召喚された異世界でエクスカリバー(?)を手に入れたのに、勇者=生贄だった!〜最終的に僕を勇者にしてくれたのはラスボスのはずの竜王でした〜

葉月いつ日

異世界召喚

 僕の名前はカイト・スガワラ。


 この異世界ではそう呼ばれているけど字ズラだけでわかる通り日本人で、漢字にすれば【菅原海斗】となる。


 そんな僕は現在、この世界の悪の権現とされる竜王と絶賛戦闘中で、今まさにクライマックスを向けえるところだ。


 が……


 戦っているのは僕ひとりだけで、パーティを組んでいた連中は何処にもいないし、恐らく援軍も来ないだろう。


 身の丈30メートルもありそうな巨大な竜王と対峙し、四天王と呼ばれる炎を纏ったサラマンダーに真っ青な胴体のリヴァイアサン。9つの頭を持ったヒュドラに前足が翼のワイバーンに囲まれて逃げ道は無い。


 それでも僕は満身創痍になりながらも王様から貰った【エクスカリバー(?)】で凌げている。


「クッソ……やられてたまるかぁぁぁっ!!!」




 召喚される前の日本ではしがない高校2年生だった僕が、この世界では勇者に祭り上げられ竜王討伐に赴く事になった。




 時は二週間前のこと。


 土日をオンラインゲームのイベントに費やし、ランキング目前で仲間が寝落ち。バイトで代で揃えた装備虚しく、結果ランク外に。


「はぁ……休みたい、寝たい、なぁんにもしたくない……」


 鬱々とした気分で登校している矢先、家の近くの交差点で横断歩道を渡っている最中にぶつかった。


 ……っと言ってしまえば人や自転車や車を想像すると思う。けど、僕の場合は違った。予想外の物で驚愕だったけど、僕は本来有り得ないものにぶつかってしまっていた。



 それは、直径二メートル程の青白く輝く魔法陣だった。



 色んな記号や見たことの無い文字が大きな円形に規則正しく羅列された魔法陣。この二日間で何度も同じような物をモニターの中で見てきた。


 それが実物の物となって目の前に現れたのだ。


「えっ? 何これ? マジかぁ……」


 ってか、魔法陣って地面に展開するものじゃなかったっけ? そこから召喚獣とかが出てきたりとか?


 現実的にも知識的にも有り得ないその光景にただただ唖然としていると、突然その魔法陣が強烈に光始める。


 とても眩しくて、しかも結構な熱量を全身に浴びた僕は強く目を瞑り、身構えた。けど、突然引っ張られるように身体が動く。


 そこからどうだろう? 五歩ほど歩いたというか、惰性で足が動いたと言うか。気が付けば外国のお城にある大広間みたいな場所に立っていた。


 まぁ実際に外国のお城に行ったことも無ければ見たことも無い。あくまでゲーム内の景色だけのイメージなのだけど。


 そこには数名の人間がいて、どの人も中世の……と言うよりは、これまたゲーム内で度々目にする魔道服や貴族風の衣装を纏っていた。



 その瞬間、僕は悟ることが出来た。これは異世界召喚なのだと。



 僕の目の前では召喚術士らしい男性が召喚術で体力と魔力を激しく消耗したみたいで、両手を床に付けて動悸を抑えつつ僕の方を見ている。


 それ以外の人達は喜びに沸き立ち、興奮しすぎているのか男性同士で抱き合っている人達もいるし。




 その後は腫れ物に触るような扱いで別室に連れられ、大臣のような方々に囲まれ様々な説明を受けた。


 この世界の大半は砂漠である事。居住できる土地が少なくて人々が困っているらしい。更に土地を求めて隣国との戦いが頻繁に起きているとか。



 そして、最大の懸念が竜王の存在なのだと。



 竜王は【世界の屋根】と呼ばれる山脈に住み、やってくる人間達を尽く葬っているらしい。


【世界の屋根】とはこの世界の四つの国に面しているらしく、人々が暮らすには最高の環境だともいっていた。


 そこを手にするには竜王の存在が邪魔だとか、他の国に先を越される訳にはいかないのだとか。最後にはその場所の主権争いに負けたくない気持ちがヒシヒシと使わる口調だった。


 この世界ではその昔、魔王が君臨していたらしく、その魔王を討ち滅ぼしたのが異世界から召喚した勇者だったとか。


 身振り手振りで必死に話しているけど、わざとらしさ満載で信憑性に欠けるのだけど。


 でもまぁつまり、竜王に対抗できるのは勇者だけだと言うことで他の国も競うように勇者の召喚をやっているらしい。


 なんともラノベ的な展開なんだけど、実際に召喚されたのが僕だった。で、僕が勇者?


 いやいや確かに異世界モノの小説なんかじゃお決まりのパターンなのかもしれないけれど。でも、実際にそうかと言われると戸惑いはハンパない。


 現実的問題として僕は運動が苦手だ。勉強の方はそこそこかも知れないけど、とにかく身体を動かすのは大嫌いだし。


 とにかく汗をかきたくない。を、モットーにして日々生きているくらいだ。


 と、言いたいところだけど大臣達の切々な訴えに言葉を発せないでいると、突然部屋の扉が開いた。そして、この場にいる誰よりも煌びやかで恰幅の良い見た目傲慢そうなおじさんがやってきた。



 十中八九、王様なのだろうと想像出来るしビンゴだし。



「おぉ!ソナタが他の世界より来られし勇者殿か!随分と貧相な着衣を纏っておるものだな」


 等と失礼な事を誰よりも大声で言う王様。


 まぁ、確かにこの部屋では一番地味な服装なのは自覚している。


 僕の世界は現在七月初旬で、召喚前は登校中だっただけに上はカッターシャツに下は制服のスラックス。地味な黒のスニーカーに通学用のかばん……は無かった。


 まぁ、無いものは仕方ない。だけど、せめてスマホでもあればこの世界を動画や画像の保存が出来たのにと思うとちょっぴり残念には思う。


「あ……いえ……どうも」


 元より対面で人と話すことが苦手なもんだからそんな返ししか出来なかった。けど、それでも王様は満面の笑みを浮かべてくれていた。


 見た目通りの器の大きな人物なのだろうか? 傲慢が服を着たような感じなのどけど。

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