第7話 五度目の電話

 次の日の夜がやってきた。夜が怖くなっていた。

「先輩、何で電気つけないで家にいるんですか?」

「俺は、コロナに感染してホテルに隔離されてるんだよ」

「またまた、知ってますよ。電気消して、家にいるって」

「それ、俺じゃないよ。兄に貸してるんだ。兄は俺に背格好が似てるから、きっと見間違ってるんだよ」

「先輩、今日、家出てませんよね!」

 すっかりバレている。どうやって?

「俺のこと、どうやって監視してるか教えてくれない?」

「秘密!あはは」


 家中に監視カメラが付いてる?

 なぜ?

 なぜ?

 なぜ?

 なぜ?


「まあ、いいや。俺も暇だし。ありがとう。俺の暇つぶしに付き合ってくれて。俺、コロナになってから、1人も連絡くれた人がいなくてさ。君だけだったんだよね。もう、いいよ。俺、君の処女もらうから」


 俺は答えた。もう、やけくそだった。なぜ、そう言ってしまったのかはわからなかった。もしかしたら、家に来た時、ふん捕まえて警察に突き出してやろうかと思ったのかもしれない。


「やっと言ってくれた。じゃあ、今から行きます。シャワー浴びて待っててください」


 俺は言われた通り、髭を剃ったり、ムダ毛処理をして、シャワーを浴びて待っていた。すごい変な女が来ても、取り敢えず話を聞こうと思った。俺みたいな人間を25年も思い続けてくれるなんて奇跡だ。もし、結婚の格言として、『汝、自分を最も愛してくれる相手と結婚せよ』というなら、俺は彼女と結婚した方がいいだろう。


 準備ができた後は、アダルトサイトを見て気分を盛り上げていた。これで、残念な容姿でも、ムラムラした気分のまますんなり行けるはずだった。


 彼女はいつくるんだろう・・・。

 電話を切って2時間経つのにまだ来ない。

 俺は待ちくたびれて、着信があった番号にかけ直した。


「もしもし」


 男が出た。


「すみません。この番号は、真理佳さんの携帯ではありませんか?」

「そうですけど。どちら様ですか」

「江田と申しますが、着信があったので・・・」

「江田?江田って、ゼミで一緒だった江田聡史?」

「はあ。そちらは」

「俺だよ、沢柿」

「え?どういうこと」

「真理佳は俺の嫁」

「うそ。結婚したん?まじで?」

 あんなブスと?

「君みたいな人が、あんな真面目な子と」

「まあ、いろいろあってね。それより、何でこの番号がわかったの?」

「何回か電話かかってきてさ・・・今どうしてるって聞かれて」

「おかしいなぁ・・・」

「どうして?」

「嫁は今、入院してるからさ」

「え?」

「ここだけの話にしてほしいんだけど、コロナに感染して、今、ICUに入ってるんだよ」

「あ、そうなんだ・・・」

「だから、電話してないと思うよ」

「そっか・・・ごめん。変な電話して」

「いいよ。最近どうしてる?」

「相変わらずで・・・」

「結婚した?」

「そういうのは個人情報なんで」

 あんなブスな嫁と結婚して何言ってるんだ。既婚者だからってマウント取るなよと俺はむかついていた。

「今度、飲もうよ。せっかく電話もらったんだし」

 奥さんが危篤状態だってのに、何を言ってるんだろうか。

 沢柿の声も心なしか震えている気がした。

 笑いをこらえているような。きっと、ゼミの連中で俺をからかってるんだ。俺は嫌われてるから。

「奥さんが大変だから・・・退院して元気になったら」

 俺は適当に答えた。

 

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