Ch. 06 楽器編成とフレージング

 あ、そうそう。

 アレンジとミックスは実はとても密接で、アレンジが悪いとミックスもうまくいきません。

 なぜでしょうか。

 それには各楽器で使われる周波数帯域が大きく関わってくるからなんですよね。

 では、今回はアレンジについて少々語ることにします。

 

 まず、あらゆる楽器が同時にずっと鳴っているとごちゃごちゃして各楽器の音が立たないというのは何となく想像できると思います。

 オーディオデータの中に詰め込める音量ってもちろん限度というか容量ってもんがありますよね。

 どんなに音を大きくしても0db以上に入れられないという制限があります。


 たとえば、声だけが鳴っているのであれば、声の音量レベルをいっぱいまで上げればいいわけですが、そこにピアノを入れたいとします。

 ところがすでに声だけで音量的にはもう目一杯です。ピアノを足したら0dbをオーバーしてしまいますよね。

 ということは、声とピアノを合わせて0db以内に収まるようにバランスを取りつつ、音量を抑えないといけないということになります。

 これがたくさんの楽器によるアンサンブルになれば、より一層各楽器の音量を絞っていかなくてはならなくなるわけですよね。


 さて、困ったことです。

 まともなアレンジャーであれば、当然そうしたことを念頭に置いてアレンジしていきます。

 それには主に、楽器編成とフレージングが深く関係しています。


 アレンジをする上でどんな楽器編成にするかは音楽の設計上とても大切なことなのです。

 しばしばこのお話の中では周波数帯域のことが出てきますが、ここでもその話です。


 周波数帯が重なる楽器ばかりで編成されていたとしたら、特定の周波数帯のバケツはあっという間に満杯になってしまいます。

 なので、アレンジをする時には上から下までなるべく重ならずまんべんなく帯域を鳴らせるような楽器編成を考えます。


 ベースがあってギターと鍵盤があったとしたら、たとえばギターでハイコードのカッティングが鳴り続けている場合、鍵盤はベースとギターの中間の音域を弾くという具合ですね。

 そうすることによって、自ずと各楽器の音が立って聞きやすくなるわけです。ミックスの観点からもちょっと被っている帯域を削ってあげればよいという感じで好ましいと言えます。


 もう一つ、アレンジで考えておかなければならないのがフレージングです。

 どの楽器でどんなフレーズを弾くのかということはもちろん大事なのですが、音量(もしくは音圧)的な観点からも配慮が必要です。


 一般的に、音楽で一番重要なのはメロディだと考えられます。

 まず基本として、メロディには隙間を作っておくのが望ましいです。なぜなら、その隙間を縫って楽器が奏でるフレーズが鳴るのが効果的だからです。


 メロディのワンフレーズから次のフレーズに移る間に、ギターのリフであるとか、ホーンのキメのフレーズだとか、そういうフレーズが入れ代わり立ち代わり入ってくるようにするのです。

 ザックリ言ってしまうと、隙間に鳴らす。これが大事です。

 他の音が鳴っていない隙間に音を鳴らすわけですから、その分音量的にも突っ込むことができますよね。


 入れ代わり立ち代わり魅力的なフレーズが鳴ることで、音楽は万華鏡のような輝きを得ることができます。相対的に音を大きくすることもできて、各楽器の音がよく聞こえるようになります。


 もちろん、持続的な音にもそれはそれの魅力がありますから、要はバランスです。

 すべての楽器が持続音でベターッと鳴っているという状況は、音楽の魅力の面からも、音量的な面からもよろしくありません。


 楽器も打楽器や打弦楽器系は音が減衰しますが、ストリングスやホーン楽器は持続系ですよね。

 なので、ストリングスとホーンの両方を使う場合には、工夫が必要です。


 たとえばストリングスが白玉(譜面にした時に音符が全音符だと白玉になりますよね)的に鳴っているところでは、ホーンは切れよく動くフレーズを奏でるとか、ホーンが白玉の時にはストリングスが動くとか。

 そういった工夫が効果的ですね。


 ミックスで解決できる問題としては、同じ帯域の楽器を同時に鳴らす必要がある場合に、左右に振るという事も考えられます。

 今どきはほとんどの音源がステレオミックスなので、左右に振ることで帯域に余裕が生まれて音を大きくすることができます。つまり、その楽器が埋もれずによく聞こえるようになるということです。


 そうした観点から、最近はMS処理というものがマスタリング時に行われるようになってますね。

 これは音量、音圧、EQをMIDとSIDEに分けて行う処理のことを指す言葉です。


 ステレオ音源ではとかくセンターには重要な音源が集まりますし、帯域が被りがちになります。

 その結果ボーカルやベースが埋もれてスッキリ聞こえないといった弊害が生じたりします。

 MS処理はセンターにだぶついている帯域をスッキリ削って、その結果としてサイドの音源もくっきり、ボーカルもくっきりという効果を生むのです。


 ま、MS処理はアレンジと言うよりエンジニアの部分ですがね。

 先程言及したステレオミックスの件など含めて、アレンジャーとしてはそれを知っていれば両サイドにギターのカッティングとアルペジオを振り分ければいいなとかいうアイディアも出せるわけです。


 単純にメロディメイカーとしての作曲家であれば、そこまで考える必要はないのですが、DTMで最後までやる作曲家の場合、エンジニアリングの基礎知識はアレンジ全体の質にまで影響を及ぼす重要なファクターとなってくるわけです。


 小難しいこと言ってますが、意外に重要。

 いかにも素人くさいDTM作品と、おっと思われるクオリティの作品との差は、こういうところにもあるのかもしれませんよ。

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