第14話 待ってますね

 曇る余地のない理不尽に照りつける強い日差し。壊れたクーラー。扇風機に向かって「ア゛〜」とやり続けるタツヤ。あーもう限界だ!


『タツヤ、暑い!病院行こ!』

「そんな簡単に..病院を避暑地にするなよ」

『暑いんだよ暇なんだよ、なんか遊びないの』

「じゃあ、旅行の計画でも立てるか」

『旅行?』


 タツヤが突拍子もないことを言い出した。この機会にドイツへ行こうというのだ。そして俺が生きていた街を巡ろうと。正直行きたくはあるが。

『でも遠いんだろう?船で何日かかる』

「あれ?飛行機見たことあるよね、空飛んでるやつ」

『え?あれ新種の鳥じゃないの?』


 どうやら乗り物らしい。思わず叫んでしまった。

『近代科学すげー!!』

「うるさいうるさい」


 どういう仕組みか聞いたら得意のスマホで調べて見せてくれた。

 なるほど、ジェットエンジンなるもので推力を得ているわけか。ではそのジェットエンジンはどうやって作られるんだ?

『タツヤ』

「あーはいはいエンジンね」

『よく分かったな今ので』


 どうやらドイツに行くにはまず空港という場所に行って、そこで飛行機に乗り込み、また別の飛行機に乗るらしい。てっきりあのでかいのに一人で乗って直接いけるもんだと思っていたのに。

『飛行機の免許取んないの』

「とれねえよそんな簡単に」



 旅の計画には5日間を要した。その間にもミコトの所には通っていたが旅のことはずっと言い出さないで黙っていた。

 おそらく誘いたいのだろうが体のこともあって断られるのが分かっているから言い出せないのだろう。

 ほらチャンスだ、頑張れ。


「美琴、少ししたら1週間くらいぼく旅に出るよ。その間は花持ってこれなくなっちゃうけど」

「大丈夫ですよ。今でもたくさんの花々に囲まれていますから。ロンさんの記憶が正しいか、ちゃんと確かめてきてくださいね。ロンさんも、待ってますね」


 驚いた。誘いたいわけじゃなかったのか。伝えるのが辛かったといったところかな。


 停学中だから、こうして昼に病院に来れるというのは大きかった。タツヤを通してのミコトとの会話はなかなか楽しいし、俺の昔話をよく聞いてくれる。そして何より涼しい。


 夕方になって病院を出ると、デパートとやらに旅の買い出しにきた。こいつが興味なさすぎるせいで近所の本屋と花屋しか行ったことがないため、異常なほどワクワクした。


 入った瞬間からその華やかさに驚く。一本の道が中央に、上は吹き抜け構造で3階まであるそうだ。そして左右には季節に合った色合いと薄さの服を綺麗に人形が着飾っている。

『タツヤ!なんだあの露出の多い薄い服は!』

「水着だ。俺らはこっちな」


 タツヤが入ったのは、どうやら頑丈そうなものが売っている、おそらく山専用の店だ。ここである程度必要なものや、背負って荷物を入れられるリュックというものを買うらしい。


「必要なものって、何買えばいいんだろ」

 そこからか。仕方ないからリストアップしてみた。

 食糧、水、薪、携帯寝具、武器、着替え。うーん入り切らないな。

 この問題をタツヤに伝えるとめちゃくちゃに笑われた。


「リュックのおすすめありますか」

「それでしたらこちらの商品は通気性もよく容量も」

「じゃあそれで」

「あ、はい」

 決めるの早くないか。それに値段も見た感じ結構するじゃないか。



 ともあれ色々なことがあり、出発する前日になった。

 ちょっとした用事があるとアツトの所へ寄った後、ミコトの病室へと急ぐ。

 病室でのこいつの視界は殴られた時よりも歪んでいた。本当に酔いそうだった。


「明日から..行ってくるから」

「はいはい、目頭赤いですよ」

「うう」

 タツヤは視界を拭って整えると、

「じゃあ、行ってきます!」


「はい、行ってらっしゃい!」

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