第30話 堕ちて渦巻くアフロディーテの渦輪
アフロディーテって、確か愛の……、愛はエロスだわ、たしか恋の女神よね。
そんな神々しく、美しい言葉の後に『渦輪』って、あんまり穏やかじゃない言葉が続く。
渦輪って災禍に近い言葉で巻き込まれるって事、それもあんまりありがたくない事よね。
「『アフロディーテの渦輪』今回の早期未成年婚による社会的影響、波及と言ってもいいわね、この少子化した世界を抑止する効果を期待されてるのよ」
りっちゃんの説明はこうだった。
結婚というのを状態って考えると、その状態にある人は、その状況ではない人に影響を与えるのだそう。つまり結婚してる人はしてない人を影響するって事らしいの。
それは、特に若年な人ほどその影響力が大きくで、私たちくらいの年齢の、特に性的な成長の自覚を伴う世代は、まるで、大きな渦に巻き込まれて吸い込まれてゆくが如くに、ともすると自分を見失う人もいるんだって話。
つまりね、生き物としての人間が、婚姻関係の番いに誘発されて行くんだって。
これって、哺乳類よりももっと太古の息もからある生体らしくて、いまだ仮説の域を出てないけど、つまりは欲情状態にある男女が、ほかの個体を誘発してゆくらしいの。
「発情って!」
「してるじゃん」
「してないし」
りっちゃんと言い合いになる。
ちょっと二人でクールダウン。
律子先生は、わかりやすく教えてくれるの。
「つまりね、セックスの常態化なのよ」
それはつまり、私たちはセックスしてるって事だから、まあ、そうね、ってなる。まあ、理解はできないこともないって思う。
「つまり、どこでも、かしこでも、いつでも、一花ちゃんと一樹君はセックスなのよ」
あ、遠かった。理解が明後日の方向に飛んでいった。
そしたら、今度は、
「一花ちゃんと一樹くんは夫婦でしょ?」
「ええ、そうですよ」
っていうか、何を今更?
「夫婦ってことはセックスするじゃない」
この会話って、今は律子先生と二人っきりだから、恥ずかしげもなくできるけど、普通の会話としては微妙よね。返事はしちゃうけど。
「ええ、してますね」
すると、律子先生は、
「ということはね、つまり、一花ちゃんは高校生なわけで、その高校にセックスを持ち込んでいるっていうことになるの」
ん? んんんんん??????
「いや、流石に学校ではしないけど」
淫乱さんじゃないんだから、どっかの薄い本のシュチュじゃないから。あ、でも、一樹に求められたらどうかなあ、まあ、なくはないけど、今は無い。
「ちがう、そうじゃなくて、つまりセックスを常用化して日常に置く人として、学校に通ってるのよ」
「先生、ちょっと言ってる意味が?」
本当に、何を言ってるのかわからない。
「つまりね、観測者、だから特にあなたたちを見ている人にとってはセックスしていない一樹君と一花ちゃんも、セックスしている一樹君と一花ちゃんになるの、つまり、それは日常のという箱の中にいて、している、って状態と、していないっていう状態があるのよ」
あれ? それって、箱に入ってる猫が死んでいるか死んでないかって、そんな残酷な実験な話じゃなかったかな? 『シュガージンジャーの猫』だったけ? なんか美味しそう。
「だから、一花ちゃん、性愛を日常化する人たちは、恒久的にセックス状態なわけで、それは恋人同士とは一線を画しているのよ、ご飯を食べると同等な、そんな状態に、特に恋愛経験の少ないものは引き込まれるの」
じゃあ、何、優もセフレ発言した綾小路さんも、私たち夫婦の状態というか雰囲気みたいなものに引き込まれたってこと?
「優も美子ちゃんも綾小路さんも、おかしな発言したり、行動を取ったりって私たちのせいなの?」
「そうね、少なくともセックルやその前段階を思考の中に組み込まれて性的好奇心から刺激されて自らついて行ってしまったってことね、あなたたちは意識を向かわせただけ、この現象は政府が今回の計画、だから早期未成年婚ね、これらの副反応も狙ってやってることだから」
って言ってから、
「実はね、私も政府主導の、この早期未成年婚に対して、反対もしていたのよ」
って言うから驚く。
いや、だって、りっちゃんとは、こうしてカウンセリングの名目て結構な下ネタ話とかで盛り上がっていたこともあったから、賛成反対はともかく、応援はしてもらえているって思ってた。
「あ、勘違いしないでね、こうして、一花ちゃんと一樹君はこれからも支えていこうと思ってるわ、でもね、これだけはわかってほしいの」
と言ってから一呼吸を置いてから、
「この制度はね、セックスをもっと身近に楽しく、安全にっていう働きもするけど、それ以上にセックスを軽く、貞操概念、本来あるべき性への衝動の抑止の壁を破壊して、ともすると性犯罪すら誘発して、軽い部分でさえも時に人や人間関係をどうしようもないくらい壊してしまうの」
私は、この時はじめて、自分のいるところの、その外観に広がる生臭い危うさを知るの。
あの時、体育館で直塚先生に抱きしめられたって事も、つまりは私から、いえ私と一樹が一つの起因になってるってことだもん。
「先生、この政策って大丈夫なんですか?」
だって、私たちがすべてを巻き込んでるって事だから、まるで中心の軸に何もかも巻き込んでズタズタに砕いているようで、自覚なんてなかったから、まるで戸惑うように声も出ないでいる私。
そしたらりっちゃん、笑い切れない表情で言うの。
「『アフロディーテの渦輪』の怖いところは、周りを巻き込む、重く強い車輪軸は、そのまま自分も堕ちてゆくことなの、底なんて無い奈落に向かってね」
それはいい事なのか悪い事なのか、まったく見当もつかないで、ただただ、心の置き場も見つからない私は、思った以上にこの早期未成年婚の本当の姿の、きっと一部を見て茫然としてしまったの。
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