第23話 お尋ね者


 ルークたちが逃亡生活を始めて早三日。

 聖都ヴィヴィアンに貼り出された捜査協力を求める似顔絵は全部で“四つ”。


① 元蒼銀騎士団所属騎士。セレスティア・ルーヴル。ブロンド色の髪、碧色の瞳、男性並みに身長があり、胸がやたらデカイ女。罪状、聖剣窃盗および大司教暗殺未遂事件の主犯。生死問わず。

② 目つきの悪い少年。ルーク。髪はつんつんとしており、ボロ切れを着ている。罪状、聖剣窃盗および大司教暗殺未遂の実行犯。生死問わず。

③ 幼い亜人。性別不明。小汚いフード付きのローブを纏っている。罪状、犯罪者①および②の仲間。生死問わず。

④ 聖剣の勇者候補。黒縁丸メガネの黒髪少女。田舎の神官服を着ており、幸薄そうな面立ち。聖剣を抜いた張本人のため、保護を最優先。至急情報求む。


 そんな貼り紙の前でルークとアカネはお互いの顔を見やった。


「お前、聖剣の勇者だったの?」

「ルーク殿よりもセレスティア殿の方が主犯扱いなのですな」

「ま、向こうも知り合いの方が見つけやすいからなんじゃねぇか?」


 本来、教会からすれば身内から犯罪者が出たなどと公表すべきではない。

 しかし、ルーヴル家の背景と聖剣を取り戻すという目的を優先した結果、ルークの言葉通りにセレスティアを主犯扱いするよう動いたのだ。

 彼女は騎士団に在籍していた分、街中で見かける者も多い。さらには長身に巨乳と分かりやすい記号が多かったため、目撃情報が集めやすくなるのは当然だろう。


「っつか、それよりも大司教暗殺未遂ってなんだ?」

「そんな事よりも本当にこの絵で犯人が見つかると思っているのでしょうか?ルーク殿から話を聞いた時は半信半疑でしたが……これを見ると失笑してしまいます」


 ルークの疑問を無視してアカネがルークとレオナの絵を指さす。

 セレスティアはそれなりに本人と分かる絵が使用されているが二人の方は酷かった。

 ルークのツンツンとした髪型はまだいい。目つきはおとぎ話に出てくる悪魔のように尖っており、笑みを浮かべている口からは蛇のような細く長い舌が出ていた。当然のように牙もある。

 そして、レオナは絵ですらフードを被っており、面立ちの情報は一切ない。しかも、亜人と一言でまとめてもその種族はかなり多い。“幼い亜人”という情報のみで犯人と特定することは不可能に近い。


 しかも、二人とも三日前のようなボロ切れを脱いで、一般人っぽい服装になっているので今ここに出ている情報だけで二人を特定するのはほぼ無理だ。

 犯人特定に繋がる情報が元同僚しかいない中、一生懸命になって各地を移動している騎士団の人たちの苦労は計り知れない。


 そして、ルークがアカネと思しき似顔絵の方に目を向ける。


「お前の方は大丈夫なのか?けっこう似てるけど」


 ルークが心配する通り、アカネの似顔絵はそれなりに似ていた。

 黒縁の丸メガネに伏し目がちなせいか幸薄そうにみえる表情。なによりも、セミロングの黒髪おかっぱ頭は割と印象的だったのだろうキチンと描かれている。


「元々、この眼鏡は周りの認識を歪めるためのモノですからな。魔導具や魔術に対しての検知を行わない限りは大丈夫でしょう。まさか魔族が聖剣を引き抜くとは思いもしないでしょうしね」


 アカネとしてはルークを皮肉って言ったのだが、本人は気づいていない。


「ならいいけどよ。つか、言った通りだったろ?結構バレねぇもんなんだよ」

「ええ。これだけ普通に話してても本当に怪しまれないんですね……」


 アカネは他人事とは思いつつも、この街を明るい表情を浮かべて歩く人たちを見て、ブルッと身体を震わせるのであった。

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