MISSION 4 :こんなクソみたいな世界で私は生きる






 ────自立型無人機を動かしている人工知能AIちゃんはとっても優秀でした♪


 だってね?待ち構えているのを見越して、真上からレーザー撃ってきたんだよ!?


 そうだよ‪……‬天井程度なら、撃ち抜ける!

 レーダーで相手の位置がおおよそわかるって言うのなら、建物越しにこうやってぶっ放すのは大正解だ!


<オペレーター>

『しまった‪……‬!』


「‪……‬ッ!」


 真上からレーザーが降り注ぐ。

 数発当たってしまった。

 コックピット近くを掠めてお外の光が見える。

 機体の左肩が撃ち抜かれた。


 目の前の画面で、あの謎の数字が減る。

 機体の体力ってやつ?ゲームかよ‪……‬問題はこれがゼロになったらどうなるのか。


 ヤバいな‪……‬死ぬな。


 今、すぐ近くでレーザーが開けた穴のせいで天井が耐えられなくなって、少し穴が空いた。


<オペレーター>

『機体仮想耐久値、80%減少!!

 もう攻撃は防げません!逃げて!!』


「いいや。これで良いよ」



 ────私は攻撃に当たった。そして動けない。


 それが、相手にとって一番嬉しいシナリオのはず。

 なら、これでいい。


「どのみち逃げられないなら‪……‬賭けだ」


 例のパルなんとかライフルを構える。

 レーダーには壁越しとはいえ、相手が斜め上にいる状態だってぐらいは分かる。


「来いよ。ちゃんとトドメを刺しにさ‪……‬!」


 私は、あの入り口に視線を向ける。



<オペレーター>

『まさか‪……‬敵がトドメを刺す瞬間を狙って‪……‬!』


「私が、外せない攻撃を当てるには‪……‬

 外さないようにするしかないじゃんかよ‪……‬!」


 これしか、思い浮かばなかった。

 来い‪……‬トドメを刺しに来い‪……‬!



 沈黙の数秒。

 それが怖い。緊張のせいでものすごく長く感じて、怖い。

 プレッシャーで肺が押しつぶされそうで、呼吸がなんか辛い。

 震える。手も、視界も。



 正面に、何かが降り立つ。

 操縦桿のボタンに指をかける。



 ───それは、UFOみたいな小さな空飛ぶ何か。


 敵のハードレインフレームじゃない。それは、



<オペレーター>

『リコン‪……‬!!

 しまった、敵は‪……‬!!』



 無人偵察機の情報を機体に送って、その映像をもとに壁越しに情報を映像化する。


 それがリコン。それが私を見ている。


 敵は、あくまで壁越しに私を殺す気だった。

 今頃、冷たくレーザーライフルの照準を合わせている。







「やっぱりか」





 私は、影が見えた時点でとっくに射出していた私のリコンの情報を見ていた。


 つまりこっちから見える壁越しでライフルを構えるアイツの姿を見て、


 そう───『賭けに勝った』ことを確信した。



「賭けてたのは、お前が天井から動かないで撃つ方にさ!」





 バシュゥン!



 私の機体の、左腕が完全に吹き飛ぶ。レーザーで撃ち抜かれた。

 けど、真上の壁の穴から見ていたリコンは、たしかに目の前のモニターに真下から斜めに胸と頭部を撃ち抜かれた敵の姿を捉えていた。


 ワイヤーフレーム状の合成映像で、爆発して力なく倒れる姿をばっちりに。



「私も全部武器覚えている訳じゃないけどね?

 便利なものは、覚えてるよ流石に」


 私は、片腕を失った機体だけど、まだ動ける。

 生きてる‪……‬勝ったんだ!



<オペレーター>

『───依頼主から、改めて撤退の指示がありました。

 映像の本データを欲しております。

 ───作戦終了です』


「‪……‬‪……‬はぁ〜‪……‬生きてるぅ‪……‬!」


 じゃ、急いでここ出ないと。

 ちょっとバランスが悪いけど、なんとか機体を移動させ始める。もうブーストにも慣れちゃったな。



<オペレーター>

『なるほど。驚異的な力がお有りのようですね』


「え?」


 基地の外、ヘリコプターが見えるところまで行く途中、オペレーターさんがそんなことを言い始めた。




<オペレーター>

『大鳥ホノカさん。認めましょう、あなたの力を。

 今この瞬間より、あなたは傭兵スワンです。


 ようこそ、新たなるスワン。貴女を歓迎します』




 ────生き残るのに必死で、ようやく思い出した。

 これは────命懸けの試験だったんだっけ?



「‪……‬借金で、まさか身体を売るって言うのが、傭兵になることだとは思わなかったなぁ‪……‬」


<オペレーター>

『あ‪……‬そう言うタイプの‪……‬ちなみに、失礼ですが、いくらぐらいですか?』


「ユニオン通貨の円で1000万ほど」


<オペレーター>

『あら!

 でしたら、もうその借金は多分、満額支払われておりますよ?

 ホノカさん本人にもう借金はございません』


「は!?1000万が!?」


 1000万って大金だよね!?そんな一瞬で消えるの!?


<オペレーター>

『スワンは基本的に、我々トラストの間で流通する企業共通通貨『cnカネー』で報酬のやり取りがなされております。

 レートは、1万ユニオン円に対して、1cn。

 今回の任務ですが、全額前払いで50000cnの報酬が振り込まれております。たった1000cnなら既に払われていますはずなので、もう借金はございません。

 くわえて、依頼主から例のPLeX-W破壊報酬で追加で20000cnをいただいております。

 最初の任務ですので、弾薬費と修理費はこちら持ちですので、もうお金の心配はございませんね』


「‪……‬‪……‬くぅ〜‪……‬!!」


 え、私大金持ちじゃん!!

 やった‪……‬やったー!!

 じゃ、じゃああんな苦労して戦った甲斐があったんだね‪……‬!


 あ‪……‬まって、喜んでる場合じゃない。場合じゃないよ!?


「あの!!

 傭兵ってやめられますか!?」


 そうだ、今ならお金もある!

 危険な仕事する必要はないじゃん‪……‬!!


<オペレーター>

『はい。傭兵スワンを辞めるには契約解除金を支払う必要がありますが、できます』


「契約解除金‪……‬?

 いくらぐらいですか?」


<オペレーター>

『500万cnカネーです』



 ‪……‬‪……‬え?



「い、今なんて‪……‬?」


<オペレーター>

『契約解除金は、500万cnとなっております。

 ええと、参考までに、新人傭兵の一度当たりの報酬が10000cnから20000cn程度です』


「‪……‬‪……‬」



 私は、最悪な状態になっていた事にようやく気づけた。

 事実上、借金はもっと膨らんだに近い。

 500万cn。1万ユニオン円で1cnとかいう前提だと考えたくはない数字だ。

 それで‪……‬普通は1万cn稼ぐのがやっと?


 単純に考えて、こう言う事、500回やらなきゃいけないって事‪……‬?



「‪……‬‪……‬うぅ、嘘だぁ‪……‬!!」



 目の前が、真っ暗になる気がした。

 こんな戦いを、まだ続けなければいけない。

 ────長い。長すぎるよ‪……‬!



「うぅぅぅぅぅ‪……‬‪……‬なんで、こんなことが許されるんだよぉ〜‪……‬!!」



 私は、コックピットの中で蹲る。

 もうすぐ上のヘリコプターが、私を回収するのでもう動く必要もないので、遠慮はいらない。


 ‪……‬気分も晴れないし、空を見る。


 青空と太陽、


 今日は2回目の通過だっけか‪……‬


 、嫌味なぐらいいつも通りだった。


 青い空と、それを覆うバリアの光。


 外の危険地帯と、私達の住んでる場所の境目。見慣れた光景だ。



 あと何回見れるのかな?

 ‪……‬500万cn稼いで、気兼ねなく空を見れる日は来るのか、それともすぐにでも死ぬことになって、最後に見るのがこのいつものお空になるのかな?




「今日助かったの‪……‬素直に喜べないよぉ‪……‬!」



 そうして私は、

 私達の住む、このバリアの下の空を進む。

 まずは、帰るんだろう。もう家は売られちゃってないけど。


 ────新生活が、いやでも始まる。

 傭兵として、不本意ながら戦う生活が。







<機体AI音声>

『目標達成。戦闘システム、解除』







          ***

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る