第16話 看板を探せ

 メインベルク城。歴史が古くあまり飾った城ではない。

 そこに向かう途中の、1つの川をまたぐ横に広い橋。間違いない。この場所だ。

 そこを渡ってからも身近に感じる建物は多かった。みんなで飲んだ酒場。襲撃の時に民を避難させた宿屋。それらは今も現存していたのだ。


 いよいよ城が全容を表す。低めの山の斜面に建てられた、現代人がイメージするものとは違う、堅物感を漂わせる無骨な設計。見張れるように高く作られた石造りの城壁。かつての記憶が次々に蘇ってきて。


 壁内に入ると、優しく流れる小川が目に入る。城内に続く道のりは。そうだ、並木が等間隔で傾いている。

「なんだか、病院の中庭みたいだね。小川はなかったけど」


 1つずつ、失った時間を取り戻すように歴史を記した看板に目を通す。事実と違う部分もあったりはするが、このまま見ていけばもしかしたら、あの時の真実が分かるかもしれない。


 そうして、見えてきた。何か重いものが当たったように欠けた城壁。そうだ、俺はここで。

『タツヤ!看板を探せ!』

「これじゃないか?」


 タツヤのスマホ越しに全文を読み上げる。そこには納得のできる、しかし真実とは思いたくないようなことが書かれていた。


 長い戦争が続いていた敵国と裏で会談し、この城を渡す代わりにこれ以上の侵攻をしないと約束されていたというのだ。そしてここで死んでいった者達は犠牲となり、望まずの英雄になったと。


「なんというか、悲しいね」

『知ってはいたが、まあこんなものだろうさ』

 悲しくはない。辛くもない。ただ少しだけ、タツヤが花を汚された時の気持ちがわかる気がした。


『さ、観光の続きするか』

「..そうだね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る