゅっ、びゅっ、ばっ、びゅっ


マイリちゃんが指差した先には、裏庭で剣の素振りをしている、上半身裸のハルさんがいた。


「男って、ハルさんの事?」

「其れだけじゃないけど、も変。女の子の前で上半身脱ぐって、完全にセックスアピールですから」


「ぶほぅっ、マ、マイリちゃん?!」


おーい、マイリちゃん?貴女、七歳だよね?後見人の事といい、その言葉といい、一体誰だ?こんなイタイケナイ少女に教えた奴は!


「マ、マイリちゃん、あの」

「それに、レブお姉様も脇が甘過ぎです!あと、その格好!」


「う、ははい!?」

「私は今後、お姉様の教育係をやらせて頂きますので、そのつもりでお願い致します」



はい?

なんでボクが、教育を受けなければならないの?七歳のマイリちゃんに?一体、何の教育を?はあああ??

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