第14話

 帰り道。

 行きは、三日間ほぼ休みなく歩いた。

 だがもう急ぐ必要もない。

 まあ行きも急ぎじゃなかった訳だが。


 ミルキーは、表情がなくなった。疲れているのか?


「……疲れていないか? 少し、食事休憩でも取ろうか?」


「大丈夫ですニャ。それよりも、早く素材を手放したいのですニャ……」


 良く分らないな。

 換金したいのか? 金貨二十五枚程度の預金もあるだろうに。

 まあ、出会った時から資金難だったのだ。待っている家族がいるのかもしれない。

 それに、獣人とはいえ、女性を数日連れまわしてしまった。


『配慮が足らなかったかもしれない』


 私が考えていると、ミルキーが食料と飲料水を渡してくれた。

 焼いた肉をパンで挟んだだけの携帯食と、川の水を汲んだ飲料水。

 ビタミンが不足しているな。

 まだ持つが、街に着いたら野菜を食べよう。野草の採集は、時間的に諦める。


 一口食べようとした時だった。


「む?」


 矢が飛んで来た。

 戦槌で弾く。そして、水筒を落としてしまった。竹でできた水筒が割れて、中の飲料水が零れる。


 矢の飛んで来た方向を見る。

 茂みから、そいつらが現れた。


「誰だ?」


「……盗賊ですニャ」


 ゲヒた笑みを浮かべる、盗賊と呼ばれた者達。

 これも、異世界定番なのだろうか?

 ここでミルキーが、マジックバッグを降ろした。


「おうおう? 獣人のねーちゃんが相手してくれるってか? 楽しみだな~」


 盗賊達が、笑い出す。

 ミルキーを見る。

 静かに闘志を燃やしていた……。オーラが見えるのだが?

 髪も白くなっている。スーパーサ〇ヤ人か? 変身できるのか?

 獣人とは、素晴らしい種族なのだな。


「任せるか」


 私は携帯食に齧りついた。



 ミルキーが動いた。


「あの歩行方法は、瞬歩?」


 私の模倣と思えるほど、洗練された動きだ。技術を盗まれたのかもしれないが、嬉しいという感情もわいて来る。

 そのミルキーが、盗賊の懐に入り、短剣を振るう。


 ――ドサ


 一人が倒れた。血は流れていない。峰打ちか、魔法か。毒かもしれない。私には死角となり見えなかった。


「この野郎!」


「野郎じゃないニャ!」


 意味不明なやり取りが行われる。その間に、盗賊達が隊列を整え出した。ミルキーを脅威と認識したのかもしれない。

 ここで、またしてもミルキーから動いた。一瞬で盗賊達の背後へ移動する。盗賊達は、視線ですら追えていない。それほどのスピードを発現していた。


「そうか、短剣に毒を塗っているのだな。それと、弓を切断するとか。動きも一流だし、戦術も見事だ」


 そこには、一流の冒険者がいた。盗賊達は、驚くか毒で倒れるかの二択だ。もう負けはないと思えた。



「ひ~。た、助けてくれ!」


「私の両親は、そう言ったら背中から刺されたのニャ」


 十人程度だったが、ミルキーの圧勝だった。

 私も2~3人倒したが、殺さない様に気絶させるのには気を使った。戦槌では、触れただけで数メートルも飛んでしまう。もっと扱いやすい武器を探すか。

 ミルキーが全員を縛り上げた。


「そいつらをどうするんだ?」


「街まで連れて行って、憲兵に突き出しますニャ! 罪を償わせるのニャ。死ぬまで鉱山労働を申請するのニャ」


 ふむ……。考えと言うか、プランがあるのだな。頭もキレるみたいだ。

 ミルキーがそう言うと、魔法を使った。意識に作用する魔法のようだ。

 ミルキーは、魔法まで使えたのか。自己紹介の時に教えてくれれば、サラマンダーの一匹くらい、生きて連れて帰れたものを。

 盗賊が全員立ち上がり、ミルキーの後に続く。

 表現するのであれば、ドラ〇エの歩き方だな。もちろん、二次元ゲームの時の話だ。


「また一つ、夢が叶ったのニャ。この数日でここまでレベルアップできるとは思わなかったのニャ。ヘーキチさんおかげですニャ」


 レベルアップ?

 そういえば、この世界の住人が良く口にする言葉だな。

 私には、何も変化がないので分からないが。

 何でも、ステータスがカンストしているのだとか。

 分からない、感じないというのも哀しい。他者と喜びを共有できないのだから。


 まあ、余計な情報は、得ない方がいい場合もある。

 私は、レベルが上がらない。それだけ覚えていればいいだろう。


「それでは、街に向かうとしようか」


「はいニャ!」


 私達の後に、盗賊達が続いた。

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