第33話 女神様の上映会、開催

 神殿の寝具はとても気持ちいいので、ぐっすりと眠れる。

 しかし最近の女神様の動向から、油断はならない。私は夕食を頂いた後、早めに寝室に入った。

 眠っていると、上の方が白い光に包まれる。夢か現実か、よく分からない。

 ただ、また女神様の仕業だなとは理解できる!!!


『ウイーッス! イライア~、今までペレと飲み会してたよ! 超気持ちいい~!』

 火山の女神、ペレ様の祭壇への礼拝が終わったから、仲良く飲み会してたわけね……。疲れている私は放っておいて欲しいわ。

「ペレ様は喜ばれましたか?」

『地上に祭壇を作るの、良い考えだって大喜び! お前の世界の人間も、たまにはマトモじゃんって褒められた』

 多分それ、褒められてない! よくも都合良く解釈するなあ。


「良かったですね。ではおやすみなさい」

『休まない! 神様は年中無休! いやあジャンティーレ殿下の活躍、カッコ良かった。アンジェラちゃんもゲームより可愛いよね!?? 私、天才じゃない!?』

 パクリの天才。それってむしろ犯罪者では。

「ソティリオ様も強かったですよ」

『イライアも戦闘能力をあげれば良かったねえ。今からでもクジラを持ち上げる筋力と、コンクリートを破壊するパンチ力、いる?』

「いりません。むしろ要注意人物になりそうです」

 そもそもコンクリートがない世界ですが。

 女神様は相変わらず顔がぼんやりして見えないが、すねた表情をしているだろうとは想像が付く。


『イライアって、なんかクールよねぇ。やっぱり一緒にリアルタイムで見ながらがいいって、ペレと飲み会してて思ったわ』

 つまり、ダンジョン攻略をさかなに飲み会してたと。そりゃあ楽しかったでしょうねえ。

 ……あれ? 攻略開始からは、かなり日数が経ってるよ。

「まさか、ずっと飲んでたんですか?」

『違うよ~。攻略まで飲んでて、そのあとは記録した映像の編集作業。超頑張った! 世界がもう一つ作れるくらい!』

 映像の編集。悪い予感がするので、これには突っ込まない。

 女神様って、なんで無駄なことだけ真面目にやるのかな。年中無休じゃないわ。


『で、それを終えてペレと飲み会を再開してたわけ! さてお待ちかねの上映会を開始しまーす! ジャンティーレ殿下かっこいい特集、それからイライアの活躍もまとめてあるから安心!』

「やめてくださいいいいいいぃい!!!!!」

 映画のような大きなスクリーンが、突然目の前に現れた。中くらいの場所の席に座ったくらいの距離感だ。

 “突撃! ダンジョン攻略!”という赤色で太いフォントのテロップが映し出され、ジャンティーレ殿下の横顔が大写しになる。そしてカメラを引いていくのに合わせてこちらを向き、笑顔をみせた。背景は水色の髪に溶けるような晴天。

 本気で編集してるわ!!!


 私の懇願こんがんも空しく、深夜に突然始まった私の夢でのダンジョン攻略上映会は、明け方まで続けられた。夢の中だから眠っているはずなのに、寝た気がしない。

 自分の逃げ惑う姿とか、わざわざ上映されたくないわ。

 これってどんな罰ゲーム? それとも羞恥プレイってヤツ……!? ところで私の悲鳴って、かなりバカっぽい!

 本当に乙女ゲームのキャラが元になっているんだろうか……。


「……さま、イライアお嬢様」

「……はっ!?? パロマ……、朝なのね……」

 女神様主催の地獄の上映会が終わり、やっと生還できた。

 夢の中で私はペンライトとジャンティーレ殿下の名前入りウチワを持たされ、ダンジョンで戦う映像の応援を一緒にさせられたのだ。

 護衛の騎士が活躍する場面では上手くカメラを寄らせて殿下が映り、どこからともなく私の悲鳴やお経が流れてきたりした。自分の声って小さくても意外と把握できるのね……!

 端々に出てくる自分だけでも恥ずかしいのに、殿下の特集の後は私の記録映像なのだ。本当にヒドい。これなら殿下を二周でも付き合ったわ……。


「随分うなされていましたよ。悪い夢でも見たんですか?」

「……ちょっと女神様がね……」

「ええっ!? もしかして、不吉な神託が下ったんですか……!??」

 パロマが動揺して水差しを落としそうになった。汗を掻いていた私に、水分をくれようとしていたのだ。

「違うわ、ダンジョンでの反省会っていうか……むしろ女神様は喜ばれていたわ」

 心配ないと告げると、パロマは胸を撫でおろした。

「なんだ、そうだったんですか。でも、それならなんで、あんなにうなされていたんですか? 消してとか言ってましたよ」

「女神様が私の回復魔法シーンを再現されるから、恥ずかしかったのよ」

 口にすると、思い出してまた恥ずかしいわ。

 パロマはさすが女神様のお気に入り、と嬉しそうにしている。外はすっかり明るくなっていて、礼拝堂から聖歌がもれ聞こえていた。


 まだ眠いけど、そろそろ起きなきゃな。ベッドから出ると、唐突に扉がバタンと開いた。

「ヘイヘイ! イライア様、朝ですグッモーニン! 朝食タイムはスタートしてます、食欲ノー? それともまだまだスリーピン?」

 もう一つの頭痛の種、朝からルー語修道女がきたわ……。

「こら! ノックをして静かに開けなさい!」

 指導係の修道女も追い掛けてきて、開けっぱなしの扉を静かに閉めた。

「ちょっと寝不足でして、できればこのお部屋で食事させてもらえませんか?」

「オッケー、すぐに準備にレッツゴー! イライア様は待っててプリーズ、あっしが願いをカムトゥルー」

 そしてまた開けっぱなしにして去って行った。

 嵐のようだったわ。


「……大変申し訳ありません」

「大丈夫です、ワガママを言ってすみません」

 指導係が何度も頭を下げている。面倒な後輩が付けられて、この人も大変そうだわ。同情しちゃう、女神様に振り回される私のよう……!

 私が起きないから先に食べるよう、パロマが連絡してくれてあった。なので他のみんなはほぼ食べ終わっており、あとは私だけ。気兼ねなく部屋で頂けるわ。

 食事は指導係の女性が、一人で運んできてくれた。ルー語修道女がいると、落ち着けないと判断してくれたのだ。ありがとう……。


 大礼拝堂で朝のお祈りをして、それから北へ向けて出立!

 王家の馬車の周囲には、群衆が集まっていた。読売よみうりを手に持つ人もいる。

「殿下たちだ、英雄の凱旋がいせんだぞ!」

「カッコいい……! 洗練されていらっしゃるわ」

「アンジェラちゃーん、こっち向いて~!」

 すっかり有名人で、全員の名前がどこからともなく飛んでくる。

 読売に載っているから、みんな知っているのだわ。私たちが南部大神殿に立ち寄っていると、どこかから漏れてしまったらしいわね。

 殿下とアンジェラが笑顔で手を振ると、群衆がわああっと沸き立つ。興奮して押し寄せないように、騎士団や神殿の人が声を張り上げて整理していた。


 あれ、神殿のマークが入った真っ白い馬車も後ろにいるよ。

 見送りだと思っていたロジェ司教が、女性神官と乗り込んでいる。

「神殿の馬車も出るんですかね」

「そうだ、朝食の時にイライアさんはいなかったですもんね。ロジェ司教もご一緒されるって、お話があったんです。南部の代表として、列福式に参列するんですって。なので、お城には行かず、先に北部大神殿へ向かうんですよ」

 アンジェラが馬車の窓から手を振りながら、教えてくれた。

 そうか、ロジェ司教も式に参加するんだ……! ずっと一緒じゃないみたいだから良かった。気が休まらないわ。


「お疲れでございますの? 馬車で横になられます? 私どもは他に乗りますわ」

 フィオレンティーナが心配そうに私の顔をのぞき込む。広い馬車でも、この人数では横になれない。座ってても眠れるから、移動してもらうまでもないわね。

「お心遣いありがとうございます。夢に女神様が現れて、寝た気がしないだけです。ダンジョンでの戦いを見ていらっしゃったそうで、とてもお喜びでした。特に殿下を褒めていらっしゃいましたよ」

「僕を!?? なんと光栄なことだろう、数多あまたいる人の中から僕を選んでくださるとは……! この感謝をどう伝えたら……、そうだ、手紙につづって神官に渡したら、届くだろうか?」

 大感激の殿下が、天に祈りを捧げている。ここで叫んでも伝わりそうな気もするが、周囲に迷惑だろうな。


「伝わると思います。お手紙を書かれたらどうでしょう」

「ありがとうイライア嬢、真心を込めて日頃の感謝と愛を伝えるよ」

「殿下、私のメッセージも入れてください」

 二人が盛り上がっている。殿下は馬車の外で出発の最終確認をしていた侍従に、手紙を書く旨を伝えた。

 南部の神殿騎士団が大勢加わり、馬車の隊列はものものしくなったよ。

 途中で王室騎士団と合流して、そこで南部の神殿騎士団は半数になるんだって。


 出発した馬車へと、みんながずっと手やタオルを振って見送ってくれている。

 見送りの中に、お世話になっていたモソ男爵夫妻の姿もあった。面会に来てくれれば良かったのに、遠慮しちゃったのかな。全部終わったら、お礼に来ないといけないわね。


 ちなみに休憩の時に殿下の手紙用の紙を侍従が確認にきた。

 紙の束は、なんと週刊少年ジャンプほどの厚さがある。書き損じ分もあるにしても、長編の手紙を書かれる予定らしい。読む方も大変だわねえ。

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