第37話 衣装

「どうしよっかな〜」


「…え?もう着替え終わったんじゃ無いのか?」


 今更何を悩むことがあるんだろうか。


「そうなんだけど、だからこそはっくんがこんなに美人な私のこと見たら卒倒しちゃわないか心配なんだよね〜」


 試着室のカーテン越しにそんなありもしないことを言っている。


「卒倒なんてするわけないだろ?」


「本当かな〜?もし私が裸で出て行ったらどうする〜?」


「ちょっ…」


「甘奈さん!白斗さんに女体を想像させるようなことは言わないでくださいまし!教育に悪いですわ!そういうのは然るべき時にとこちらでも考えていますのに!」


 考えているって…まるで俺が将来美弦のその状態を見るみたいな言い草だが一切まだ何も確定していない。


「2人ともまだまだお子ちゃまだな〜、じゃあ私のお洋服見せてあげる〜」


 今まで閉じ切っていたカーテンは、今度は真逆に勢い良くカーテンが開き、自信満々の表情をした甘奈さんが出てきた。


「じゃじゃ〜んっ!」


 甘奈さんは水色の…少々露出が激しいドレスを着ていた。


「どうかな〜?はっくん〜」


「…どうって?」


「あぁ、はっくんが照れちゃった〜!」


「て、照れてない!」


 照れている…わけではない、と少なくとも自分では思っている。

 …だが予想以上に甘奈さんの服の露出が激しいため、目のやり場と感情の行き場に困ってしまう。


「甘奈さん!?どんな格好で白斗さんの前に出たんですの!?もしかしてですけど、肌色が多量に見える服じゃありませんわよね!?」


 見事にその通りだ。


「う〜ん、別にそんなに多くないよ?」


「…え?」


「そうなんですの?それなら良いですわ…」


 甘奈さんは平然な顔で嘘をついた。

 …おかしい、甘奈さんの性格的には嘘なんてついたら反応がわかりやすい性格のはずだが、今の甘奈さんの声は嘘をついている雰囲気を一切と感じさせなかった。

 …ということは、本気で露出が多くないと思っているのか?


「……」


 確かに、よく見てみると露出しているのは胸部くらいだが…

 その胸部が明らかにおかしいほど露出している。


「はっくん…そんなに見られると、私…」


「それ以上は変なことを言わないでくれ」


「はーい…でも、私のこと大人っぽいって思ったでしょ〜?」


「…思ってない」


「目逸らしたから今の嘘だね〜、はっくん昔から分かりやすいんだから〜」


「甘奈さんに言われたくない!」


 感情の浮き沈みの分かりやすさで言うのであれば、俺の身の回りで一番分かりやすいと言えるのは絶対に甘奈さんだろう。


「…美弦ちゃんまだかな〜?…あっ!ごめんね!私が先に出ちゃったばっかりに美弦ちゃん出にくいよね!ごめんね!!」


「違いますわ!もう出ますわよ!」


 今度は美弦の試着室のカーテンが勢いよく開いた。

 下は赤と薄いピンク色が交互に付けられていてるヒラヒラに、上は質の良さそうな服で首元が少し空いている、これなら俺も平気で直視することができる。


「どうですの?白斗さん」


「あぁ、良いと思う」


「えっ…そんなに真っ直ぐに褒められると少し照れてしまいますわね…!ですが…ありがとうございますですわ…勝負は私の勝ちということでよろしいですわね、甘奈さん?」


 …勝負?


「…あ〜あ、お子ちゃまには私の魅力わかんなかったか〜」


 勝負というのはよくわからなかったが…


「お子ちゃまじゃないし、甘奈さんの服は露出が激しすぎるんだ」


「激しいっていうほどかな?一部分だけだよ?ねー?美弦ちゃん」


「…えぇ、そんなに対して露出していないように見えますわ」


「え!?」


 美弦…!?

 パーティーではこの程度の露出が当たり前だとでも言うのか…?


「本当か…?正面から甘奈さんのことを見てみてくれ」


「分かりましたわ─────な、なんて格好をしているんですの!」


 よかった、どうやら伝わってくれたらしい。

 美弦は今後ろから甘奈さんのことを見ていた、だからこの正面の露出の大きさに気が付かなかったんだろう。


「え、そんなに変?」


「確かにパーティーではそのような方は居ますが…白斗さんに見せられるような格好でないことだけは確かですわ!!」


「え〜、谷間見えちゃうだけでダメなの〜?本当まだまだ高校生だね〜」


「む…勝ったはずなのに勝った気がしませんわ…」


 何故かわからないが美弦が釈然としていない様子だ。


「…まぁ良いですわ、甘奈さん、この紙を受け取ってくださいまし」


 美弦は甘奈さんに小さなメモ用紙を渡した。

 何が書かれているんだろうか。


「…なるほどね、おっけー」


 おっけー…?

 何かお願い事でも書かれていたんだろうか。

 とはいえそんなに言及するようなことでもないだろうし、別に良いか。


「では白斗さん、人の居なさそうなところに行きましょうか」


「え…?パーティーって言うんだからその会場に出向くんじゃないのか?」


「そんなに格好いい姿をされている白斗さんを見たらどんな羽虫が寄り付いてくるかわからないじゃないですの、私は最後に出ることになっているので、それだけで十分ですわ、後で私と2人で会場にあるご飯でも食べましょう」


「羽虫…?夏だから虫はいるかもだが別にそれは俺に限ったことじゃない」


「…とにかく!人が居ない場所…そうですわね、船を一望できるフライングブリッジのデッキなんかが良いですわ!向かいましょう!」


「あっ…」


 俺は美弦について行く形で、フライングブリッジに行くことになった。

 道中、何故か自分の心臓の音が…よく聞こえた。

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