第44話 聖剣の覚醒


「あのぉ……」


 セレスティアはギャアギャアと言い合いを始めたルークとリインフォースに恐る恐る声をかける。

 すると、二人とも表情はそのままにセレスティアの方へと振り向いた。


「「なに!?」」


 声が大きかったのは言い合いをしていた名残でセレスティアに向けられたものではなかった。

 セレスティアはビクッと身体を一瞬震わせたが、勇気を振り絞る。


「そ、そのキューブの穴って鍵穴じゃないんですか?」


 その至極まっとうな言葉にリインフォースは溜息を吐いて、声を絞り出す。


「それがわかってないのよこのバカは……」

「そんくらいわかってるよ!」


 ルークはムキになって声をあげたが、それはむなしく森の中に溶けていく。

 次第に静けさが辺りを支配していき、ルークの顔もだんだんと俯いてしまった。


「法力を穴に入れてもダメなんですか?」

「ダメだった」

「私が昔に行った遺跡だと穴の形状に合うように法力を入れると開いたんですけどね」


 それはセレスティアにとって過去を思い出しただけの言葉だった。

 しかし、ルークはそれを聞いて俯いていた顔をパッと上げる。


「それ、形に合わないとどうなる?」

「え?」

「その穴の形に合わないと開かないのか?」

「え、あ、はい。詳しい事はわかってないですけど、確か法力を吸収する鉱石が使われているらしいです」


 そこまで聞いてルークは聖剣に法力を注ぎ込み、キューブを出現させる。

 そして、法力を細く変化させて鍵穴へと通していく。


 セレスティアはその法力操作に目を剥く。

 今のは法術が使えない人間の法力操作じゃない。

 あんな一瞬で法力の形状を変化させるなんて、自分でも数年かかって手に入れたような技術だ。

 それにあんなに細くは自分でも出来ない。


 セレスティアとリインフォースの驚きをよそに、ルークの持つキューブに光の線が走る。

 急激にキューブが発光すると、鍵穴を中心にキューブが開き始めた。


「お!開いた!」


 ルークが嬉しそうに笑顔を浮かべると、キューブの中にあった光の球が聖剣へと飲み込まれていく。

 聖剣に光の線が走り、その光はグリップを通してルークの右手から全身に巡る。


「覚醒……ね」


 リインフォースはホッとしたように声を出す。


 ただ実際のところ、この第一の試しをこれほど短期間にクリアした主は存在しなかった。

 色々と煽っていたのは単純にリインフォースの楽しみの一つ。聖剣の試しがうまくいかず四苦八苦したり、自分の言葉にイライラしたりする主を見ているのが彼女にとって至福の時間なのだ。

 本当にいい性格をしている精霊である。


 ホッとした表情を浮かべてはいるモノの、リインフォースにとって今代は想定外の事ばかり起こっている。

 魔剣の主になった事から始まり、相容れないはずの魔族を寛容にも受け入れている。

 第一の試しの躓くポイントもおかしければ、一番苦戦するはずの法力の形状変化は事も無げに行う。


 歴代の主の中で一番騒がしく、文句も多いが、喧嘩っ早いわけでもない。

 モノを知らないだけで、頭が悪いわけじゃないし他人の言葉を聞く耳もある。

 本当に意味が分からない。


 まぁとりあえず、これでようやく聖剣としての役割を果たせるようになった。

 最終的に封印をいくつ解けるかは知らないが、そんな事は今のところどうでもいい話だ。


 リインフォースがニヤリと妖しく微笑む。

 しかし、その瞬間を見ていたのは幸か不幸かウィーカのみ。


「や、やりましたね!ルークさんんんん!?」


 ルークを褒めようとしたセレスティアは急にルークに抱きしめられて変な声をあげた。


「ありがとなセレスティア!マジで助かった!本ッ当にありがとう!」

「はわわわわ!」


 善意100%のハグに感情が混乱し、言葉が上手く口から出なくなったセレスティア。

 そんな二人を走り込みに行っていたレオナとアカネが目撃する。


「むっ……」


 レオナはルークに抱きしめられているセレスティアの腕が彼の背中に回されそうになる瞬間を捉え、足に力をグッと入れて強く踏み込む。

 そして、抱き合うという状況が完成する寸前で、なんとか二人を引き剥がすことに成功したのだった。

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