第38話 勇者の凱旋


 ルークがグリンと談笑していると、ドンドンと太鼓の音が聞こえてきた。

 人々の目線が音の鳴る方へと向き、ルークもそれに倣って顔を向ける。


 蒼銀騎士団が先行・殿を務め、周囲を護衛。

 その列が一糸乱れずゆっくりと進行している様は圧巻の一言。

 そしてその騎士たちに挟まれ、白馬に曳かれた豪華な馬車が歩いていた。


 大仰な馬車の天井には柵が付いており、そこに若く精悍な男性が笑顔を浮かべて立っている。

 男性は時折、手を振ったり聖剣を軽く振るったりして観衆に向けてアピール。

 その度に周囲からは黄色い歓声が飛んでいた。


 男性の鎧は少し豪華だが、ベースは教会騎士ではなく国家騎士のもの。

 装飾の多さから将軍クラスと言うことがわかるが、ルークの目にはどうもちぐはぐに映った。


「あれが第一皇子?」

「みたいだな。オレらみたいな平民にゃ一生お目に掛かれる相手じゃねぇ。この機会によぉっく見ておけよ」

「え?あ、あぁ……」


 そんなありがたいもんなのか?と内心で首を傾げつつ、彼を観察する。

 体格もガッシリしているし、佇まいも安定している。

 馬車の上で聖剣を軽く振る姿も悪くはない……。

 それでも何か……と違和感があった。


 ちなみに第一皇子は面立ちも整っており、体つきもガッシリしているため民衆の女性からだいぶ人気がある。

 剣を振るうたびに女性がキャーキャー声を上げており、観衆の前列はほぼ女性だ。


「人気だよなぁ」

「ん?」

「いやぁ、今の皇子は特に女性に人気だよなって。ま、ここだけの話、けっこう遊んでるって噂もあるんだぜ?」

「へぇ」

「全然興味なさそうだな」

「まぁ、実際興味ないしなぁ」


 ルークにとってこの国の皇子とは“自分とは関係のないどこかの誰か”であり、今この時どれだけ近くにいようとも興味が湧いてこない。

 街中ですれ違う見知らぬ人々と何ら変わらない。

 こんな状況でなければ、この凱旋を利用して荒稼ぎしていた事だろう。


 今現在、彼を観察していたのは自分が感じた違和感を探し出そうとしていたのと、なんであの男が聖剣の勇者になっているのかだ。

 ルークは小さく声を出す。


「二本目が合ったりするのか?」

「んなわけないでしょ。でも、変ね」

「あん?」

「あの子がそんな事を許すとは思えない」

「誰の……」


 と、そこでグリンが近寄ってきた。


「そろそろ目の前に来るぞ」


 そう言ってグリンは人垣の方に並ぶ。

 見上げながら気付かずに浮かべている笑顔は少年のように輝いており、そばに居る女性と同じように手を振っていた。

 そんなグリンを見つめながら、ルークは普通に声を出す。


「で?あの子って誰?」

「アタシをこの街に連れて来た張本人。聖女エクリュベージュよ」

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