はじまりのif

うちゅうねこ

序章:「はじまり」

──それ紛れもない「はじまり」だった。


なにもない。なにもない。闇さえもあるとは言い難い。それは本当の無だった。

そこに、とつぜん、ひかりが。

それはほんの一瞬だった。人間の一生と比べても短い、瞬きする間に過ぎ去ってしまう、そんな刹那の衝撃から、全ては生まれた。


──あぁ、おそろしい。


それは感動でも悲しみでもない。ただ、一瞬ですべての秩序が書き換わってしまう自然への畏怖。生命の根源にある本能的な恐怖。人知を超えた、おおきくて、しずかで、かなわない、じぶんではどうにもならないせかい。

いや、そんなことはわかっていた。宇宙はおろか小さな惑星一つさえ一人の人間ではどうにもならない。人間の作り上げた極めて小規模な世界に浸ることで目を逸らしていただけだ。


──こわい。

こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。


めをつぶろう。つぶれない。じゃあ。


──つぶそう。


めをつぶす。

ぐちゃり。

いないはずのじぶんのあつい、なにかのかんかくがする。いたい。でもまだこわい。こわい。

みみをそぐ。

じょきり。

あぁ、いたい。なにもきこえない。でもこれはみみがつぶれたからだ。けっしてここがおとのない「はじまり」だからではない。

はなをそぐ。

がりがり。

ちのにおいがする。においがする。うれしい。

うでをきりおとす。

ぼとり。

これでなににもふれられない。ふれるものがないこともわからない。


──あぁ、こわい。


薄れゆく意識の中、どうしようもないその事実だけを噛みしめていた。

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