第1話 転生

 ノーストレスバージョンに一話1000文字のところを二話で1000文字に改良したものがありますので、読みたくない方はそちらへ。


「先輩、飲みに行きませんか?」

 後輩は僕に飲み会の誘いをかける。


「あぁ、ごめんね、僕は少し残業して帰るから。今日は遠慮しておくよ」

 ハゲ中年上司から押し付けられた仕事を終わらせないと、僕は帰れない。


「そうですか、手伝えることが無くてすいません」

 後輩は、僕にすまなそうに言う。

「いや、大丈夫だよ。楽しんできなよ」

「では、お先に失礼します」


 その後輩を飲み会に誘ったであろう、ハゲ中年上司は、僕を見るなり、仕事はきちんとやるのだよ、とか言ってくる。

 いや、そっくりそのまま返してやりたいよ。

 後輩と、数人の社員は、上司の後について、オフィスを出ていく。


「さて、終わらせますか」

 独り言で、自分を鼓舞する。

 数人、残業をしている社員はいるが、協力してやるような仕事ではない。

 よし、余分なことを考えずに、集中しよう。


 集中が効いたのか、残業は案外すぐに終わった。

「ふぅ、帰りますか」


 僕は、リュックにノートパソコンや、ペンケースを詰め込み、背負う。

 まだ、残業している社員はいるが、気にしているとキリがない。

 正直申し訳ないと思うけどね。

「じゃあ、先に失礼します。お疲れさまでした」

 僕は、挨拶をしてから、すぐにオフィスを出る。


 この会社は、駅から、歩いて五分のところにあり通勤に楽だと思い、入社したものの、自己肯定感が低い僕は、いいように上司に使われる毎日になってしまった。

 ついでに後輩にも舐められ、仕事は押し付けられ、残業の日々。

 趣味に耽る時間も少なくなり、正直、この会社を辞めようと思っている。

 なんて、上司に言い出せるわけないけどね。


 僕は思惟に嵌り、駅についていたことを忘れていた。

 最終列車のアナウンスが流れる。

「あぁ、急がないと」

 階段を急いで登り、リュックについたカードホルダーのICカード乗車券を改札に通す。

 ホームまで続く階段を走る。


 電車が走り出す音がホームに響く。

「間に合わなかったか」

 今日はやけに落ち着いている。

 下に戻ってタクシーを呼ぼうと思い、階段の下へ踵を返そうとする。


「あれ?なんで、前に進んでいるんだ?」

 僕の足は勝手に階段を登っていく。

 僕の意思は無視されて、どんどん登る。


 今日は電車が来ない、ホームについてしまった。

 急に体がフラッとし、慌てて近くのベンチに腰を下ろす。

「そうか、僕疲れてたんだ」

 自分の体の状態すら今さっきまで気付いていなかった。


 異変に気付いた体に、急に眠気が襲ってくる。

 もう、抵抗するほどの気力は残っていなかった。

 僕は、睡魔に身を任し、今日を終わろうとした。


 目覚めた僕は、目を擦りながら、体を起こす。

 開けた白い空間が、僕を包む。

 意識はまだ朦朧としている。


 駅で、一晩過ごしてしまったと思った僕は、頬をたたき、眠気を覚ます。

「あれ、ここ、何処だ?」

 僕は、知らない空間に居た。

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