ペンタス

立花 ツカサ

第1話 

「今度一緒に、映画観に行こ」

 隣の席のメガネくんに言われた。

 

 正直、心臓がどくんとなった。

 彼は、影も薄いし、みんなに嫌われている。

 そして、頭がいい。

 本当は、私は2位なのに、メガネは頭が悪いイメージがあるようで、私が1位にされている。

 そんな、メガネくんが私を映画に誘った。

「何で?」

 私は、よく塩だと言われる。

「一緒に見たい映画があったから。」

 メガネくんは顔色を変えずに言う。

「ほぉ、それはデートのお誘いかな?」

 ちょっとふざけてみる。

「まぁ、そう考えたいならご勝手に。」

 えっ?えー!?

「何だそれ。まあ、いいよ。」

 どうにか、普通に・・・

「じゃあ、来週の日曜、映画館で12時集合。」

 おっおう。簡潔すぎて、怖い。

「りょっ」


 11時45分

 少し早めに映画館前に着いた。私は、これくらい早く着かないと落ち着くことができない。まだ、彼は来ていないようだ。

 12時4分

 彼は、自分が集合時刻を決めたにもかかわらず、遅れて来た。まあ、四捨五入したらまだ12時なので許してやることにした。

「よっ、お前早くね。」

 これだ。謝る仕草もなければ、お前呼ばわり。(ちなみに私はちゃんと「メガネくん」と呼んでいる。本名は「木谷千尋」と言って可愛らしい名前だが、ほとんどの人がもう覚えていない。)

 彼は、いつもの黒縁の四角いメガネではなく、金属フレームのおしゃれな眼鏡をかけていた。

 彼の私服は、ゆったりとした黒のボトムスにくすんだグリーンのパーカー、黒いジャケット姿だった。


 めっちゃ、おしゃれじゃねーかー!!


 私は青の少し飾りのついたブラウスに、黒いロングスカート。うん大丈夫、全然ダサくないし、結構おしゃれだと思う。

「なんか、雰囲気全然違うね。」

「そう?まあ、私服だし。」

 そっけなく言われてしまった。

「・・・。」

 いや、こっちのことも、ちょっとはなんか言えよ!君が、「かわいいね」とか「似合ってる」とか言ってんのは気持ち悪いけど、「お前も雰囲気違うね」ってお世辞でも言ってくれてもいいじゃねぇか。

「えーっと・・・」

「早く行かないと。」

「おっおう。」

 メガネくんの後について映画館に入る。彼はチケットを発券しに行ったので頼まれていたメロンソーダと私はジンジャーエールを頼んで待っていた。

 メガネくんが帰って来て、大事なことを聞いていなかったことに気づいた。

 そして、ジュース代を財布から出そうとモゴモゴしている彼に聞いた。

「あっ、一番大事なこと聞くの忘れてた。今日の映画って何?」

「『ある花の池の彼』って映画だけど。言ってなかったけ?」

 きょとんとした顔で言われてしまった。だがな、私はそんなもので落ちるような甘い女ではないぞ。

 勝手に敵対心に満ちた顔をした私を、スルーしてメガネは歩いて行く。私はチケットを持っていないので、小走りでついていく。

 全然知らない映画だけれど、本の虫・・・いや「本喰い犬」が見たいと思えるものなら、当たりだろう。

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