敵国の王城に忍び込み王家の秘宝、魔剣グラムを奪え!

冴木さとし@低浮上

第1話 魔剣グラムと奴隷兵と奴隷王

 サンクチュアリの国王から軍事国家アルタリアの王城に忍び込み秘宝である魔剣グラムを奪ってこいというミッションがあった。


 誰一人としてそんな馬鹿げたミッションを受けようなんて人はいなかった。そのミッションは3年も前から多くの失敗者をだし、ギルドの掲示板に貼られたまま現在ではその羊皮紙は色あせてしまっている。


 相手は軍事国家で対するこちらは交易都市。


 戦力に特化できる軍事国家と人と人との交易がメインの国家とではかけるお金の優先度が違いすぎる。


 戦いに明け暮れる国アルタリア。覇権を許してしまう大きな原因が秘宝の魔剣グラムの存在だった。


 魔剣グラム、伝説に名を残す魔剣だった。怒りを具現化したような名剣とも伝えられてもいる。その力は憤怒ふんどの炎をまき散らし、この世の全てを焼き尽くすとさえ言われている魔剣だった。


 アルタリアの国王、ファフカル・アウス・シュナイダーにしてみれば生き残った者を奴隷にして戦わせるので問題ない。


 死の国となっても生き残った奴隷を酷使して再生させればいいと、アルタリアの国王であるファフカルは考えていた。


「何をするにも奴隷を酷使しろ。金を使うな。死んでも他国を魔剣グラムで焼き払い、新しい奴隷を作ればいい」


とファフカルは笑って答えたと言われている。


「お前は奴隷だって人間だとは言うが、人はそこに一杯いるじゃないか。お前には見えないのか? そこの奴隷候補の人間たちが」


と笑いながら酒を飲む。

  

 奴隷兵をやめるべきだと死ぬつもりで勇気を振り絞って、王に苦言を呈した部下に真顔で


「人と奴隷と何が違うんだ? どっちも奴隷だろう。奴隷になったものとまだ奴隷になってないもの。たったそれだけの違いだ」


とファフカル国王は答え、


「奴隷ごときそんなものだから真剣に考える必要があるのか?」


と真顔で答えるそんな王だった。


 だが焼き尽くした国土は2分1。その全てを手に入れて奴隷をさらに酷使してますます勢いに乗っていた。


 こんな王だ。反乱は数知れないほど起きた。その度に魔剣グラムの憤怒の炎は反乱軍を血祭りにあげた。


 このままでは世界がこのファフカルの思い通りになってしまう。自分たちには関係ないと思っていた離れた国の者たちも無視できなくなっていた。


 そんな時にでたのが軍事国家アルタリアから秘宝魔剣グラムを奪えという交易都市サンクチュアリのハウスター国王がだしたミッションだった。


 破格の報奨金は10年を遊んで暮らせる程の額だった。挑戦したものはサンクチュアリに二度と帰ってこなかった。


 それが3年前だ。

 

 それでもファフカルは止まらない。国土統一を目指し進撃を続ける。そして奴隷兵とそのしかばねを数えきれないほど積み上げてできた軍事国家、それがアルアリアという国だった。


 そして人を奴隷としか見られないという皮肉を込めて奴隷王ファフカルと呼ばれた。



 情報統制は徹底的。裏切りの密告には報奨金を支払うと約束していた。民と民が疑いあう状態で密告があって家族全員が粛清されるのが日常茶飯事。疑いがあるだけで粛清された。


 その暴政、暴走、粛清をみているしかないのが魔剣グラムの憤怒の炎という存在だ。


 だから魔剣グラムの奪う。それができれば、まさに最強最悪の軍事国家アルタリアのファフカル国王を倒すこともできるのではないか。



 僕はシグライザーという冒険者。ギルドで掘り出し物の依頼はないかなと時間をつぶしていた。僕はそんな軍事国家アルタリアの今までの歴史を思い出しながら、ギルドでずっと貼られて色あせてしまったミッションの依頼書を見ていた。


 バンッ!と扉が開く。その音がした方を見ると僕がいつもお世話になっている「ウマい亭」の店主、ガイツだった。きょろきょろと周りを見回し、僕をみつけて駆けよってくる。


 あまりの勢いに「どうしたんです?」と店主のガイツに話しかけると、よほど慌ててきたのか水を一杯飲みほしてから


「娘のミスランがアルタリアの兵士に逆らったとして、無理やり軍事国家のアルタリアに連れていかれた!」


と叫んだ。その発言を聞いてギルドはハチの巣を叩いたかのように大騒ぎになった。

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