7. 追放29回からの最強宣言

7. 追放29回からの最強宣言



 ミーユの目が元のピンク色に戻る。これは間違いなく何かのスキルだろう。私はブレイドさんのほうを見る。


「お前も神格スキル持ちか。」


「神格スキル?なにそれ?なんか気づいたときにできるようになっていたんだよねこれ。」


 ミーユも神格スキル持ちなのか。なんか本人は気づいていなかったみたいだけど……。偶然なのかこんなにも神格スキルを持っている者がここまで集まるなんて。もしミーユがパーティーに入ってくれたら更に最強になるのでは?私はすぐに顔を戻す。絶対今の顔に出ていた。いけないいけない。冷静に話をすすめることにする。


「神格スキルって本当なんですか?」


「ああ。ミーユお前の能力は『鷹の目』だな。なるほどキラービーの巣からエーテルドロップを採取できたのも納得だな。『鷹の目』は視点を飛ばすことができるスキル。索敵能力に優れている反面、距離や時間で目を酷使する。長時間の使用は失明のリスクもあるからな。覚えておけ」


「マジ?ありがとねブレイド。私、知らなくて使い続けるところだったよ!」


「まぁ訓練次第では強力なスキルにもなるがな。ミーユ。1つ言っておく。あまりそのスキルの事を周りにばらさない方がいい。お前のそのスキル欲しさに近づいてくる輩もいる。まだ実力がないぶん最悪死ぬこともあるからな。」


「忠告ありがとうブレイド。でもその心配はないと思うから安心して。というか重要なことがあるんだけど。」


 重要な事?なんだろ。私はミーユの方を見る。するとミーユはニコニコしながらさらっととんでもないことを言う。


「うん。そのグリムドラゴンはこの先に2体いるよ。」


 ええ!?ドラゴンが2体もいるの!?ど、どうしよう……。初めてのドラゴン討伐なのに……最悪。そんなことを思っているとブレイドさんが言う。


「別に問題はない」


「え?グリムドラゴンが2体いるんですよ!一気に2体も相手になんか……。」


「1体はお前が相手しろエルン。残りの1体をオレとミーユで倒してお前に合流する。お前の『相殺の調停キャンセラー』のスキルなら大丈夫だろ?」


 えっ……そんなに簡単に言わないんでほしいんだけどさ。ドラゴンなんかと戦ったことないってば。


「意見は聞かない。その作戦で行く。とりあえず先へ行くぞ」


「そっそんなぁ……」



 ◇◇◇



 そして広い場所に出る。すると目の前に2匹のドラゴンが見えてくる。間違いないあれがグリムドラゴンだよね……。中型と言えど間近に見るとそりゃ巨大だ。あんなのを1人で相手にしなくちゃいけないのか……。


「ミーユ。お前は何ができる?」


「私?私はこの魔導銃で戦う事かな」


「魔導銃かめずらしいな。それはライゼンバッハ帝国の国産物だろう?どこかの武器屋で買ったのか?」


「……まぁそんなところ。私が後方から援護で、ブレイドがドラゴンを狩るってわけね?」


 そんな2人のやり取りを私は横目で見る。なんかいいな作戦の話し合いができて……。でも、もう私に残された選択肢はないし、あの時覚悟は決めたから。


「エルン。お前は大丈夫か?正直この作戦はお前があのドラゴンと1人で戦えなければ成立しない。できるか?」


「やるしかないですよね?大丈夫です。覚悟はできています。私はこのスキルで今までパーティーを追放してきた奴らを見返すんだ。絶対にグリムドラゴンを討伐してシルバーランクに昇格する!」


「返事だけはいいな。よし……オレが合図を出す。」


 ブレイドさんは合図を出し私たちは一斉に分散する。私は注意を引き付けるためにブレイドさんが使っていた炎の攻撃魔法『ファイアボール』を放つ。それは見事グリムドラゴンへ命中し1体が私に狙いをつけて向かってくる。


「初めてにしては上出来だエルン。ミーユ援護を頼むぞ!」


「もちろんまかせて!」


 上手く分断できたみたい。私が『ファイアボール』を当てたグリムドラゴンは雄たけびを上げ興奮状態でいる。その声で私は怯まないように持っている杖を地面に突き刺し体制を整える。


 落ち着け落ち着くのよエルン=アクセルロッド。


 ここからよ、私は冷静にグリムドラゴンの攻撃を防ぐことに集中すればいいんだから。爪や牙ならこの腰のショートソードで、火炎ブレスなら魔法バリアで防ぐ。ただそれだけ。大丈夫『相殺の調停キャンセラー』のスキルは最強のスキルなんだから!!


 グリムドラゴンの身体が大きく膨らむ。そしてその瞬間、高温の炎のブレスが私に襲いかかる。それを私は魔法バリアで防ぐ。そのブレスを振り払った途端、グリムドラゴンの爪は私の目の前まで迫っていた。それをショートソードで受け止め、私は距離をとる。


「はぁはぁ……いける……やれる!」


 これが『相殺の調停キャンセラー』のスキルの力なんだ。強敵と戦うことで実感が湧いてくる。私は絶対グリムドラゴンの攻撃を防ぐことができる。私は普通の平均的な能力者じゃない、『便利屋』でもない。今の攻撃で確信できるようになったよ。


「エルン派手にやってるね。私も頑張ろうかな……ブレイド!少し時間を稼いで!」


「ああ。分かった」


「『鷹の目ホークアイ』……」


 ミーユがスキルを発動するとその両目は金色へ変わっていく。そしてミーユはグリムドラゴンのを探す。


 このスキルには探索能力のほかに相手の内部組織まで透視する力がある。だからミーユはキラービーの巣の中で目的のエーテルドロップをいとも簡単に手に入れることができたのだ。


「見えた……さて、どれにしようかな……これに決めた」


 ミーユは自分のポシェットから素早く必要な弾丸を選び魔導銃に詰める。そして勢いよくその急所目掛けて発射する。


「撃ち抜け……『重撃の弾丸へヴィインパクト』!!」


 大きな音と共にミーユの魔導銃から放たれたその弾丸はグリムドラゴンの急所に当たり、大きく体勢を崩す。


「今だよブレイド!」


「うおぉぉぉぉぉっくらえ!!!」


 断崖の壁を使いグリムドラゴンの真上に跳びあがったブレイドさんは、その剣でグリムドラゴンの首を一気に両断する。そしてその場に倒れこんだ。そしてそのあと私が相手していたもう片方のグリムドラゴンはブレイドさんとミーユが合流してくれ、さすがに3対1の状況でなす術もなく私たちに狩られたのだ。


「エルン大丈夫か!?」


 私はその言葉を聞く前にすでにブレイドさんの所へ走り出していた。そして手を握りブレイドさんに言う。


「私……私できた。私能力がなかったんじゃない。使い方が分からなかっただけ。あのあの……一緒にパーティーを組んでくれて、ブレイドさん本当にありがとう!!」


「……泣くなよ大げさだなお前は。言っただろうオレがお前を『閃光』くらいまで連れていってやると。それにまだ始まったばかりだろう?オレたち底辺が頂点をとるのはまだまだ先だ。」


 そしてブレイドさんは、そのまま私の頭に手を置く。そして少しほほえみを浮かべながらこう言った。


「これからもよろしくなエルン=アクセルロッド。」


「はい!こちらこそよろしくお願いしますブレイド=クロフォードさん!」


 私は依頼を達成した。正直、興奮であまり覚えていない。初めはルナレットさんが決めたことだったけど、ブレイドさんとパーティーを組めて本当に良かった。


 ギルド内では底辺の私とブレイドさんの逆襲はここから始まる。


 今ここに宣言するよ。追放29回を受けた『便利屋』と呼ばれている私が、あの伝説の最強ギルド冒険者パーティー『閃光』を必ず越えて見せるってね。

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