第50話 経験値は裏切らない!

 WARNING!WARNING!WARNING!WARNING!


       ファフニール&リリス登場!


 WARNING!WARNING!WARNING!WARNING!


 

 脳内画面にボス戦のアラートが表示される。

 戦闘が開始された。

 まずは因縁いんねんの二人から。


「でやーっ!」

 

 タカキが怒涛どとうのラッシュを邪竜にたたき込む。


《ばくれつけん》!


 ガガガガッ!


 鉄拳とりゅうりんがぶつかり合い火花が散る。

 打撃音はもはや金属同士がぶつかり合うそれだ。

 ダメージは通ったが、これだけで勝てるほどやさしい相手ではない。


「あの夜のこと、俺は一日も忘れたことは無かったぞ!」

『こっちも忘れてねえよ。あん時はお前一発KOだったよなあ』


 反撃の剛腕がタカキにせまる。

 しかし槍を旋回せんかいさせて鋭い爪をはじき返した。


《パリィ》!


 再び両者の間で火花が散る。

 器用に軌道きどうをそらされた剛腕は、何もない虚空こくうを斬り裂くのみだ。

 しかし邪竜に動揺はない。


『フン、強くなってんのは当たり前なんだよ、RPGなんだからな!』


 槍を中段に構える少年のことを、ファフニールは傲然ごうぜんと見下ろす。

 前回はたった一度のやり取りで勝敗がついたのだ。確実に両者の差はちぢまっている。


 

 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

  


「で? あたしの相手はそっちがしてくれるわけ?」

「オホホホ! そうなりますわね!」


 三対一で余裕よゆうの笑みを浮かべるリリス。

 肉弾戦タイプには見えない彼女だが、魔法で炎の剣を生みだした。


「いきますわあ、《イグニスブレイド》!」


 ゴオッ! と音をたてて彼女の右手にあらわれたのは「燃え盛る炎の剣」。

 火系魔法最大の奥義である。


「うげ、作戦変更! 遠距離攻撃よ!」


 今のHPであんなものをくらったら即死間違いなしだ。

 アイシラは顔色をかえて仲間たちと射撃戦にてんじる。


 アイシラ、《ストーンショット》!

 リーフ、弓!

 ベルトルト、弓!


「や、ちょ、ちょっと! 卑怯ひきょうですわよそんなの!」


 ビュンビュン飛んでくる射撃にリリスは悲鳴をあげる。

 効果は抜群ばつぐんだ。

 どうやら魔法はすごいが剣技のほうはサッパリらしい。

 飛来する石弾や矢にまるで対応できていなかった。


「いやーっ!?」

でしょう、だけに」

「なにを下らないことおっしゃってるの!

 0点、0点ですわー! イヤー!」


 黙々もくもくと弓を放ち続けるリーフ&ベルトルトペア。

 この二人も元は剣を振りまわすだけの単調な戦法しか知らなかったのだ。

 器用に成長してくれたものである。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



「でやあー!」

『こ、こいつ……』


 ファフニールは予想以上に成長していたタカキの武力に手こずっていた。

 元から強かった体術のえに加え、攻守をささえる槍の存在が少年の戦いをより柔軟じゅうなんかつ多彩たさいなものにしている。

 少年一人だけの努力で得られた力ではない。彼を育てる優秀なトレーナーがいることをファフニールたち運営チームは知っていた。

 

 アイシラ。あの小柄こがらな姉の知識と経験がタカキの身体にぎゅっと詰まっているのだ。

 まあアイシラ本人は色々なスキルの良い所どりばっかりしているせいで、はっきり言って器用貧乏な小娘にすぎないのだが。

 

『だめだ! こっちに来いリリス!

 チマチマやっていたんじゃらちが明かねえ!』

「わかりましたわ!」

 

 ファフニールは巨大な翼を羽ばたかせて大きく距離をとった。

 リリスも同じ位置まで下がる。

 

『正直ここまでやるとは思わなかったぜ、もう手加減てかげんなしだ』


 そう宣言すると、ファフニールの全身から風の魔力が、リリスの全身から炎の魔力があふれ出す。

 ボスキャラ二人同時に必殺技をうつ構えだ。

 まともに食らえば誰も生き残れないのは確実。

 だが、耐えられればきっと勝機はつかめる。


「ベル君」


 アイシラは金髪の美少年を呼ぶ。

 今回のイベントで急成長してくれた彼がたのみのつなだ。


「例のやつ、今すぐお願い」

「わ、わかった」


 ベルトルトは武器を弓から剣に変更。

 次の瞬間、二体の強敵が同時に必殺技を放ってきた。


《ワイルドウイング》!

《フェニックスブレイズ》!


 暴風と業炎が四人を襲う。

 その直前に、ベルトルトはさけんでいた。


「イーグル・キャンセル……」


 襲い来る暴風に小さな声はかき消され、つづく業炎につつまれて四人の姿は見えなくなった。


 ファフニールの《ワイルドウイング》が周辺の岩や木々を吹き飛ばし。

 リリスの《フェニックスブレイズ》があらゆる物質を焼き尽くし、空気そのものを超高温に高まらせる。

 もはやそこは地獄絵図。生物など存在できないはずであった。


『グワハハハハ、やったか!?』

「それってやってないフラグでしてよー? おーっほっほっほ!」


 勝利を確信して高笑い、ふざけ合う二人。


 だがもちろん、むしろ当然、四人は無事生きていた!


「ベル君すっごーい! かっこいい!」

 

 28歳女戦士が目をキラキラ輝かせて喜んでいる。

 四人はドーム状のバリアによって守られていた。


「な、なんとか間に合ったよ」


 ベルトルトは冷汗をかきながらリーフに笑顔を見せる。


『イーグルスラッシュキャンセル・《からのかんむり》使用』


 ベルトルトがやったのはこれだ。

 絶対に・・・敵より早く動けるというバグ技を利用してバリア発動。

 当たれば即死の大火力スキル二連発を見事にふせいでくれた。


『なな、なにいーっ!?』


 信じられない状況にぼう然となってしまうファフニール。

 すぐそばにいたリリスはふと何かを思いだした。


「あっ、そういえば」

『なに?』

「ゲームマスターに言われていたことがありましたの」

『だからなにを?』

「えっと……。『アイちゃんたちはすでに「土のトパーズ」を持っていて、これから「水のアクアマリン」を取りに行くわけでしょう? 風と火がメインのあなた達って、相性悪くないですか?』って」


 土のトパーズは風属性完全無効。

 水のアクアマリンは火属性完全無効。


『そんな大事なこと、なんで今までだまってたの!?』

「おほほほ、だってぇ」


 リリスは恥ずかしそうに笑いながら、舌を出した。


「わたくし、おバカな悪役令嬢ですもの」

『お前を先に殺してやろうか!?』


 ブチ切れるファフニール。

 しかしそんな時間はない。

 アイシラたちの行動がまだ残っていた。

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