天宮はノンストップで喋り続け、六つめのアイデアについて語り出そうとしたところで、井坂によって時間切れを告げられた。


 他の面接官たちは疲弊しているようだった。天宮が最後の礼をして、紫のマントを翻しながら面接会場を出て行ったあと、長谷田はせだ課長が長い溜息を吐いて言った。


「いやぁ、変わった子だった。あの格好はちょっと、ねぇ」


「ははは……ゲームが好きなことは伝わってきましたけどね」


 これはお断りの流れか、と浬はすぐに察する。


 何度か面接官として参加させてもらってはいるものの、浬はあくまで人数あわせのような立場だ。採用は上に立つ人間が決めるもの、といった空気がある。


DIVINEディヴァインチームはふたりめのプランナーが欲しいと思っていますが、出来ればもう少し……論理的思考の出来る人材が良いですね」


 少し言いづらそうにやんわりと、井坂がNOを出した。部長と課長が小さく頷く。決まりかけたその流れを、浬は軽く手を上げることによって制した。


「なら、アスクロチームに来て頂いてもいいですか?」


「……アスクロチームに?」


 部長と課長、そして井坂まで全員が一様に目を丸くする。


「アスクロチームにプランナーはいません。俺が兼任しています。なので……」


「いやいやいや、君の稼働が厳しいのは分かるんだけどね?」


 やれやれと首を横に振ったのは課長の長谷田はせだだった。


「今のアスクロの売上げじゃ、人件費上乗せは厳しいでしょ。井坂くんがプロデューサーをしていた頃なら全く問題なかったけどねぇ」


「どんなサービスも、時間が経てば廃れるものですよ。それに今の売上げ低迷は久城くんの責任ではないですし」


「井坂くん優しいなぁ。ま、久城の前の……御手洗みたらいだっけ? ソイツがアスクロをダメにした原因ってのは分かってるんだけどさ」


「…………」


 浬は黙って、長谷田の艶やかな額を見つめていた。この辺を見ていれば、相手からは目が合っているように見えると何かで学んだからだ。


「でも、ねぇ。に人員強化するのはちょっと……」


「は、長谷田課長!」


「あ、ごめんごめん」


「いいですよ。そう呼ばれていることはチームメンバー全員知ってますから」


 ――サ終とは『サービス終了』の略。主にソーシャルゲームの運営停止に伴う、サービス提供終了に対して使われる言葉だ。


 今のアストラ・クロニクルはまさにサ終寸前といっても過言ではない状況で、アクティブユーザー数や課金率の低迷は歯止めが効かず、僅かに残ってくれているユーザーにさえ、そろそろサ終だろうと噂されているほど。


 浬が所属するアスクロチームのメンバーが押し込まれた旧会議室は、いつしか他の社員たちに『サ終部屋』と揶揄されるようになっていた。


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