第21話 豚肉生姜焼だよ!【一樹】
僕は学校に向かっていた。
急いで。
慌てて。
ちょっと前に、一花から電話があって、「帰るね」って声を聞いたあと、家から学校まで一花の足でも20分はかからないからって、思っていたけど、優でも待ってるのかなって、その一時間後くらいに白井先生から電話が来て、一花が泣いてるから、すぐに迎えに来てほしいって、言われて、驚いて、着の身着のままで家を出てしまう。
学校から電話をもらった頃、豚小間を冷蔵庫に入れつつ、ショウガを買い忘れていたから、チューブでいいや、って思いつつも、やっぱり生ショウガ買いに行くかなあ、一花の為にって思案してた時だったんだ。
時刻はもう夕方から夜に向かう、そんな、明るさも遠くなる空。
今日は一花の大好物を作る為に、どこにもよらないで、といっても買い物だけだけして、家に帰る。一花はちょっと遅くなるって言ってたから、ちょっと凝った豚の生姜焼きを作ろうとしてたんだよね。
帰るって言ってた一花は元気だったから、一体何があったんだろう?
白井先生も、様子も命にかかわるような重篤な事態って感じでもないし、優の声も聞こえてたし、足でも挫いたのかなあ、なんて考えてたよ。
それに、帰るって電話の一花、ちょっとプリプリだったしね。
なんか怒ってたなあ、『綾小路さんって知ってる?』って聞かれたんで、「うん」って答えたら、『家で詳しく聞くから』って言われて、まあ、普通に、一花と一緒にお弁当を食べようと思って、職員棟と一花の校舎の間の中庭のベンチに腰掛けて待ってると、何回か声をかけてくれた、あの黒髪艶々のお嬢様だよね。
ちょっと別世界感を漂わせた……。
あ、そういえば、一花が結局、中庭に出てこれなかったときに一緒にお弁当も食べたなあ。
なんか浮世離れした女子だったけど、普通にいい人だったし、たぶん、彼女、綾小路さんは、僕もだけど、一花も一緒に興味を持っていたんだよ。そう思うよ。だって一花のことも聞いてたからさ。
「友達になりませんか? 将来的に?」
って言われたなあ、確か。なんで今、でなくて将来的に……なんだろう?
でも、そんなことは良い。
今は、一花へ急がないと。
軽く走って僕はすぐに学校についた。
そして、白井先生に言われたとおりに校庭を大廻して、校舎西側にある体育館もたどり着く。
いつもは校舎から体育館に入るけど、外部の扉が開いていて、いつもならバスケ部が休憩するコングリートのポーチから中に入る。
入るんだけど、その前に、そこに駐車されていた車に思わずギョっとしてしまう。
いや、だってパトカーだよ。普通に警察案件なの?
で、その後部座席には直塚が乗ってるよ。
見たこともないくらい、うなだれて、無駄ないつもの元気ハツラツさなんて微塵も無い、おおむね現行犯で捕まった変質者みないになってる。
ええ??? 何があったの?
白井先生の大したことないって言う言い方だったけど、途端に心配になる僕だ。
一花は無事か?
で、その体育館に入ると同時に、体当たりを食らう。
「グエ!」
って声を出してしまって、今、まさに光の速さを凌駕する(僕視点)勢いで体当たりを慣行してきたのは、
「一花!」
僕の胸を精一杯の力で抱きしめる一花だった。
「一樹!」
って僕を抱きしめる腕がさ、震えてるのがわかるんだよ。
一体、何があった?
って聞こうとするけど、見れば一花、本当にキャパ一杯になってて、僕の混乱する疑問には、
「直塚にプロポーズされたんだ、PTSDにならなきゃいいけどな」
って優が答えてくれた。
え? 直塚先生って、一花にプロポーズして逮捕されたの?
今さっき、パトカーで連れていかれたよ。
なんて、ふつふつと湧き上がる疑問を肯定するかの様に、
「直塚が、一花に告白ってかプロポーズって、普通に犯罪だよな」
今のご時世、早期未成年婚が認めらている昨今になって、年齢差による婚姻、もしくはその前段階(カップル)になるために、国が凄い調査を行うって、聞いたことがある。特に相手が未成年の場合、それが認められないと、そのまま、そこで犯罪が立証される事があるそうだ。で、その罪も結構重いらしいんだ。恐喝とか略取とか? 誘拐とか、特に、今回の婚姻に関する政府の取り決めに対して、反対してる人達っていうのが、それを見逃さないし、徹底的に追い込むのだそうだ。
それにだよ。
一花は僕と婚姻関係であるから、まして、直塚先生は、それを知ってるわけで、その上、一花に婚姻を迫るってのは、これってもしかして極刑もありえるんじゃないかな?
僕にしがみ付く一花。
そして、旋律する僕。
そして優は、
「一花心配だから、あたしも家に行くよ、夕飯頼むな」
って声がかかる。
体育館の入り口付近には、校庭で部活をしていた生徒たちもあつまってる。
そして、その中から、翔が出てきて、
「俺もいい? たまには一樹のご飯ゴチになりたいからさ」
って言ってきた。
翔も一花を心配してくれてるってか普通にうちのご飯を食べたいみたい。
もちろん良いよ、って声は出さずに頷いた。
すると、僕を抱きしめる一花が、
「………卵、そんなにあったっけ?」
なんだろう? 普通な声な一花だ。泣いてるけど、現実に立ち戻った時の一花だ。
ちなみに須藤家の卵の常備は10っ個入り、1パック、これが半分になると買い足すから、最大15個になる。
でも、今日はそんなに卵使う予定もないし、だから、
「今日は、一花の好きな豚肉ショウガ焼だよ、だから卵の心配なんて……」
そう言いかける僕の顔を見て、ハラハラと涙を流す一花だった。
そっか、一花、安心したんだな。
確か、今日は一花の大好物作るって言ったから、ようやくこれで日常に立ち戻って安心したんだね。
大丈夫、もう直塚は警察に捕まったからね。一花を怖がらせるものは何もないよ。
僕は一花の頭を軽く抱きしめて、今日は優も翔も来るのかあ、と豚肉買い足さなきゃ、その時にやっぱり生ショウガを買おうって、そう心にとめていたよ。
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