第7話

「な、なんだぁ?何も変わってないぞ! 虚仮威しかよ驚かせやがって、やっちまいな」




「おう!」




調子を戻した賊が剣を構えて俺に斬りかかろうとするが、その剣が俺に届くことは無かった。




「…やらせないから」




カルミアが目の前に立っていたのだ。そして賊が一人倒れている。俺も賊も何が起きたのか分からなかったと思う。理解ができない内に状況はどんどんと進んでいく。




「はぁあああっ…!」




 抜刀し深く腰を落とした姿勢で剣を敵に向けるように構えたカルミアは、体がバチバチなっており存在感だけで敵を圧倒している。うん、化け物かな? これは【剣聖】のパッシブスキル、[電光石火の構え]だろう。敏捷力を攻撃力へ上乗せするという使い勝手の良い初期スキルの一つである。




「はあっ!」




カルミアが相半身になり剣を振り上げ賊へ肉迫、前のように光ったりはしないが、体がバチバチしているし素の速度で瞬間移動しているようにすら見えてしまう。雷のようなオーラを剣へ纏わせ、雷鳴の如き音と共に高速の斬撃を繰り出した。剣聖が最初に覚える技、雷切だ。発動には[電光石火の構え]が必要になるが、属性ボーナスが入る強攻撃である。カルミアはクラスチェンジを行って直ぐ本能的に体得したというのだろうか。それならばとんでもない才能である。




「雷切!」




賊を一閃、その刹那で賊の体へ無数の傷が刻まれた。




「ぐひゃあああ!」「ぶぺっ!」




 あまりにも一方的な攻撃で決着がついた。まとめて倒すとは…これがクラスチェンジの力…。 いや、カルミアの力とも言うべきか。変な賊二人組が言っていた『クラス適正持ち』という言葉も気になる。恐らくこの賊共はよく鍛えていて体格は良いが、クラスを持っていなかったのだろうか。クラスの有無によって、ここまで大きい差が出るのであれば、確かに警戒する。てっきりローグやシーフなのかと思ったが…。




この世界が与えるクラスチェンジの計り知れない影響について考えていると、カルミアがすぐに駆けつけてくれた。ちなみに体はもうバチバチしてないようだ。




「サトル…!」




「良かった、カルミアさぶへぇ」




感極まったのかカルミアが俺に抱きついてきた。生き残ったことの安堵、困難に打ち勝った達成感。様々な気持ちが渦巻いているに違いない。そしてそんな美女に抱きつかれて嬉しくない訳がない。だがしかし、その力で強く抱きしめられると俺は今度こそ死ぬだろう。俺の異変に気がついたのか、すぐに離してくれた。




「ガ…ガルミ…アざん」




「ご、ごめんなさい…」




「げほっ。はぁはぁ…い、いや全然大丈夫だよ。それよりも、カルミアさんが無事で本当に良かった」




何だか安心して気が抜けてしまい、ラフな感じで話してしまったがもう良いか。




「いきなり力が湧いてきて、自然とどう動けば良いか分かったの。サトルが助けてくれたんだよね? 補助魔法か何かなの?」




「うん、まぁそういうことに…なるかな? でも、やっぱり手助けが精一杯だったよ」




今ここでカルミアにTRPGの知識についてお話をしても事態はややこしくなるだけだろうし、気がついたら別の世界から転生し、謁見の間にいて成り行きで今ここにいますとでも言うタイミングでもない。信じてもらえるかも分からないし。でも、最低限伝えなければならないこともあるか。




 「カルミアさん、聞いてほしい。危機を脱するためとはいえ俺の能力で、君のクラスを【メイガス(仮)】から【剣聖門】というものに変更してしまったんだ。なんと言って良いか… 本当にごめん!」




「…なるほど、確かにサトルが何かをしてくれたときに、力がすごく湧いてきた。そういうことだったのね」




しばらく考えを巡らせて納得した様に話を続けた。




「確かに【メイガス】に何の未練も無いかと聞かれたら、嘘になっちゃうけど、あのままだったら私たちは確実に殺されていた。結果として私は私の戦い方はできているし、強くなることができたわ。サトルを恨む要素なんて、何一つないよ?」




なにこの子、天使すぎる…。




「そう思ってくれて、安心したよ…」




カルミアはボロボロの俺を支えて肩を貸してくれた。




「サトル…きっと、もう少しで出口に到着するから。頑張って。あと、あなたの能力と、私のクラスについて、知っている情報があれば教えてほしい。次の戦いに活かせると思う」




「うん、分かった」




カルミアの肩を借りて、歩を進めながら【剣聖門】の特徴を伝えた。






* * *






「ウヒョヒョ…なんともまぁ、あまりに予想外! でもこれは、大当たりかもしれませんなぁ?」




ずっと後ろで隠れていたノームのタルッコは、肩を貸し合って出口の方角へ歩き去る二人組を遠巻きに見送りながら不気味に笑っていた。それはもちろん…シャドーボクシングをしながら。

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