第48話 《からのかんむり》の使い方

 まだ洞窟内の帰り道。

 モンスターはすでにあらかた退治してあるので、ヒマを持てあましたアイシラはアイテムらんをごそごそいじくって持ち物を確認していた。


 気になっているのは別荘で手にいれた謎のアイテム《からのかんむり》である。

「水のアクアマリン」が装飾も何もない素のままの宝石だったので、もしかしたらと取り出したのだ。


「姉さん、よそ見しているところぶよ」

「うん」

 

 弟の忠告にいちおう返事はするものの、意識はアイテムからはなれない。


「やっぱこれってそうよね。

 ベル君、アクアマリンをこれにはめてみて」

「うん」


 ベルトルトは青く光り輝く宝珠をふところから取り出し、《からのかんむり》にはめ込んだ。

 思ったとおりアクアマリンはピタリと台座におさまる。


「うんいい感じ。ベル君かぶってみなよ」


 アイシラはベルトルトの頭を下げさせ、宝珠のついたかんむりかぶせる。

 彼にピッタリのサイズであった。ちょうどひたいのあたりで「水のアクアマリン」が輝いている。


 あまりのカッコよさにリーフが黄色い声を出した。


「キャー、ベル君かっこいい!」

「ハハ、すこしずかしいな」


 ベルトルトはそう言ってほほを赤くしているが、実際よく似合っている。

 もとから美少年なのもあって、まさに物語の主人公感がにじみ出ていた。


「うんうん、この分なら皇帝陛下もこのままアクアマリンをまかせてくれるんじゃないかしら」


 水のアクアマリンは火属性完全無効という超優秀な装備である。

 アイシラの土のトパーズとあわせて、ぜひパーティ内で管理したい。


 と、そんなことを考えているアイシラ。

 その服の中で突然、土のトパーズが妙な反応を見せた。

 何もしていないのに急に琥珀こはく色の光を放ち、軽く宙に浮きはじめている。


「え、なに」


 アイシラはネックレスになっているトパーズを服の中から出した。

 琥珀こはくの光はさらに力を増し、なんと《からのかんむり》の中に吸いこまれてしまった!


「わーっ! あたしのトパーズ!」


 大あわてで《からのかんむり》に手をのばすアイシラ。

 中央のアクアマリンに触れると、まさに魔法のように一瞬でトパーズは戻ってきた。


「えっ!?」


 想像以上にあっさり戻ってきて、かえっておどろいてしまう。


「これは、そういうアイテムなわけ……?」


 確認のため、アイシラはトパーズを何度も出し入れした。

 まったく何の抵抗もなく出し入れ可能。

 なんだこれ?


「ちょ、ちょっと気味が悪いよ、なんなのこれ」


 ベルトルトが不信がって《からのかんむり》を頭から外した。

 アクアマリンのかわりにトパーズをはめてみようともしたが、かたがあわないのでダメなようだ。

 土台はあくまでアクアマリン。

《からのかんむり》にアクアマリンがはめ込まれているときに限り、他の宝珠を追加することができる。


「これは、実験が必要ね!」


 アイシラは目を輝かせた。

 まさかただの入れ物ということもないだろう。

 どんな性能なのかすぐにでも確認しなくてはいけない。


「タカキ、リーフ、モンスターを探してきて!

 まだちょっとくらい生き残りがいるはずよ!」

「えー! わざわざそこまでしなくても!」


 タカキは面倒くさがったが、真面目なリーフに連れられて洞窟の横道に入っていった。

 数分後、二人は棍棒こんぼうなぐられながら一匹のトカゲ男を誘導してくる。


「シャギャー!」


 ドカッ、バキッ。


「イテッこの野郎! ちゃんと意味あるんだろうねこれ!?」

「やーんコイツ調子に乗ってる、やだもう!!」

「わーい二人ともアリガトー」


 ボコボコ殴られている二人。

 全然気持ちのこもっていないお礼を言うアイシラ。


「さあベル君、やってみて」

「う、うん、な、何か反応してるぞこのかんむり!」


 ベルトルトが軽くねんじると、《からのかんむり》から二色の光があふれ出て周囲にバリアーをはった。


『おおおおおっ!?』


 四人のメンバー全員から驚きの喚声かんせいが上がる。

 それは想像以上に強力な効果だった。

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