第11話 今はだた、寄り添う為に……

 びっくりした。


 ちょうど、私はカウンセリングが終了して、律子先生……、りっちゃんに別れを告げたときに、息を吹き返したスマホが激しく振動して鳴り響いたの。


 カウンセリングルームから出て、一樹にラインしなきゃ、って思ってスマホの電源を入れると、20件を超える着信があった。


 優もいるし、翔もいる。学校からもあった。


 え? え? え? なんて慌てていると、スマホが振動し、メロディーを奏でる。



 一瞬、ディスプレイに表示される、発信相手の名前を見て、驚く。


 美子ちゃんから電話。


 彼女の事は良く知ってる。


 正確に言うなら、一樹の知り合い。


 一方的な知り合い。


 可愛いけど。素直だけど、私は立場上憎まれてる。


 そんな、美子ちゃんからの電話。


 これはただ事ではないと、考えるとか、理解するとかじゃなくて直感でそう思った。


 あの子が私に電話を掛けてくることなんて絶対にない。凄く嫌な予感がした。


 彼女、美子ちゃんが電話って事は、連絡を取らなきゃって事は、間違いなく一樹の案件で、しかも、美子ちゃんの手には負えなくなっている現状って事が読めてしまう。


 そして、美子ちゃんが叫ぶ様にいうの。


 「一樹様が、直塚ゴリラ殴って、で、骨とかおっちゃって!!!!」


 私は美子ちゃんからの言葉に、あの嫌らしい体育教師の顔が瞬時に思い浮かんで、立ち眩みがした。


 もう、絶対にあのゴリラが悪いって、それだけはわかりきってる。


 でに、なんで?


 確かに、嫌なヤツだったけど、


 私達は、あの直塚先生には目を付けられていた。


 しつこく、粘着質なねばりつくみたいな性格は、そういう生態を持つ虫のようだった。


 それに、あいつは、私をねっとりとした視線で見ることはあっても、私には来ることがない。


 温厚でつつましく、優しい一樹の方に行く。


 嫌味を言う。嫌がらせをする。侮蔑もする。


 本当に思い出してもむかむかしてきた。


 それを殴った?


 一樹が?


 信じられ……。


 ……………………………………………………………!!


 いや、ある……。


 きっと、あのことに触れたのだろう?


 でもおかしい。


 一樹の精神は、未だ病んでいるから、あの事件について触れられたら、攻撃的意識にっはならない。


 最悪、意識を失うくらいまで自分を追い込んでしまう。


 この件については、刑事事件被害者プログラムで、結論が出てる。


 だから、一樹が、例え親の死の事を持ち出されても、悲しいを感じてそれが憤りになるまえに、全身から力が抜けて、その虚脱は意識にすら届いてしまい、昏倒する事が多い。


 これは一樹の、『人の良い』言う、両親の生き方も関連していて、ともかく一樹の場合はその意識は廻りではなく、自分に向かってしまう。


 悔しくて、悲しくて、やりきれなくて、気絶するの。


 そんなの学校だって知ってる筈だし、生徒ならともかく、先生がそれって、あいつ教師やめたいのか?


 ふつふつと怒りが沸く。


 きっと、感情なんて抑えられなかったんだと思う。


 一樹は抑えてみせるなんて言ってたけど爆発してしまったんだと思う。


 もちろん、それは一樹の所為ではないし、一樹に微塵も責任は無い。


 かつて、一樹を見てくれた医師は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)は容易になくなってはくれない。例え今が本人にとっても平和で満ち足りた世界だとしても、原因となった経験によりマイナスにえぐられた精神は、痛みにを日常に捉えることはあっても、消えはしなくて、特に同じような悪意によって呼び覚まされるって言ってたっけ。


 今になって、様々な記憶や想いが頭に浮かぶ。


 整理なんてできないから、今はいい。


 今は原因とか、結果とかもうどうでもいいって思う私がいるの。


 だって、私にはしなければいけない事があるから。


 慰める?


 声をかける?


 安心させる?


 ううん、違う。もっと前段階。


 私は今、一樹のそばにいないといけないの。


 ただ、それだけ、その単純で、たった数時間できなかった行動を叶えるため、私は病院に急いだ。




 




 


 

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