第3話 箱の正体

 先日、家主が猫撫で声を発していた相手は、どうやら、電子レンジというそうだ。電子レンジは食べ物を温めたり、解凍したりするのに用いる。けれども火は使わない。電波を用いる。高周波の電波が食品内の水分子を振動させることで、摩擦熱が生まれ、食べ物を温めるのである。なんと賢い箱であろう。猫に勝るとも劣らない。


 家主は今日も電子レンジに食べ物を入れ、「にゃご~」と猫撫で声もどきを発し、しばし待つ。少し経つと、電子レンジは「ぴー」と応答する。すると家主は「ありがとう」と急に人間語を放ち、乱雑に箱を開ける。なかなかにダイナミックである。電子レンジの腕がもげそうだ。吾輩は中を覗くが、何もない。自分だけは猫撫で声もどきでご飯を所望するくせ、近くで猫撫でられ声を上げる吾輩には気付かないとは、人間はいつの時代も身勝手だ。しかし、それが人間である。仕方があるまい。吾輩は、今日もご飯の横取りを諦めた。


 するりと部屋を抜け、外に出る。くうをみつめる。雲は夏の名残を残しているが、空気は涼やかだ。蝉取りにでも参ろうか。そろそろ、おしいつくつく野郎が出てくる頃であろう。 

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