第34話 佑司君の好きな人

「……だ、だからさ! もう一度なってよ、僕の好きに……僕の大好きにもう一度なってよ!!!」

 上手い言葉が思いつかなかったのかもしれない。

 本当にそう思ったのかもしれない。

 逃げたかったのかもしれない、この空気から逃亡したかったのかもしれない。


 真相は自分の中でもわかんないし、こんな事言って、結局……自分の最低で、ゴミクズで、ダメな奴だとは思うけどでもそんな言葉が自然と洩れて。

 僕の胸をぽかぽかと寂しそうに叩く工藤さんに向かって、そんな言葉を投げかけて。


「……え? え? え?」

 そんな僕の言葉に工藤さんは目を丸くして僕を見上げる。

 うん、意味わかんないよね、でも、その……ええい!


「だ、だからさ、えっと……今の工藤さんの事は僕は好きじゃないけど、でも、だから、あの……と、とにかく今の工藤さんの事は僕好きじゃないんだ! 今の工藤さん のその……性格とかあんまり好きじゃないんだ」


「え、性格!? なんで、私やったよ、佑司君の好きなように! 佑司君、好きなんだよね積極的な女の子が! 積極的で引っ張ってくれてましゅまろボディの女の子が好きなんだよね!?」


「……それ間違ってないけど、間違いだよ。誰から聞いたかわかんないけど、それ間違い。色々間違ってる」

 確かにちょっと積極的な女の子は好きだけど。


 でも僕が好きな積極的ってのは趣味とかそう言う好きなことに一生懸命というか、そう言った感じのニュアンスで……だから引っ付いて来たり、強引に迫ってきたりとかそう言う感じのじゃないんだ。

 そう言う感じはあの……ちょっと恐怖感じて、怖くなっちゃうから。だから、その苦手です。そっち系の積極性は苦手なので、あの……ごめんなさい。僕ちょっと文科系のお清楚な感じの方が好きなんです……斉川さんみたいな。


 あ、あとマシュマロボディ好きとかムチムチ好きとかそう言うの言ったことないし、あの医務室の先生が勝手に言ってるだけだし! 

 いやまあ嫌いじゃないけど、その……自然体な方が好き! 自然体な女の子が僕は好き、そう言う女の子が好き! 


「……嘘ついてたの? ねえ佑司君嘘ついてたの、私に? 嘘ついて私騙してたの? 嘘ついて、バカな奴だな、って笑ってたの、私の事?」

 キョトンとした顔で僕の方を見ていた工藤さんが、またキュッと目の力を強めると、漆黒のオーラをまといながらずいずいと僕の方に寄ってくる。


 怖いな、ちょっと……いや、大丈夫! 大丈夫大丈夫!

「いや、そう言うわけじゃなくて……あの、言ってないし僕! さっきも言ったけど、それ医務室の先生が勝手に言っただけだから! 僕あの時言ったの、そんな言葉じゃないし! あの先生が勝手に言っただけだし、確か!」


「そんなわけないじゃん、あの先生が嘘つくメリットがあるわけないじゃん、どこにもないじゃん! 意味わかんない、嘘つかないでよ本当に! そんな嘘何も嬉しくない、私の事バカにしてるでしょやっぱり! 今度はふざけて、ホントは言ってるのに……そんな言葉いらないって! 面白くないよ、もう! 何なの、佑司君! そんな事言わないでいいよ、何なの!!!」


「いや、その確かにそうだけど……いや、本当に言ってないんだって! どれだけ思い返してみても、どれだけ考えてみても言ってない、そんな事言ってない! そんな事言った記憶ないもん、僕!」

 なんかあの先生が勝手に気持ち代弁する! みたいな形で言われた覚えはあるけど。

 でもそれだけ、僕が言ったのは……確か話してて楽しい優しい子、とかそんなんだった気がする。今と好み変わってないだろうし、そんな事言った気がする!


 僕に噛みつきそうな勢いでガルルと唸っていた工藤さんだけど、僕の話を聞くたびに徐々に落ち着いて行って。

 昂っていた気持ちとかそう言うのがスーッと落ち着いたみたいに、スンと悲しそうな表情を取り戻して。諦めた様な観念したような青い表情になって。


「……本当なの? それ本当なの? 本当にそんな事言ったの、私が聞いた話とは違うの? 私はずーっと騙されてたピエロだったの?」


「……そう言うわけじゃないけど、でも言ってないもん、積極的な女の子が好きとか、そう言う話……だからその言ってない」


「……そっか、そうなんだ……じゃあ私の努力とか、そう言うの全部無駄……やっぱり佑司君私の事嫌い……私ずーっと自分の事を嫌いな相手に……」


「で、でも! その、えっと……話しかけてくれたのとかすごく嬉しかった! 入学式の日、僕すごく不安だったし! 友達出来るかなとかそう言うので不安だった……そ、そこで話しかけてくれて嬉しかった! 工藤さんが話しかけてくれたから、僕、その……高校生活も楽しくなりそう、って思えた! だから、その……無駄とか馬鹿にしてるとか、そんなんじゃない! すごく嬉しかったから! だから、えっと……とにかく嬉しかったし、ありがとうなんだ!」

 文脈とか話の流れとか、これでいいかとか全然わかんないし、間違ってるとしか思えないけど。


 でも、その……工藤さんが自分の努力無駄とか言うのは違うから! そう言う自分を否定すること言うのは絶対違うから、だからその……違う! 

 ありがとうだよ、工藤さんの性格とか怖かったけど、でも……ありがとうは素直な気持ち! この気持ちは素直な気持ちだから! 嬉しかったもん、あの時、すごく! 


 嫌いでもないし、全然! 好きじゃないけど、でも……嫌いじゃないから!


「……何それ。佑司君は私の事、バカにしてたんじゃないの? 嫌いな女だって、バカな女だって思ってたんじゃないの? 嫌いなのにべたべたしてくる嫌な女とか思ってたんじゃないの?」


「そんな事思ってない! その、確かにちょっと怖かったけど……でも、そんなところまでは思ってない! 嫌いとかバカとか、そんな事思うわけないし! だって、その……友達としては嬉しいもん、工藤さんの事」

 工藤さんは友達としてならすごく楽しいし。

 普通に話すときとかそう言うのはすごく楽しいから! だからそんなに自分を卑下しないで、そんなこと思ってる人いないから!


「……意味わかんない、やっぱり意味わかんない……でもなんか嬉しい。ありがと、佑司君……やっぱり佑司君は優しいね……ねえ、佑司君」

 ダウナーに悲し気に話していた工藤さんの表情が優しいいつもの表情に戻る。

 そしてその顔で僕の方をまっすぐ見上げて……どうしたの、工藤さん?


「あのさ、その……さっき言ってたよね、もう一度大好きになってって、佑司君の大好きなってって……佑司君言ってたよね」


「うん、言ったよ……うん、言った」


「……頑張るね、私。やっぱり佑司君の事大好きだし、絶対に諦められないし、佑司君以上に好きな人とか見つけられる気がしないし……だから、頑張る。佑司君に好きになってもらえるように、私の事好きって言ってもらえるように……私頑張る」


「……うん」


「だからさ、教えて佑司君の大好き……私佑司君のためだったら頑張れるから。佑司君の大好きになれると思うから……だから教えて、佑司君の大好き。頑張るから、そこに近づけるよう……だからその時は私の事、大好きになってね」

 グッと僕の方を見上げながら。

 まっすぐな笑顔で、揺るがない笑顔でそう言って。


「……わかった。わかったよ、工藤さん」

 だから僕はそれに頷いた。

 工藤さんには……ずっと勘違い、しといて欲しくないから。




 ★★★

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 次回一旦最終回になるかもなるやも。

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