第20話 ゆっくりお料理タイム

「……で、それで今日は楽しみましょう! それじゃあ次は料理のコツと注意点の説明です! お願いします!」

 大雨の中、始まるの合図の教頭先生の声がマイク越しに響く。

 マイクの音量MAXなせいで死人が出かけたけど、死んでないのでセーフ。


 周りに青い顔の人はいっぱいいるけど、気にせずに3人の先生が楽しそうにせっせと壇上に上がってマイクを持ってまた声を張り上げる。

「はーい、みんなこんにちは! 保健室の先生の斎藤ダリアと!」


「こんにちは! 家庭科の福田茜と!」


「みんなおはよ~! ご存じみんなの副担任、社会科の中竹穂乃果のぉ~!」


『仲良し同期3人組でお送りします! ママレード&シュガーソング ピーナッツ&ビターステップ甘くて苦くて目が回りそうです~!』

 3人の自己紹介を終えるとそのまま肩を組んで血海戦線。


 ズバズバ言うけど美人で笑顔がステキな保健室の斉藤先生。

 可愛い系で天然で少し危なっかしいけど、そこが人気な家庭科の福田先生。

 おっとりほわほわしていて安心する、ゆるふわ美人なみんなの副担任中竹先生。


 この学校で男女問わず人気のある3人の女の先生は同期(確か26歳?)とかですごく仲がいい。入学歓迎会みたいな時も3人で何かやってたし。


 そして美人でスタイルも抜群なため特に男子人気が素晴らしく、今もさっきまで青い顔をしていた隣の竜馬と日向が「ダリアちゃーん!」とか「せんせーい! もっとやってー!!!」というような黄色い声援を送っている……そしてわき腹をぎゅっとつままれている。


 僕? 僕は福田先生が一番好きかな……この人一個上の先輩と付き合ってる、って噂あるんだけど。生徒と付き合ってる噂あるけど。


 歓声が上がる中、先生たちは「ありがと~!」とこちらに手を振った後こほんと咳払いして話始める。

「それじゃあ今日はカレー作りの解説をしていくのぜ」


「よろしく頼むわ」


「た、頼むみょん!」


「まずは包丁の使い方の解説からだが」


「待ってダリア! ここは家庭科の先生の私に任せて頂戴!」


「茜も待つみょん! ここは剣道3段の私が解説するみょん!」


「二人ともダメなのぜ。茜は危なっかしいし、穂乃果の剣道はお料理に何も関係ないんだぜ。ここの解説は任せて欲しいんだぜ」


「そう言われたならしょうがないわね。おっけーおっけーするわ」


「みょーん!!」

 ……なんでゆっくり解説風なんだ?


 三人とも少し機械音じみた声出してるし、あの中竹先生がはきはき喋ってるしでかなり練習したことは伝わるけど、なんでわざわざ……まあこの先生たちだから楽しいってのが理由なんだろうけど。


「今日はみょんなカレーーーライスを作っていくよ!」


「子供に大人に大人気な奴ね!」


「そう言うわけでカレーライスを作っていくわけだが、れい……茜に穂乃果はカレーライスはどこの料理か知っているか?」


「そんなの簡単みょん! カレーはインドの料理みょん!」


「そんなことを聞くなんてダリアは私たちの事バカにしてるのかしら? インドの料理に決まってるじゃない!」


「バカはお前達なんだぜ。カレーはイギリスの料理なのぜ、由来はインドだが料理としてはイギリスのものなのぜ。詳しくは割愛するが、社会科教員の穂乃果にはこれくらい知っておいて欲しかったぜ」


「みょーん!!」

 こんな風な豆知識も挟みながら、和やかな雰囲気で先生たちの茶番劇は進んで。


 ほとんどの生徒たちはニコニコしながらにんじんやジャガイモについても同様のやりとりで楽しそうに解説する先生たちを……あ、でも相沢さんだけはかなり恥ずかしそうだ。そう言えば福田先生が部活の顧問だとか何とか言ってたな、そりゃ恥ずかしいか。


「ニンジンの一口サイズってどのくらいみょんか? このくらいみょん?」

 ……ていうかなんで中竹先生の妖夢はこんなにみょんみょん言うんだろう?

 黒歴史確定というか何というか……中竹先生は一体どんな妖夢をインストールしたのだろう?



 ☆


「……という事なのぜ。わかったのかだぜ、二人とも」


「ええ、ばっちりよ! これで美味しいカレーが作れるわ!」


「穂乃果もみょーーーんなカレーを作るみょん!!」


「そう言ってもらえてよかったのぜ。それでは皆さんご視聴」


『ありがとうございました!』

 外面はゆっくり実況でふざけてる感じだったけど、でも中身はかなり真面目に解説していた先生たちが壇上を去っていくと、降り注がれるは大きな拍手。


 凄く練習しているのが伝わったし、内容もわかりやすかったしで、この結果も当然だろう、凄いです先生方! 


「ふふっ、面白かったね、佑司君! それじゃあ私たちも頑張ろう、お料理頑張ろう! みょーんなカレー作るよ!」

 いつの間にか隣にいた工藤さんもテンション高めにそう言ってキュッと拳を握る。


「そうだね、頑張ろうね! ちなみに僕はみょんの人より鳥の人とレミリアの丼の人の方が好きなんだけど……」


「え、鳥? レミリア?」


「あ、ごめん、何でもない。ちょっと悪いところ出ちゃった」

 危ない危ない、こう言うのはあんまり普通の人に言っちゃダメな奴だ。

 こういう話ができるのはやっぱりオタク層の人で、例えば……


「えへへ、樹神君、私は、その……コーラの人とかヌメルゴンの人のお料理チャンネルが好き……あの二人が好きだよ、私」


「……ふふっ、僕もその二人好きだよ!」

 そう、こういう話も斉川さんとかじゃないとね。

 ていうか斉川さんこれもわかるのか、マジで話し合うね!


「……ちっ」



 ☆


「よ~し、それじゃあ野菜班頼むよ! 私と瀬川はご飯炊きとお鍋の準備をしてくるから、野菜の準備お願いだ! 協力して美味しいカレーを作ろう!」

 先生による話が終わった後、材料を受け取って皮むきを終えた僕たちの班長・立川さんがでーんと机にそれを置いて竜馬とともにお米とめっちゃでかい飯盒を担いでずんずんと火のある所へ歩いて行く。


「よし、それじゃあ佑司君……と斉川さん! 私たちも料理始めよう、お野菜たちを切っていこう!」

 包丁片手にくるっとそう言うのは工藤さん……って危ない危ない、怪我したらどうするの、包丁持つときはもっと気をつけなよ!


「アハハ、ごめんね。心配してくれてありがと、佑司君! それじゃあ、まずはジャガイモを切っていくけど……佑司君! 包丁でものを切る時は何の手をするのかな? 何の手をするのかな?」


「……猫の手でしょ?」


「ん~? ん~?」


「……にゃーにゃーの手! にゃーにゃー!」


「そう正解! にゃーにゃ―するの、にゃんこみたいににゃんにゃんの手! にゃーにゃー! 佑司君にゃんにゃん!」

 期待するように僕を覗き込んでいた工藤さんの目には抗えずににゃーにゃーする。

 あんなことしたからここでもいじられるなんて……やっぱり癖って言うのは直さないといけないよね!


「にゃんにゃんにゃーん! にゃにゃにゃにゃー、にゃー! 佑司君、にゃにゃにゃー!!!」

 猫語でにゃーにゃー話しながら腕まくりをした工藤さんはさくさくと手際よくニンジンを切っていく。


 まあいつまでもにゃんにゃんに引っ張られててもしょうがないし、僕も皮をむいたじゃがいもを……

「って斉川さん!? 何してるの斉川さん!? ちょ、危ない危ない何してるの!?」


「……え? こ、樹神君、どうしたの? ちゃんと猫ちゃんの手、してるよ? にゃあにゃあしてるよ? にゃあにゃあ……えへへ、樹神君、にゃあにゃあ」


「うわっ、可愛い……じゃなくてじゃなくて! 何その切り方危なすぎるよ! なんちゅう切り方してるの斉川さん! ストップストップ指切れちゃう!!!」

 にゃあにゃあ可愛く言いながら、包丁を兜割の形に大きく振りかぶる斉川さんの手を大声で阻止する。


 何その切り方、料理するときの切り方じゃないよね!

 その切り方、人殺すときのアレだよ、めった刺しの殺人事件の犯人の持ち方だよ、それ!


「え、でも、これでいい、って……その、好美先生はこの切り方、だったし」


「いいわけあるか! 好美先生って古川さんの妹さんだよね、ダメだよ、今すぐ直してあげて! 絶対怪我するから、イカれた殺人鬼の切り方今すぐやめて!」


「え、でも……だって、私いつも硬いもの切る時はこれで……」


「よく怪我しなかったね、今まで! ていうかじゃがいもはそんなに固くないから、普通に力入れたら切れるから! ほら、ちょっと見てて。猫の手はあってるから、にゃーにゃーして、そのまま力抜いて、包丁は優しく低い位置からトントンと……」


「にゃあにゃあ……にゃ、にゃるほど。勉強になった、えへへ、ありがと樹神君」


「うん、どういたしまして。それじゃあ頑張って……」


「……!!!」


 バーン!!!

『!?』

 流石に危険すぎる包丁さばきの斉川さんにゃあにゃあ使い方を教えていると、突然バーンという大きな破壊音が響く。


 見ると少し虚ろな目をした工藤さんが、さっきの斉川さんと同じように包丁を大きく振りかぶってまな板の上のニンジンをバンバン叩いていて……ちょいちょいちょい、何やってるの工藤さん!?


「……私も包丁の使い方わかんない! 私もわかんないから兜割しかできない! バンバンしかできない、ばーんばーん!」


「いや、さっきまで出来てたよね!? ちょ、本当に危ないからストップストップ! 怪我するよ、大事な指が無くなっちゃうよ!?」


「ばーん! ばんばーん! それなら忘れた! つかいかた忘れたから教えてよ! 佑司君が教えて、私に包丁の使い方手取り足取り教えて! 私にもちゃんと教えて! ばーん!」

 僕の言葉も聞いてるのかいないのか、狂った人形みたいに同じようにばんばんとまな板を叩き続ける工藤さん……ほ、本当に危ないって、それはマジで危険だって!


「わかったわかった! 教えるから! 教えるからストップストップ! ほら、こうやって、手は優しく……」


「……そんなのじゃわかんない。手取り足取り直接教えてくれないとわかんない……ばーん! ばーん!」


「はいストップ、わかった! ほら、僕と一緒にしよう! 僕と一緒に包丁使おう!」

 まな板が悲鳴をあげ始めた工藤さんの腕を後ろから掴んでそのまま包丁教室。

 後ろからぎゅっと工藤さんを支えながら、腕の動きをアシストしてニンジンを切る。トントンと心地のいい音が響く。


「えへへ、佑司君……もうちょっと密着していいよ? もうちょっと近くでゆっくり、ふんわり教えて。もっとゆっくり、優しくぴっちりトントン教えて」


「わかった、わかったよ! ほら、こうやって……」


「ふふふっ、ありがと、佑司君……えへへ、これじゃ本当に初めての共同作業だね。二人でゆっくり密着して、後ろからトントン優しく突かれて、気持ちよくなって……絶対に邪魔させないんだから。絶対に他の人に邪魔させない」




「……ひえっ」



 ★★★

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