9. 境遇

9. 境遇




 あれから3日後、ギルド掲示板にクロスたちと勝負する依頼内容が貼り出された。内容はアイテム収集か。指定された依頼物を先にギルドに持って来たパーティーの勝ちという内容だった。


 ギルド内のギルド冒険者たちも興味があるようで、一部ではどっちが勝つかの賭けも行われているみたい。私のクビがかかっていると言うのに無関係な人たちは呑気なもんだ。


 私たちはギルドに集まっていつも通り作戦を立てることにする。そして一番最初に開口一番ミーユが依頼内容を見て不満を私とブレイドさんに漏らす。


「これってさ私たちが不利じゃない?依頼物は3つあるんだから。パーティーの人数が多いあっちの方が有利だと思うんだけど。」


「あのなミーユ。そりゃ相手が不利になるものを持ってくるだろう。当たり前のことだ。勝負なんだからな」


「えっと集める依頼物は『フレイムドレイクの爪』『月光水』『ムーラン花』か・・・私はどれも聞いたことないけど。」


 私の知識ではどれも初めて聞く名前の物ばかりだ。まずはこの3つのある場所を調べるところから始めないとだよね。


「ならエルンお前図書館へ行って確認してこい。ミーユは街で聞き込みな、その情報を得る。話はそれからだ。」


「え?ブレイドさんは?」


「オレはここで待ってるからよ。酒でも飲んでな」


 この人は……。まぁもう慣れたけど。とりあえず私とミーユはギルドから外に出てお互いやるべき事の為に別れた。残りは4日、それまでに依頼物のある場所を調べないとな。私はやる気に満ち溢れていた。


 そして私は図書館に向かうために街の噴水広場の前を通っていると、見たことがある人物を見かける。腰まで伸びる長い金髪、見た目聖女のような少女。間違いない。私と入れ替えでクロスのパーティーに入った子だ。でも下を向いてすごく寂しそうな顔をしている。なんか放っておけなくて声をかけてしまった。どこか自分に似ていると思ったからかもしれない。


「あの……」


「!?あっ【便利屋】さん……じゃなかったエルンさん。そのすみません。」


「あっうん。えっとあなた確か私と替わってクロスのパーティーに入った人だよね?」


「アティ=ホワイトロックです。」


 あの時はそれどころじゃなくてよく見てなかったけど、正に癒しの聖女って雰囲気で美人な子だな。


「どうしたのこんなところで。何か悩みごと?」


「あっ……はい。その……」


 私はふと彼女が持っている物を見た、そこにはブロンズランクの冒険証が握りしめられていた。


「あれブロンズ?クロスのパーティーはシルバーランクじゃ?」


「先程、パーティーを追放されました。」


「えっ!?追放!?」


「あなたたちとの勝負には私は必要ないって言われてしまいました。えへへっ」


 また追放を……。


 クロスたちのやり方に文句を言うつもりはないけど私は同じ追放を受けた立場だから彼女の気持ちはわかる。もちろん優秀なギルド冒険者パーティーの中にも仲間をころころ入れ替えているところもある。上へ行くにはそれも1つの方法なのは私も理解している。


「実は最初からこうなるような気はしていました。私も結構追放されてますから。あっあなたには敵わないですけど。えへへ」


「私以上ならギルドをクビになっているけどね……。」


「あのエルンさん。私って何ができるように見えますか?」


 何ができる?うーん。正直分からないというのが答えなんだけどね。


「分からないかな。私は見た目とかそういうのはあまり当てにならないと思っているから。」


「エルンさんみたいな人なら私の事を最初からパーティーにいれなかったのかもしれませんね。」


「え?」


 アティは見た目でクロスのパーティーに誘われたってことかな?ああそうか癒しの聖女って雰囲気だなって私も思ったし。ふとアティを見てみると背中に大きな布でくるまれた何かを背負っている。


 あれは……もしかして……


「あのアティ?聞いてもいい?」


「はい何でしょうか?」


「アティってもしかして……」



 ◇◇◇



 私がギルドに戻ると、街に聞き込みに行っていたミーユはすでに戻っていてブレイドさんと一緒にいた。


「あっお帰りエルン・・・あれ?はい?」


「ああ?お前は一体何がしたいんだエルン。何で相手パーティーのやつなんか連れてるんだ」


「ブレイドさん、ミーユ。この子はアティ。今日クロスのパーティーを追放になったみたいだから、私のパーティーにいれようと思うんだけどどうかな?」


 私は少し食い気味に2人にお願いする。そのお願いに考えることもなく2人はすぐにこう言った。


「そなの?私はミーユよろしくね」


「リーダーはお前だろ。オレはブレイドだ。っでエルンお前はちゃんと図書館で依頼物の事を調べてきたんだろうな?」


「え?え?そんなにあっさり受け入れてくれるんですか?私の事知らないですよね?」


 アティはすんなり2人が受け入れてくれたことに戸惑っているようだ。ブレイドさんもミーユもきっと私のことを信頼しているんだよね……たぶん。


「じゃあ決まり。アティは今から私たちのパーティーね。この後パーティー登録しようね」


「はい。そのアティ=ホワイトロックです。よろしくお願いいたします」


「エルン。お前いいやつ連れてきたな?」


 私はブレイドさんにそんなことを言われて、思わず頬をつねってみる。痛い!夢じゃない!?このおじさんが素直に私を誉めるのは初めてじゃないか?


「アティって言ったか?このパーティーの前衛はオレしかいなかったから、お前が加入してくれて助かった。これで作戦の幅が広がる」


「!?……どうして私が前衛だと分かったんですか?回復魔法が使えるクレリックとか思いませんでしたか?」


「ああ?何言ってんだ?だってお前布でくるまれた男でも扱うのが大変そうなバトルハンマーを背負ってるじゃねぇか。違うのか?」


 そうブレイドさんの言う通り。見た目は聖女だけど、彼女はバトルハンマーを使う戦士。いわば前衛。あっでも回復魔法も使えるみたいだけど、強力なものは使えないみたい。クロスたちのパーティーにいた時は無理して杖を持って回復要員として頑張ってたみたい。


 ブレイドさんの言葉を聞いてアティの目には涙がうっすら見えた。


「あ~ブレイドが女の子泣かせた~!最低~。」


「ああ?オレのせいなのか!?お前なんで泣いてるんだ?泣くなよ」


「すみません……私……嬉しくて。精一杯頑張りますのでよろしくお願いいたします!」


 こうして私は新しくバトルハンマーを使う戦士のアティをパーティーに加え、クロスたちとの勝負に挑むことになるのだった。

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