第23話 偽悪の組織タイダルテール

 

 一度は見失ったが、姫子の行動を帰宅まで見終えて、志太は地下基地に戻った。

 地下基地では暇を持て余していた戦闘員ペーがいた。

 少し備品が充実し始め、大型ディスプレイや禍々しいテーブルと椅子などが置かれ始めていた。その椅子に戦闘員であるペーが、テーブルに足を投げ出して座っているのは規律が乱れている。


「あ、おかんなさい。女子中学生の尾行とか、完全にストーカーっすね」


 規律の乱れている戦闘員ペーが、性の乱れだと志太をからかった。


「そりゃ、オレ様たちは悪の組織だからな」


 お前もその仲間だぞ。そういう意味を込め、ペーのからかいを志太は軽く流した。

 そこへ総統ディスキプリーナがやってきた。 


「悪の組織の自覚があるようでなによりじゃ。うむ。感心、感心」


 ディスキプリーナはつかつかと歩いて、テーブルの上に乗せられた戦闘員ペーの足を杖で叩いた。咄嗟に避けたので、杖はガツンとテーブルを叩く。テーブル端に並ぶ、まがまがしい目玉の造物が一つ、衝撃でぽろりと落ちる。


「ああ! こりゃ、ペー! なんで避けるんじゃ! 欠けたではないか!」 


「ええっ!? 悪いの俺なんすか?」


 手をぐるぐる回す総統ディスキプリーナのパワハラの猛攻から、戦闘員ペーは走って逃げた。


「とにかく! 二度と足をかけるでないぞ! まったく……。で、志太。姫子の方はどうじゃった? いつも通りじゃったか?」


 魔法少女となる演出のためには、日常の行動パターンを把握しておく必要がある。そのためディスキプリーナは尾行を志太に頼んだ。

 志太はリリカの連絡役に続き姫子の尾行まで頼まれ、ややオーバーワーク気味だが気にしている様子がなかった。やはり昭和の男である。


「ああ。寄り道をして、ちょっと帰宅が遅くなったくらいだな。いやぁー。監視カメラのある時代の尾行はキツイ。一度、見失ったほどだよ」


 志太は姫子を見失った理由に気が付いていない。自分がなまっていた、現代に慣れていないなど、自身に理由があるためだ。むしろ反省しているくらいだ。


「ふむ、そうか。慣れぬことをさせたな。しばらく頼むぞ」


 正確な経緯や状況を説明していれば、少し抜けたところがあるディスキプリーナでも、一時的であれ尾行から逃れた姫子の異常さに気が付いただろう。


 もしくはアーがいて、志太が一般女子中学生を見失うという事態を聞いていれば、もう少し事情を聞こうと申し出たことだろう。

 悪の組織は少し抜けているほうが、正義の味方に優しいが、自作自演をするならばもっとしっかりしていたほうがいい。


 惜しいところで、そのアーがやってきた。

 大げさな大型の禍々しいドアが、半開きになったところで身を差し込み飛び込んでくる。


「大変です! 総統!」


「どうした? アー?」

「と、とりあえずテレビつけてください!」


「うむ。ダレクサ、テレビつけて」


 現代地球の利器に似た異世界の利器を使い、ディスキプリーナはテレビをつけた。

 映った映像は元国営の教育を念頭に置いたテレビチャンネルで、のじゃる姫というアニメのオープニングが流れ始めた。


「おお、そうか。のじゃる姫の時間じゃったな。アーよ、教えてくれてありがとうなのじゃ。ところで、いつも思うのじゃが、この姫、吾輩にキャラかぶりしておらんか?」

「そこじゃないです! ニュース! 夕方の報道バラエティーです!」


 アーは手近のリモコンを取って、チャンネルを報道番組に変えた。


『──の駅前にて、事件が発生しました』


 急にチャンネルを変えたため、アナウンサーの声は途中からで場所は聞き取れなかった。

 しかし画面には東京二十区の地図が出ていて、タイダルテールの基地が存在する区内の色が変わっていた。

 ここで事件があったということだろう。


「今日の四時十五分ごろ、警察にタイダルテールの怪人が暴れているとの一方が入り──」


 ディスキプリーナと戦闘員ペーの視線が、ばっ! と志太に向かう。

 志太は両手を振って否定した。


『通報をもとに、警察が駆け付けると、魔法少女を名乗るスコラリス・クレスキトにより、怪人は取り押さえられていたとのことです』


 またも、ばっ! と、ディスキプリーナとペーの視線が志太に向けられた。

 必死に、志太は両手を振って否定した。


『警察の発表によると、このタイダルテールの怪人はコスプレをした動画配信者で、再生回数を稼ぎたいからやったと供述している模様です』


 ばっ! とディスキプリーナとペーの視線が……。


「オレ様じゃねぇよ! オレ様はここにいるだろう? 捕まってねぇ!」


 ついに志太は声を上げて否定した。


「うむ。まあそうじゃろうな。次の格闘怪人をどうしようか悩んでる間じゃったし、あ、クレスキトちゃんがインタビューを受けておるから録画しておくのじゃ」


 この総統、そうとう肝が座っている。

 戦闘員ペーは、ディスキプリーナの指示通り録画を開始しながら、感心しきりでつぶやく。


「いやぁ、現代の若者ってフットワークが軽いですよねぇ」


 この呟きに志太が同意する。


「まったくだな。ギレルモ・リゴンドウもかくやだ」

「誰っすかそれ?」


 などと志太とペーがやっているなか、ディスキプリーナが急に怒りだした。


「市民の行動が早いのもしゃくじゃが、タイダルテールを名乗っているのが許せん!」


 そこにアーがスマートフォンの画面を見せる。


「総統。このようなサイトや動画チャンネル、書き込みがあります。どうやら我々を名乗る愉快犯たちが、ネットで増えているようです」


 ざっと見せただけで、その数は八つ。すでに消されたところもあるが、それでも五つあった。


「偽物めー! そこは偽物であると書き込んでくれるのじゃ!」


 ディスキプリーナはアーからスマートフォンを奪って、書き込みを始めようとした。


「やめてください、総統!」

「総統、ダメっすよ。ネットろくにできない志太さんでも、それはマズいってわかるくらいマズいっすよ」


 ペーの一言に、志太は憮然としたが事実なので黙った。不服はなかった。


「ぬあんじゃと! この本物の悪の組織のタイダルテールの本物の総統の言葉じゃぞ! なぜいかんのじゃ!」


「の、が続いて日本語美しくないっすね。じゃなくて、ほんとそれ、こっちが偽者判定されるし、最悪総統のアカウントから、基地の位置から総統の表の顔とか全部露見しかねないっすよ!」


「ぐぬぬ……」


 総統ディスキプリーナは涙をこらえた。悔しいがペーの言う通りだと、書き込み行動を控えた。

 彼女は情報収集に長けた斥候ではあるが、情報管理は最低限の教育しかされていない。

 ここで悪の組織タイダルテールの問題が噴出した。


「ええい! だれかネット対策できるヤツはおらんのかーっ!」


 ディスキプリーナが苛立ちから両手を上げて叫んだ。


 だが今、ディスキプリーナがもっとも渇望する人材は、魔女の手下として暗躍している──。


 

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