37. 最強無敵の英雄譚③

37. 最強無敵の英雄譚③




 -ロデンブルグ北-


「ふぅ……とりあえず一段落かな」


 私は負傷者の救護をおこなっていた。ポーションを中心に、時には回復魔法も使って。まぁ私は何でもできるからね。優秀な美少女だから。


 他の回復魔法士も手伝ってくれたし、怪我人はほとんどいなくなった。そしてそのまま戦線からの離脱のお手伝い。それに、前線が押し込まれてる状況だけどルーベット隊長が加勢してからは騎士団も勢いを増しているようだった。これなら問題ないだろう。


 さて、私の仕事は終わったけど……どうしようか?このままここにいても邪魔だろうし……。私も前線のルーベット隊長に合流しようか?いや……私は魔物を倒せないし邪魔になるだけだ。……私って邪魔じゃん……。いいやポーションの空き瓶とか片付けてよう。


「隊長!遠くから新たな魔物の軍勢が来るのが見えます!」


「ちっ……なんとか持たせるぞ!」


「くそっ!なんでこんなに魔物がいるんだよ!」


 すると双眼鏡でのぞいていたその騎士は突然その双眼鏡を地面に落とす。そしてみるみる血の気が引いていく。


「あ、ああ、見て下さい。ルーベット隊長……あれを……」


「今度は何だ……って、あれは……」


 隊長のルーベットは絶句した。


 そして、絶望とともに呟いた。勇敢に戦っていた騎士たちも、その様子を見て唖然とする。まだ戦闘中だと言うのに武器を落とす者たちすらいる。


 ズシン……、ズシン……。


 北の方角から、ゆっくりと近づいて来る巨大な影が見えた。遠い、なのに足音は地響きのようにはっきりと、ハッキリと分かる。その感情は『恐怖』『絶望』。


 激しい戦闘の土煙で、最初はっきりとその姿は見えない。


 だが、その一歩が桁違いに大きいのだろう。目の前に現れた魔物の軍勢すらなぎ倒しながらみるみる近づいて来た。やがて、その姿をルーベット隊長たちの前にさらけ出してみせたのである。


 強靭な巨体、鋭き爪牙。それが3つ。まさしくそれはあの三つ首の狼。


「こいつは……禁魔種ケルベロスだとぉ!!?」


 それは禁魔種と言われる存在。プラチナランクの冒険者を複数人連れてこなければ太刀打ちできないほどの魔物であった。暗黒大陸に渡らなければ遭遇しないはずのそいつは、間違いなく目の前にいた。この街の終わりそのものを暗示したかのように。


「終わりだ……」


「こんなの勝てるわけ……」


「くそ、すまない……オレはここまでだ……」


「ちっ皆の者!急いで離脱しろ!」


 しかし、誰にもルーベット隊長の懸命の叫びは届かない。いや届いているが動けない。恐怖と絶望が戦線にいる騎士たち全員の胸中を支配していた。


 次々に動きを止める騎士たち。その最前線で戦っていた一人の騎士にその禁魔種ケルベロスが襲い掛かろうとしていた。しかし、もはや絶望した騎士は剣を構える気力もない。


 その三つ首の狼の爪が振り下ろされる。まるでスローモーションのようにその騎士には見えた。


 その騎士はすぐに来るであろう痛みや絶命の苦しみをぼんやりと待った。


 しかし、それはなかなか来なかった。


 いや、それどころか、


「やああああぁぁぁぁ!!」


 三つ首の狼の爪がその騎士の命を奪おうとした瞬間、蒼白き刀身を持つその相棒で1人の少女はそれを受け止める。


「え……?」


「大丈夫!?すぐに離脱して!」


 そう言いつつ、三つ首の狼の猛攻を受け流すように防ぎ続け、更にはその巨体を吹き飛ばす。


「エルン殿!!」


「ルーベット隊長正解です!やっと名前読んでくれましたね!ここは私が引き受けます。早く離脱の指示を!」


「無茶だ!そいつは禁魔種ケルベロスなんだぞ!」


 ええ!?こいつ禁魔種だったの!?なんかデカイ狼がいるから無我夢中で前線に来ちゃったけど……まずかったかな?でも今更戻れないし……。


 私はふと後ろを見る。そこには負傷者や騎士たちがなんとか離脱を試みていた。私が立っているこの場所……ここが最終防衛ライン。ここを突破されれば街のみんなの命はない。だからなんとしても食い止めないといけない。


 持っている魔法装具マジックウェポンを強く握りしめる。私は困っている人を助けたくて、シャーリーさんに憧れてギルド冒険者になった。だからここで退くことはできない!私がみんなを守ってみせる!そして私は再び前を向く。


「ルーベット隊長!早く!」


「……わかった。頼むぞ!」


「任せてください!」


「みんな!聞け!エルン殿が時間を稼ぐ!その間に撤退せよ!」


 ルーベット隊長の指示で、少しずつ後退を始める騎士団員。その間、私は禁魔種ケルベロスの猛攻を防ぐ。


「ルーベット隊長!お願いがあります!」


「エルン殿?」


「……私の仲間を呼んできてもらえますか?私じゃ禁魔種ケルベロスは倒せないから」


 私のその真剣な顔を見てルーベット隊長は少し驚いた顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。それは私に希望を見たのかもしれない。


「分かった。それまで持ちこたえてもらえるだろうか?」


「任せてください!」


「エルン殿……死ぬなよ」


 そしてルーベット隊長は駆けていった。さて、ここからが正念場だ。確か禁魔種ってプラチナランクの冒険者複数人でやっと討伐できるんだったよね……。


 そんなことを考えながら、私は目の前の敵に集中する。


「グルルルッ……」


「さあ、来なさい禁魔種ケルベロス。この最強無敵のギルド冒険者の美少女が相手になってあげるから!」


 私はただ信じて守り続ければいい。必ずブレイドさんが助けに来てくれる。ここから先は一歩足りとも進ませない。覚悟して禁魔種ケルベロス!

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