2. 底辺と底辺

2. 底辺と底辺




 次の日。私は今ギルドにいる。そうこの男と。周りにいる他のギルド冒険者たちは私たちを蔑んだ目で見ている。それもそうだよね。だってこのギルドで嫌われている『便利屋』と『死神』がパーティーを組んでいるんだから。


「なんでオレがお前みたいなガキの面倒見ないといけないんだよ?」


「こっちだって願い下げなんですけど」


 何でこんなことになったのかって?それはルナレットさんの提案だからだ。


 ルナレットさん。このギルドの受付嬢で2年前に初めてこのギルドに来たときからお世話になっているお姉さん的な存在。まぁ私には提案なんかなくても、こうするしか方法はなかったかもしれないけど……。


 そんなことを考えているとルナレットさんがギルド依頼の依頼書を持って来てくれる。それはかなりの量で、依頼書が机の上に乗るとドンッという音が響き渡る。


 このローゼンシャリオにはギルドはここしかないから、騎士団と依頼を分けあってもこの量だ。


「これが今ブロンズランクの冒険者が受けられる依頼ね」


「こんなにあるんですね……」


 その大量の依頼書の中から依頼を確認しながら吟味する。もう失敗は許されないし、ここは慎重に選びたい。


「オレは何でもいい。お前が決めろ」


「お前じゃありません。エルン=アクセルロッドです。いい加減に覚えてくださいよおじさん」


「オレはおじさんって歳じゃない。まだ28だ」


 おじさんじゃん。この男はパーティーを組むと仲間が危険な目に合うと言われている曰く付きの『死神』と呼ばれている。


 名前はブレイド=クロフォード。伝説の最強ギルド冒険者パーティーの『閃光』に並ぶほどの実力者だったと噂されているけど、私から見れば今はただの酒呑みのおじさんだ。


 私が真剣に依頼書を確認していると、そのおじさんは私に問いかけてくる。


「なぁ。お前悔しくないのかよ?」


「えっ?」


「この前のパーティー。結構実力があってルーキーなんて言われてるんだろ?お前が何をしていたか知らないがいきなり追放されてよ」


 ……何でそんなことを聞くんだ?悔しいに決まってる。私はいつもいつも追放を受けまたパーティーを組む。それの繰り返しだった。


「悔しいよ……私だって頑張ってたのに」


「なら何でやり返さない?オレはお前が追放されるのを何度も見ている。だが、お前は1度たりとも反論しない」


「それは……」


「それにさっきから見てるが楽な依頼ばかり選んでるだろ。追放した奴らを見返したくないのかよ?そんな楽な依頼を受けてもお前を追放した奴らになんかに追い付けるわけないだろ!」


 私はそれを聞いて机を思い切り叩いて立ち上がる。周りにいた人たちは驚いているけど、そんなのお構いなしにおじさんに言い放つ。


「分かってます!でも仕方がないじゃないですか!?私は……」


 私は出掛かった言葉を飲み込む。結局こうやって関係のないこのおじさんには反論できるのに。本当に私は弱い。でも自分で自分を否定したくない。


「……それ以上言っていたらパーティーを組むのをやめようと思ったがな。」


「……。」


「あとお前何か勘違いしてるだろ?お前とオレはこのギルドじゃ底辺も底辺。そこらへんの依頼じゃ見返すことなんてできない。……エルン。お前ギルド冒険者としての覚悟はあるのか?」


「!?……あります!私は這い上がってみせる!もう2度と『便利屋』なんて呼ばせない!」


 私は周りに人がいるのも気にせずに大きな声でブレイドさんに覚悟と想いを伝える。


 いつの頃か『便利屋』なんて呼ばれていても私を必要だと思ってくれていると思っていた。でも違った。私はただの道具、パーティーの穴を埋めるためだけの存在だった。もう2度とそんな思いはしたくない。


「うるせぇな……大きな声を出すなよ。まぁお前の覚悟は受け取った。それが口だけにならないといいけどな。そこの依頼書を見せてみろ」


 ブレイドさんは私から見て右端にある依頼書を指差す。そっちの束は魔物討伐依頼の依頼書だ。そしてパラパラとめくり、一枚の魔物討伐の依頼書を私に見せてくる。


「こいつだ。このグリムドラゴンを狩る」


「ドラゴン!?」


「ドラゴンって言っても中型のドラゴンだ別に問題はないだろう?このグリムドラゴンを討伐すればシルバーランクに一発で昇格できるポイントが貰える。それだけの価値がこのグリムドラゴンにはある」


 ドラゴン討伐。私が何回かパーティーを組んでいるときにも依頼を避けてきた。そこら辺の魔物討伐をするより、はるかに危険だし難易度が高い。それに何より少ない人数での討伐には向かない。それを分かって言ってるんだよね、ブレイドさんは?


「少人数で狩るような相手じゃない。お前の考えていることは分かる。でもな何かを示すときは危険なことでもやらなくちゃいけない。それがギルド冒険者だ」


「ブレイドさん……」


「よし。おーいこの依頼を受けるぞルナレット」


 ブレイドさんは受付にいるルナレットさんを大声で呼び依頼書を手渡す。その依頼書を見て不思議なことにルナレットさんは軽く微笑むだけで何も言わなかった。いつもは色々教えてくれるんだけど……。


「とりあえずパーティーを組んでいるんだお互いの事を知るべきだな。エルン聞いておきたいことがあるんだが、オレは剣術と魔法剣が得意だ。お前は?」


「私は・・・何でしょう?特にないです」


「特にない?ならできないことは?」


「特にないです。」


「お前は武器も体術も攻撃魔法も補助魔法も回復魔法も使えるっていうのか!?」


「はい・・・使えます」


 嘘は言っていない。私は何でもできるがそれが中途半端なだけなんだ特段威力があるわけでもないし。だから【便利屋】なんだ。パーティーの穴を埋めることができる。そう見られていたんだ。するといきなりブレイドさんは椅子から立ち上がり私に言う。


「エルン。表に出ろ、オレと勝負な」


「はい???」


 私はいきなりの唐突な言葉に開いた口がふさがらない。なぜブレイドさんと勝負することになるんだ?私もしかして今まで失礼すぎたかな……。ただの酒吞みのおじさんとはいえ年上だもんね……。それは否めないけどさ。


「早くしろ。何も殺したりしねぇよ、殺したりはな」


「なんかすごい意味深なんですけど!?」


 何故かブレイドさんに半ば強引に外に出されて、王都の東にある草原に行く。そして勝負することになってしまった。どうしよう。私が戦えるのかな。ブレイドさんは私に木刀を渡してくる。


「勘違いするな。お前が自分の事をよく分からないから手合わせで確認するだけだ。だから本気でこい」


 そうかブレイドさんなりの優しさなんだ。良かった。それならお言葉に甘えて本気でやろう。そうしないとブレイドさんに失礼だし。


「わかりました。いきますよブレイドさん!」


 ひょんな事からブレイドさんと手合わせする事になった。でも私は気づいていなかったんだ。ブレイドさんが私に教えてくれるまで私のを。

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