MISSION 1 :世界は基本的に「死ね」と言ってくる






 私こと大鳥ホノカは、今お空から地面へ向かって落ちていた。


 全身金属の人型兵器、確か6mぐらいに高さもあるようなのならこうもなるよね?うふふ、笑い事じゃ無いよ。



「落ちてる!!落ちてるよ!?

 落ちたら死んじゃう!!死んじゃうのにどうすることもできないとかナシだよナシ!?!」



 人型兵器って、eX-Wエクスダブルっていうんだっけ!?名前も操作も覚えきれないよー!!

 パラシュートないの!?!このままじゃ地面に落ちちゃって潰れて死んじゃうよ!!


「はーっ、はーっ、なんだっけ、なんだっけ!?

 ペダルだっけなんかあったっけ!?!

 もうどうにでもなれーッッ!!!!」


 咄嗟に踏んだ左足のペダル。

 瞬間、ガクンとなんだかすごい衝撃。


 じゃなくて、減速してる‪……‬!?


 ガタン、という感じに、私の乗っているeX-Wが地面に着地した。

 脚は壊れていない‪……‬多分!


「何したの‪……‬何あったの‪……‬?」


 ハッとなって、目の前のモニターに映る情報に気がつく。



<ブースト:起動>



「ブースト?」


 なんだっけ?あ、あっ、思い出した!

 背中にロケットだかジェットだかのエンジンあるよ!!

 それだ!!


「そっか、それで減速でき、うわぁ!?!?」


 安心したのも束の間、ズドンとかいう音と衝撃が響く。



 ────すぐそこの場所で、下半身がぐちゃぐちゃになった私が乗ってるのと同じロボがいた。



<同行者1>

『嘘だ!?冗談だろ、なんで!?

 こう言うのって、オート操縦とか無いのかよぉ!?!』



「‪……‬‪……‬〜ッ!?!」



 改めて、ゾッとした。

 私が操縦しているこれは、オートみたいな機能は一切ない。


 私は運が良かったんだ‪……‬!!

 運良く、足りない頭で思い出せたから‪……‬!!


 そうじゃなかったら‪……‬そうじゃなかったら、あんな風に酷い目に‪……‬!


 いや、それですらまだマシだってすぐに分かった。


 ダダダダダッ!!


「うわっ!?」


 気がつけば、突然の夕立とか見たいな勢いで弾丸がこっちに当たってた。


「撃たれて!?

 まずいまずい動かなきゃ、右だっけ!?」


 右のペダルを踏む。

 途端、ガシャンガシャンしながら歩き出し────ってそっちじゃなーい!?!


「なんで敵の方に進んでるのぉ!?!

 あ、あ、ハンドルないの!?どこ動かすの!?!」


 パニクって、銃弾の雨を受けながらなんとか‪……‬結論から言うと、右のペダルグリグリ左右に動かして方向転換ができた。


「というか、なんでこんな撃たれて平気なの‪……‬え?」


 今気づいた。

 多分、ここロボの頭のカメラに映ってるけど、銃弾が空中でぶつかって落ちてる!


 なんだろう、私の乗ってるこれの周りに、なんか見えない壁‪……‬バリアみたいなのあるんだ!


「すご‪……‬ん?」


 で、今もう一個画面見て気づいたんだ。

 なんかね、数字と白いグラフっていうか、携帯のゲームでよくある体力のゲージみたいなの見えるの。



 5600 | ■■■■■■■■■■


 こんな感じのやつ。本当にゲームぽい。



 5600 | ■■■■

 



 それで────減ってる。すごい勢いで、ゲージが短くなってる。


 まさか‪……‬!!


 直感だけど、私左のペダルと右のペダル両方踏んだの。

 そしたら、背中からすごい力がかかってきて、乗ってるロボが前に動いた。

 前じゃない。右足のペダルを左に!


 建物───アレを盾にしなきゃいけない気がする!!


「なんかまずい‪……‬なんか分かんないけど当たり続けちゃいけない気がする!!」



 隠れる瞬間、あのゲージがゼロになって、バキンとロボ本体に銃弾が当たる音がした。

 画面の5600って数字だったものが、4897とかに減った。


<Eシールド:チャージング>


「いーしーるど?あのバリアみたいなの、限界があるの?」


 見ればあのゲージがだんだん、すんごいゆっくりだけど回復しているのが見えた。

 建物にバキュンバキュン弾丸が撃ち込まれてる。

 今は陰にいるから無事だけど‪……‬コレからどうしよう?


「‪……‬そうだ、降参すれば許してくれるかな!」


 もう、こんな戦い正直嫌だ。

 相手も人間なら、もう降参しますって言えばきっと‪……‬




<同行者1>

『うわぁ!?やめろ!!降参だ!!

 降参するから─────』



 ふと、無線に響く叫び声と爆発音。

 物陰から、ちょっとだけ機体の頭を出してみる。

 すごく直感的に細かい動作ができるのはすごいなって思ったけど、そんなことすぐ吹き飛んだ。


 ボボボボ‪……‬ガシャン!


 炎上するのは、さっき落ちて身動きが取れなかったあのロボット。

 周りには、銃口を向けてるあの鳥みたいな脚のMWがいた。


「ウソ‪……‬」


 なんで‪……‬?

 あの子、動けなかったはず‪……‬抵抗なんてしてないのに‪……‬!!


<無線解析:暗号化解除>


<敵通信傍受>


 ふと、画面に出てくるそんな文字。


<MW1>

『────良いんですか?コレ、新人スワンって奴ですよね?』


「え?」


 文字通りなのか、多分あの向こうのMWの声だと思う物が流れてくる。

 てかそんなことできるの‪……‬?


<MW2>

『スワンは、正規軍じゃない。傭兵、雇われの下請け、孫請でしかない。


 まして、『新人スワンみにくいアヒルの子』なんか捕虜にしたところで、引き換えの金も政治的要求もできん。

 せいぜい、こいつみたいに『実弾射撃訓練の的』にしてやるぐらいしかない』


 ‪……‬は?

 ウソだよね‪……‬何言ってるのこの人‪……‬?


<MW1>

『いやでも、若い女なんでしょ?

 ひん剥いて一発ヤってからってわけには行かないんすか?』


<MW2>

『下品な奴だな。そんな余裕があるような相手なら、まぁ弾速の節約にはなるがな』



 ────ああ分かった。今理解した。


 私達、きっと降参してもロクな目に合わないんだ。



「‪……‬‪……‬う、うぅぅぅぅ‪……‬!!」



 あんまりだよ‪……‬あんまりだよ‪……‬!!

 顔も分からない人の借金のせいで、突然戦場に送られて、突然戦わされるなんて‪……‬!!

 しかも降参もできない。あの名前も知らない子みたいに、私死ぬかもしれない‪……‬!!

 いや、最悪降参して命は助かっても、女の子なんだから酷い目に遭うかもしれない‪……‬その上で殺されるかも‪……‬!!

 てかなんだよあの男ども!

 近所のセクハラおじさんの方がまだマシだよ!!

 いや近所のセクハラ親父も死ね!!


「死‪……‬!」


 死ね。そうだよ。なんで肝心なこと忘れてたんだ。

 このロボ、私が乗ってるのは『兵器』だ。


 ようやく、移動にペダルばっかだったから忘れていたもの───両腕で掴んでいるレバーを思い出したんだ。


 右腕に、鉄砲が、ある。


「‪……‬死ね‪……‬」


 右腕に殺意を込めて、レバーを操作して殺意の塊を持ち上げる。

 人差し指だ。


「‪……‬死ね‪……‬!」


 人差し指に感じる冷たい感触。

 引き金だ‪……‬コレを引くんだ‪……‬!!


「ふぅー‪……‬死ねぇ‪……‬!」


 ピピッ、って音と一緒に、カメラの映像の中で丸い円が片方のMWに重なる。


「‪……‬‪……‬お前らが、」


 引き金を引いた。思ったより軽い感触。


「お前らが死ねぇぇぇぇッ!!」


 バン、っていう爆音と、衝撃が私にも感じる。

 なんか円錐状のものが、弾丸がまっすぐ飛んでいくのがスローに見える。


 バキン、ズドォン!!


 一発、あのMWの腕の代わりのガトリング砲っぽいものについた四角い箱に当たった。

 すぐにすごい爆発が起こって、あのMWが倒れる。


<MW1>

『上等兵殿!?』



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」



 2機目も逃がさない!

 人のことヤるとかいう奴に目の前の画面の円が重なった瞬間に、何発も撃った。

 多分、人が入っているところに数発当たった。そんな場所に穴が空いたから。


<MW1>

『ガァ‪……‬そ、んな‪……‬!』


「ふぅーっ、ざ、ざまぁみろ‪……‬!」


<MW1>

『────かあちゃん、仕送りできなくてごめんなさい‪……‬!』


「あ‪……‬」


 どさり、と私が殺したMWが倒れて、そして動かなくなった。


 ────無線傍受したせいで、聞こえた最後の呟き。

 なんだろう、普通ならなんてことをしてしまったんだ、って思うべきなんだろうけど、その‪……‬



 最後に、母の名前と謝罪をした相手の声。

 その声で、ようやく理解できたというか、ようやく心で分かったというか。



 初めて、人を殺したんだ。


 ああなんてことだろう。





 ─────案外簡単で、呆気なくて、そっちが申し訳ない程度にしか感じない。


「人殺し‪……‬

 案外、どうってことないんだな‪……‬‪……‬」



 かわいそうにねとは、多少申し訳ないとは思うけど、それだけだった。


 私は、やっぱり自分の親に借金をなすりつけて娘も苦しめる女の‪……‬そんなお母さんの娘なんだな‪……‬




 そう思う暇は、1秒もなくて、


 また、真横から衝撃がくる。



<MW3>

『味方2機やられたぞ!!』


<MW4>

『害鳥どもが!かたきを打つぞ!!』



「‪……‬そっか、戦場って、

 相手に慈悲をかける暇も無いんだね」


 なんだろう。冷たい感覚だけど理解してしまった。


 こっちは、必死になって2機倒せるぐらいの腕なんだ。やらなきゃやられるんだ。


「‪……‬ごめん。

 一身上の都合で死んで!!」


 私は、覚えたての銃の撃ち方と移動方法を駆使して相手へ撃ち始めた。


 バンバン、と数発、それで沈む。

 相手のMWはこっちの機体と違って、Eシールドっていう物がないらしい。


<MW3>

『ぐあ‪……‬ダメだ。装甲が違う‪……‬!』


<MW4>

『Eシールドだ!!まずはEシールドを減衰させるんだ!!』


 と、なんか今までのガトリング砲じゃなくて、四角い箱みたいなのが迫り上がってきたよ!?

 開いて、あっなんか出た!??


<ミサイルアラート>


「え!?ミサイルとかあるの!?」


 ミサイルはひゅるひゅる煙を上げながら、こっちに近づいてくる。


 まずい。反射的に私は、左右のペダルを踏んでみた。

 あの背中のロケット?ブースト??と脚でなんとか後ろに飛んで避けようとする。


 いや、なんとか一発目は避けれたよ!!


 のだけど、


<機体AI>

《エネルギー、残り30%》


「へ?」


 そんな機械音声が響いたのだった。

 何?エネルギー?なんの?



 ─────私は、ずっとみていたのに気が付かなかったことに初めて気がついた。


 目の前の、あのEシールドだかと、謎の数字のある表示。



  □□□□□□□□

 4388 | ■■■■■■■■■■



 なんか、真上に別のゲージがあるよ!?



  □□

 4388 | ■■■■■■■■■■



 そして、もうすぐ無くなっちゃうよ!?!

 何これ!?



<機体AI>

《エネルギーがありません》



 瞬間、必死に避けてた私の乗るこれの背後から力が抜けて、ドッスンと地面に着地する。


「あれ?あれ、ブーストは!?」


 左のペダル踏んでも何も反応がない。

 歩けるけど、なんで?何があったの?


 ピッ、ピッ、ピッ、


 そんな音が響いてるのに気付いて、画面を見る。


<機体コンデンサ:チャージング中>


 そんな文字と一緒に、あの気づいたゲージの部分が赤い色で少しずつ右に伸びて回復しているような様子があった。

 亀より遅いし、ミサイルはまだ一発きてるし、ああもう、もしかしてコレが回復し切らないとブーストできないの!?


「やだ、じゃあミサイル真正面から受けるって事じゃんか!?」


 よくみたらたくさん来てる!!

 まずい‪……‬誰か助けて‪……‬!!



<オペレーター>

『───聞こえますか大鳥ホノカさん!!

 今すぐ左手の薬指で押せるボタンを押してください!!』


「え!?」


 正直、本能的に動けたのは奇跡だった。

 言われて気づいた掴んでる操縦桿の薬指のところを押す。



<CIWS:起動>



 瞬間、このロボの胸の辺りからすんごい甲高い音と一緒に、弾丸が次々飛んでいってミサイルを撃ち落としていった。

 そういえばこのロボ胸にガトリングみたいなのついてた!


「何‪……‬しわすって読むのこれ?」


<オペレーター>

『あの!!聞こえていますか!?大鳥ホノカさん!!

 CIWSシウスが起動している間に歩いて物陰へ!!

 チャージング中は!!ブーストできません!!』


 すんごい大声なんだけど、もしかしてずっと私に話しかけてた感じ?

 あう‪……‬どうしよう、気づかなかった‪……!


 急いで、今度こそ指示通り、ロボの胸のCIWSを向けながら物陰へ。


「‪……‬あの、ありがとうございます‪……‬」


<オペレーター>

『あ、いえ‪……‬あの、ひょっとして聞こえておりませんでしたか?ECMは無いので、何か別の通信か通信傍受で私の通信の優先度を下げていましたか?』


「多分そうだと思うんですけど、よくわかりません‪……‬ごめんなさい」


<オペレーター>

『‪……‬無視されてるわけじゃなくて良かった‪です‪……‬』


 うぅ、と向こう側から涙声が聞こえてくる。

 申し訳ないけど、こっちも必死すぎたんだから、仕方ないよね‪……‬??


 というか、今も相手が撃ち続けてくる。

 あのガトリング砲にミサイルも。壁がなかったら死んでる‪……‬この建物の壁もそろそろ限界かも。


<オペレーター>

『‪……‬あの、あなたのeX-Wエクスダブルのチャージングもそろそろ終わるはずです。

 その上で、左手中指あたりに上下に動かせるスイッチはありませんか?

 切り替えていただければ、反撃手段が使えます』


「!すっごいありがたいです!!」


 と、言われたので、探ってみたらたしかにそんなスイッチがあった。

 パチンと切り替える。


<ミサイル:起動>


 ‪……‬なんだって!?ミサイルこっちにもあるの!?あ、あったか!!忘れてた!

 なかったら、なきゃ、画面にそんな文字出ないよね?


<オペレーター>

『次に、機体を壁側に向けて、左右どちらでも良いので、親指で押せるボタンで一番外側の、自分の体のある方向と逆にボタンを押してください」


 よし、と言われた通りにそうする。

 なんで無視してたんだろってぐらい重要な情報だよきっと!



<リコン:オンライン>


「リコン?」


<オペレーター>

『リコンは、機体に取り付けてある自立型無人探査機です。

 今恐らく機体後方から射出されて、機体上方に到達後、情報を送ります。



<リコン:情報を同期中>


 突然、画面にそんな文字と、動画読み込み中のあの丸い表示が出てくる。


 そして、壁の向こうに敵が青白い線で重なって映し出された。距離付きで。


「敵が壁越しに!?」


<オペレーター>

『そのままミサイルをロックして、物陰から出た瞬間に放ってください。

 あなたの視線を敵に向けるイメージで、自然にロックオン出来るはずです』


 え?ここに来てそれってマジ?

 ────マジだ、今一体に丸い円を重ねることできた!


<オペレーター>

『ここまで、あなたは移動などはある程度ペダルでやっていました。でも細かい動作は?どうやっていましたか?

 傭兵スワンが、女性しかいない理由。

 あなたのパイロットスーツに搭載された、脳波コントロールシステム、それはなぜか女性にしか上手く扱えません。

 解剖学的に男女の脳が違うという話は事実ではないらしいですが、もしかしたら本当は違うのかもしれないですね』


「なんだって良いや‪……‬これでどうにか出来る!!」


 ようやく、エネルギーのところのゲージが満タンになった!


 私は、上手く円の重なった敵を見ながら、建物から飛び出す。

 多分左指のトリガー、押せば!


 ボシュウッ!!


 ミサイルの後ろから白い煙の尾を引く様子と、すぐに相手へミサイルが直撃して爆発するのが見える。


「よし!」


 じゃあ次‪……‬ロック遅い!?ミサイル狙うの遅いじゃん!じゃあ‪……‬!


 右手に切り替え!銃で倒した方が早いっぽい!!

 数発撃ち込んで、もう一機も爆発するのが見えた。


「やった‪……‬!」


<オペレーター>

『────まだです!

 まさか、そんな物までここに!?』



 へ、と訳が分からない言葉が聞こえたと思ったら、煙をかき分けて、何かが二つやってきた。


 私のきってるヤツみたいな人型、脚の下と後ろにキャタピラがあるロボだ!!


<オペレーター>

『ウェアウルフ!?なんで、バーンズアーマメンツ社製主力MWがこんなところに!?』


「なんかやばいヤツ!?」


 とっさに右腕の銃を撃つけど‪……‬弾かれた硬い!?


<オペレーター>

『いけません!バーンズ社製品は実弾防御力が高いんです!!

 すぐに逃げて!!あの拳にあたっちゃダメ!!』


 いってる間に近づかれた。


 しかも、その拳とかいう、あたったら痛そうなの構えてる!?





 やだ、コレってまずいヤツだ!


 死んじゃうの、私!?





          ***

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