第3話 屋敷

 大勢に囲まれ驚いたが、冷静さはだんだん取り戻していった。

 熱が出て、記憶が混乱しているというふうに装った僕は、医者を呼びに行ってくれたメイドに話を聞くことにした。


 この展開、僕なんか見たことある気がするな。

 湯治原翔人もとい僕、カイム・セルトファディアは、何とか王国の貴族、セルトファディア家の三男らしい。

 まだ二歳だが、言葉の発達が早く、通常の会話は可能。

 転生先、結構いい気がする。嬉しいな。


 そして最重要なこと。

 そう、この世界には、生まれつき持っているスキル(発覚するのは五歳)、血筋で発現する家系スキル(魔力量が多い一族に発現、発覚するのは、これも五歳)、魔術(血筋、努力で左右される)がある。


 魔術は基本、四大元素で、派生魔術がその他たくさん。発現は個人差があり、五歳で発現すれば、神童レベルらしい。

 つまりこの世界は、五歳で運命が決まる。

 どんなに使い物にならなくても、八歳までは家に住まわせてもらえるそうだが、それ以降は、良くて辺境の地へ左遷、悪くて死だ。

 何処でも、実力主義なのだ。


 幸い、僕にはまだ三年の猶予があるから、左遷されるレベルまで、落ちこぼれることにしよう。

 落ちこぼれといっても、知識は必要だと思う。なんだかんだ将来役立つのが知識だ。八歳までの命でなければね。


 僕は、書斎に閉じこもり、読書にふけることにした。

「書斎の場所がわかんなくなっちゃったから、教えてくれない?」

 僕の甲高い声は、僕の部屋に響く。


 僕の部屋は、職員室くらいの大きさで、家具がすべて大きい。

 フカフカのベット、敷き詰められたパステルカラーのカーペット、大きな窓。

 一見、異世界の部屋に見えないが、部屋から一歩出れば、印象はガラッと変わる。


 僕は、メイド(ピーノというらしい)と手をつなぎ、部屋から出る。

「はい、行きますよ。あまり無理はしないでくださいね。また倒れてしまったら、ご家族の皆様が心配されますよ」

「はーい、気を付けるよ」

 僕をなだめるようにピーノは言う。所詮僕は二歳児なのだ。


 部屋の外は、赤いカーペットに石灰の白い壁、金色の装飾品。うっ、目が眩んじゃう。

 僕たちは、曲がってすぐの階段を登る。体が小さいから、一段一段が大変だ。

「はぁはぁ」

 たった二十段の階段も、登るだけで息が荒れてしまう。

「もう少しですから、頑張りましょうね」

 優しい声で、ピーノは僕の頭を撫でる。


 ここ十五年は、上司のパシリだったから、嬉しい気持ちで胸がいっぱいになる。

「えへへ」

 思わず言ってしまう。

 僕は、頬が緩むのが我慢できなかった。

「まったく、大袈裟ですね。さて、行きますよ」

 少し強引ながらも、僕の手を引くピーノ。

 やっぱりちゃんと、自分を見てくれている気がして、嬉しいな。


 そんな思惟に耽っていたら、書斎にすぐ着いてしまった。

 ピーノが扉を開ける。

 僕は、ピーノの手を振り払うように離し、隙間から書斎に駆け込んでいった。

 

 

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