39. 最強無敵の英雄譚⑤

39. 最強無敵の英雄譚⑤




 ブレイドは走り続ける。それはかつての仲間の仇を討つためではなく、もう1度『最強』になる。その可能性を信じたいと願った仲間の少女のために。


 そしてロデンブルグの北の入り口が見えてくる。そこはまるで壮絶。切り刻まれた木々や岩石。焼き焦がされた地面。その状況が禁魔種の強さを物語っていた。


 しかしブレイドは信じられない光景を目撃し。それは前方に見える巨体の魔物に恐怖したわけではない。そこにいる自分を『最強無敵』と呼ぶ少女。その少女が立っている場所から後方の地面や木々や岩石にはのだ。


 ましてやその巨体を持つ三つ首の狼の牙や爪はボロボロになっており、息もあがっている。そう疲弊だ。その少女はあのプラチナランクのギルド冒険者複数人でやっと討伐できる禁魔種をたった1人で防ぎ続け、禁魔種ですら疲弊させていたのだ。


『最強無敵』。その状況は紛れもなく、それを体現しているかのようだった。


 ブレイドは笑みを浮かべる。やはりこの少女は……


「はぁ……はぁ……さすがに疲れてきた。しつこい狼だよ本当に」


「エルン!!禁魔種の首を拘束しろ!!オレが仕留める!!」


「ブレイドさん!?」


「早くしろ!!」


 早くしろ?なんでそんなに偉そうなんだ?気にいらないよ本当にこのおじさんは!私は魔法装具マジックウェポンを鞭に変え、ケルベロスの三つ首を縛り上げ拘束する。ブレイドさんはありったけの魔力を込め、炎の魔法剣を造り上げケルベロスに向かっていく。


 そして疲弊したケルベロスはなす術もなくブレイドさんの炎の魔法剣で首をすべて落とされた。巨体が倒れ、大きな音と砂ぼこりが巻き起こる。


 砂ぼこりがはれ、ブレイドさんは立ち尽くしていた。勝ったんだ……私たちが禁魔種を倒してロデンブルグを救ったんだ!それと同時にブレイドさんもシャーリーさんの仇をとったんだ。


『良かったですねシャーリーさんも喜んでます』


 というありきたりなことを言うのはなんか違う。だからブレイドさんにはいつものように言ってあげることにする。気を使うのは少し照れ臭いから。


「ブレイドさん」


「ああ?」


「泣いてもいいんですよ?豊満な私のお胸をお貸ししましょうか?」


「どこがだよ。それより、お前後ろを見てみろ」


 ブレイドさんに言われて私は後ろを見ると、そこには禁魔種ケルベロスの攻撃で切り刻まれた木々や岩石。焼き焦がされた地面が見える。やばっ!私こんな攻撃を防ぎ続けてたの!?そう思ったら急に足に力が入らなくなりその場に座ってしまう。


「エルン。オレは危険を感じたら離脱しろと言ったよな?なぜ離脱しなかった」


 あー。これ本気で説教してるよこのおじさん。面倒だな。


「そんなの倒せると思ったからに決まってるじゃないですか?私はロデンブルグのみんなを守りたいし、必ずブレイドさんが来てくれると思ってましたから。というか……遅すぎですからねブレイドさん?腕が鈍ってるんじゃないんですか?」


「ああ?なんだって?」


「というわけで。私のことおんぶしてください。もう疲れて立てません」


 ブレイドさんは文句を言いながらも私をおんぶしてくれる。大きい背中だなぁ。なんか安心する。……いやいや。そんなこと思ってはダメだこのおじさんには。


「あっ。」


「なんだ?」


「もしかして私の豊満なお胸の感触を味わってますか?」


「は?どこがだよ。むしろ固いんだが?板か何かか?」


「そんなわけないよね!もう嫌い!ブレイドさんなんか嫌い!」


「暴れるなよ!置いていくぞ」


 こうして街まで戻っていくことにする。本当にこのおじさんはしょーもないよ。



 ◇◇◇



 ロデンブルグの中央広場。そこにはロデンブルグの街の住民、ローゼンシャリオの騎士団の面々とミーユとアティが待っていた。


 先ほど聞こえた大きな音。エルンとブレイドが戻って来なかったら……そんな不安が全員によぎっていたが、この2人は違った。


「2人とも大丈夫ですかね?」


「大丈夫じゃない?どうせいつものように喧嘩しながら帰ってくるって」


「えっミーユさんんですか?」


分かるじゃんアティ?」


 そう可愛くウインクをするミーユ。その瞳はいつもと同じピンク色。そして人々の視線の先に段々見えてくる2人の人影。その瞬間、人々はこのロデンブルグ防衛戦の勝利を確信した。


「みんな~!ただいま~!禁魔種は討伐したよ~!」


「うるせぇ!騒ぐな!」


 人々は歓喜に湧く。それはそうだ。あの禁魔種を討伐し、その脅威からこの街を守ったのだ。街の住民たちに笑顔が戻る中、1人の少女が言った。


「あのお姉ちゃん格好いい……英雄様だね!」


「英雄?ああそうだ!ロデンブルグの英雄の凱旋だぁ!」


「「「エ・ル・ン!!エ・ル・ン!!」」」


 そして大きな歓声が聞こえる中、私とブレイドさんはミーユとアティのところにつく。2人は笑顔で迎えてくれる。


「よっと。ただいまミーユ、アティ」


「お疲れエルン。やっぱりエルンは最強無敵だね!」


「2人とも無事で良かったです!」


 そこにルーベット隊長とロイ副隊長がやってくる。


「色々助かったぞエルン殿。すまない頼りない指揮官で」


「いえ。ルーベット隊長は凄く優秀で立派な指揮官です。このロデンブルグ防衛戦で。これがルーベット隊長の功績ですよ。……なんて偉そうですよね。すいません。」


「ふむ。英雄に称されるか……素直に喜ぼう!また機会があればお願いするかもしれん。その時はよろしく頼むぞ」


「では我々はあと処理があるので。行きましょう隊長」


 そう言ってその場から離れていく。私が言ったのはお世辞でもなんでもない。本当にルーベット隊長はすごい人だ。


「はぁそれより安心したら、私。お腹空いちゃった」


「じゃあご飯食べよ!今日はブレイドの奢りね?今まで『閃光』だったっていう秘密を隠してたんだから!罰ね罰」


「……お前にだけは言われたくないがミーユ?」


「まぁまぁ。依頼成功出来て良かったんですから。みんなでいっぱい美味しいものを食べましょう!」


 こうして私はロデンブルグを救った。『王国特級任務依頼』とても危険だったけど、アティの言うとおり誰も犠牲にならず成功して良かった。私も少しシャーリーさんのようなギルド冒険者になれているかな……そんなことを思いながら、街中に響き渡る「エルン」コールに酔いしれるのだった。

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