第42話 聖剣の試し


 レオナとアカネは一先ずセレスティアと共に基礎体力作りで森の中を走りに行った。

 ルークは二振りの剣と共に合流場所に残る。


「それじゃあ、聖剣の試しを始めるわ」

「おぅ」

「まずは聖剣に法力を流しなさい」


 言われるがままにルークは聖剣を顕現させ、そこに法力を流し込む。


「随分と容易く出来るものじゃのぅ」

「こんくらいは当り前よ」

「ん?」


 聖剣に法力が満ちると、宝石の部分から小さな箱が飛び出した。

 フワフワとゆったり回転しながら中空に浮かぶ箱は手のひらサイズの立方体。

 面の一つの中心に小指よりも小さな穴が開いている。


「これは?」

「それが聖剣の試し。【リリースキューブ(Lv.1)】。やる事は簡単よ。その箱をどうにかして開ければ合格。キューブの中に封じられた法術回路が聖剣に刻まれて、アンタにも継承される」

「マジか……」

「なにやら浮かぬ顔じゃのぅ主様」


 ルークが難色を示しているのには訳がある。


「いや、オレ法術の継承できたためしがないんだけど……。それって大丈夫なのか?」


 法術とは体内に存在する法術回路に法力を流し込むことで発動する人族の扱う術体系のことだ。

 一般的に生まれた時点で1~3つくらいの法術を持っており、レオナの操る身隠しの術もそれに該当する。


 次いで“継承”。

 法術は他人への法術回路の受け渡しが可能となっている。

 仮に《下級火球法術(ファイアボール)》を習得していなくても、継承を行えば《ファイアボール》を使えるようになるのだ。

 ただし、どんな術でも継承できるわけではない。

 継承できるかどうかは受け取り側の資質に寄り、水系法術の得意な者は火系法術が継承しづらくなるなど継承できないパターンも存在する。


「その点は心配しなくていいわ。継承できなかった場合を考慮して、聖剣にも同じ法術回路を刻むの。歴代の聖剣の主も三つ目だけ継承できないとか、十個目ができないとかあったしね」


 リインフォースの言葉に胸を撫で下ろすルーク。


「ま、とりあえずやってみなさい」

「お、おぅ……」


 ルークは気を取り直してリリースキューブを手に取る。

 両手でしっかりとキューブを握り締め、グッと腕に力を入れて引っ張った。


「は?」


 目の前で起こった光景に思わず声を漏らしたのはリインフォース。

 歴代の聖剣の主の中でも特に異質。

 まさか力技でこじ開けようとする奴がいるとは思わなかったのだ。


「グッ……!ハァハァ……。やっぱ無理かぁ」

「当たり前でしょ!?馬鹿にしてんの!?」

「うぉ!?なんだよ別にバカにはしてねぇよ。っつか、開けりゃいいんだろ?」

「力技で開けようとする奴は初めて見たわよ」

「は?まさか……岩でも砕けない?」

「アンタね……。アタシを何だと思ってんのよ!」

「聖剣の精霊」


 そんな二人のやり取りを見ながら、ウィーカは必死に笑うのを堪えていた。

 目端に溜まった涙、少し紅潮した頬。

 それらがいつまでも隠せるはずもなく、目敏く見抜いたリインフォースと喧嘩を始めてしまう。


 こうしてルークは聖剣の試しを始めた。

 そしてそのまま、なんの進展もなく三日が過ぎた。

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