第33話 聖剣の偽物


「こんにちはお嬢さん。随分と熱心なお方なんですね」

「はい?」


 アカネは興奮した頭のまま振り返る。

 すると、優し気な笑みを浮かべた胡散臭い神官が立っていた。


「その神官服……随分と田舎のモノに見えますが、巡礼ですか?」

「あ、はいです。巡礼の途中ですな」


 アカネの服装は魔導具により、巫女服から神官服へと変換されている。

 しかし、その服はかなり簡易的なモノであり、田舎者が見様見真似に作ったようにしか見えなかった。


「そうでしたか。ここまでの道のり、お疲れ様でした。聖剣の試しはもうされましたか?」

「あ、いえ。拙はここに来たばかりですので」

「それでは聖剣の試しあちらになります。受付の者に言えば、500Gを支払うように言われると思いますが、これはお布施という扱いになります。その辺をお考えの上、挑戦してください」


 言外に巡礼者なんだから“もっと支払え”って言ってくる神官にアカネは表面上だけ笑顔を浮かべる。

 ちなみに、ウィーカはグチグチとアカネにだけ聞こえるよう文句を言っていた。


「はいです。それでは早速行ってみますね。ご案内、ありがとうございました」


 アカネはそれだけ言うと、そそくさと聖剣のある方へと足を進める。

 正直、もっと建物自体の装飾や壁にかけられている絵画、壺、掛布などを見ていたかったという気持ちもあった。

 だが、この神官に目をつけられると面倒なので、言われた通りに行動するしかなかったのだ。


 入口にて言い値の倍の1000Gを支払い、聖剣の試しに並ぶ。


「巫女よ」

「はい?」

「かなり近くに魔剣の主様がおられる。周囲にそれらしい者はおらぬか?」

「その方の目印などありませぬか?」

「ないな」

「では、聖剣の試しをサクッと終らせてから探します。ここで抜けると変に目を付けられそうですので、もうしばらくお待ちいただけますか?」

「仕方がないのぅ」


 そうして十分と経たずにアカネの番になる。

 すると同時に、どこからかガラスの割れる音がした。


「何の音だ?」

「さぁ……。ですが、ようやく拙の番です。さっさとやることをやって主様を探しに行きましょう」


 アカネは周囲が慌てている中、スッスッと聖剣の下まで進む。

 そして、綺麗に磨かれた岩に刺さった聖剣を見て首を傾げた。


「おや?」

「どうした巫女よ」


 アカネは声を小さくして感じた疑問を投げる。


「ウィーカ様、これ……。本当に本物ですか?」

「何を言っている。あのいけ好かない女の気配は既に遠のいているぞ」


 “いけ好かない女”というのが聖剣を指している事をアカネは十二分に理解している。

 つまりこの場にあるこの剣は聖剣の偽物という事だ。

 しかも、よくよく観察してみると聖剣の切っ先付近に法術の気配がある。


「主様の気配も遠のいておる。ようやくここまで近づいたのだ。さっさとその剣を抜いて追いかけよ」


 アカネは聖剣の柄を握り締め、聖剣の切っ先に魔力を纏わせ、その法術の分解を試みた。

 アカネのこの行動に明確な意味はない。

 ただ……この時のアカネはウィーカの言葉通りに“聖剣を抜こう”としていた。

 それをすることでどのような目に遭うかなど、この時は考えもしなかったのだ。


「はいな!」


 そんな気の抜けるような掛け声と共に、100年間抜けなかった聖剣がその台座から抜けたのだった。

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