自分の気持ちに、正直に。

春野 土筆

プロローグ ~クールな先輩との出会い~

「以上、演劇部の発表でしたー! もし演劇部に興味を持ってくれたっていう人がいれば、どしどし見学に来てください。 よろしくお願いしまーす!」


 暗転した体育館とは対照的に照明が輝く舞台の上。

 演劇を終えたメンバー達が「ありがとうございましたー」と互いに手を取り合って深々とお礼をする。それと同時に、観客席からは割れんばかりの拍手が送られた。

 その大半は、彼女に対してのものだろう。

 みんなが満面の笑みを浮かべる中、一人だけ涼しげな顔でいる主演の少女に。

 簡単な出し物だった。

 だってこれは入学式が終わった後に行われる、数ある新入生勧誘イベントの内の一つなのだから。だがしかし、寸劇にもかかわらずこれだけ大きな拍手を送られているのは、間違いなく主演の彼女の賜物だった。

 洗練された動きや、色鮮やかな声。

 そして何よりも目を奪われるほどの容貌。

 切れ長の瞳と通った鼻筋。

 まるでどこかのモデルかと思われるほどの彼女の美しさを前に、新入生は目を奪われ、そして歓喜した。

 男子達は秘かに彼女に対して恋慕を抱き、女子達は憧憬を見た。

 そして、そんな大勢の観客の中、一際小さな体躯をした新入生のなぎも、椅子から立ち上がって彼ら彼女らと同じように、彼女に対して恍惚とした眼差しを向けていた。数分前に初めて彼女を見たはずなのに、もう既に彼女の虜となっていた。

 高鳴る鼓動。

 一瞬たりとも離したくない視線。

 どうして、こんなに胸が苦しいんだろう。

 幕がゆっくりと下りていく。

 彼女の顔が隠れるタイミングで凪は強く心に決めた。

 絶対に演劇部に入ろう――と。

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