第5話

「シーナさん。オーダーストップで!」


「今日は、若い子が多いね」


「私の前の世界で、人気料理でしたからね」


 今日は、大繁盛して、何時もより早く店を閉めることになった。

 掃除をして、売り上げの確認だ。


「ユージが料理を担当してから、売り上げが十倍を超えたね。ホントにさまさまだよ」


「行き倒れていた私を、シーナさんが助けてくれたからですよ」


「ユージは、料理人だったのかい?」


「いえ、一人暮らしの社会人でした。学生の頃から、食費を削るために自炊してただけですよ。あ……、調理のバイトはしていましたね」


「……モテただろう?」


 ん? なんだ?


「彼女はいましたよ? 毎日、食材を買って来て一緒に食べていました。年上の社会人でしたけど」


 もちろん嘘だ。

 孤独を好んだ私に、恋人などいるわけない。

 シーナさんは特別だ。姉の様に思っている。


「ふ~ん。なるほどね。そんな相手もいたんだ。それと、ジャンヌなんて、手玉に取れそうだね~。胃袋掴んでるし」


「男性に生活能力があるのが、不満ですか? 女性が、外で稼いで来てもいいのでは?」


「まあ……そうだね。でも、ユージは街中で稼いでるじゃない?」


 意識のズレなんだな。

 『稼ぐ方法』……。私は、前の世界でも勘違いしていたのかもしれない。



 ――カラン


 ここで誰かが入って来た。

 誰だ?


「……ギルド長」


 シーナさんが反応した。冒険者のギルド長かな? 閉店しているのに、シーナさんがなにも言わないので、関係性が伺える。

 その後、話を聞くことになった。

 二本の植物をテーブルに置かれる。


「こちらが、薬になり、もう一本が、毒草になる。見分けがつくかな?」


 私に言ってんだよな?


「……根の形が違いますね。葉も良く見れば、分るけど、根で見分けた方がいいでしょう」


「初心者冒険者が、とにかく間違えるのだ。そして、根を採って来ないと買い取らないと依頼書に書いているのに、失敗が続いている……。そこで、君に改善案を考えて貰いたい」


 ふむ……。

 私に、絵描きとしての依頼かな?

 壁の絵を見る。

 もう筆は折った気でいたけど、環境によっては依頼が来るんだな。

 大きく息を吐き出す。


「その依頼書を見せて貰えますか?」


 ギルド長が、テーブルに紙を置く。


『これは、ダメだな。絵が下手くそだし、片隅に追加で書いた『根も必要』……。これじゃ、間違うって』


 文明のレベルが低いとかじゃない。人材がいないんだな。

 有能な人は、賃金のいい仕事に就いているのかもしれない。


 私は、ため息を吐いた。

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