第4話 理不尽な王家の仲裁?

「それにしても、こんな時期にわざわざ王宮へ呼び出すとは…一体何事だ?」


 戦争開始の3日前、ルディアの父―フェルミト子爵は王宮に呼び出されていた。


 急な呼び出しではあったが、王家に対して叛意があるわけではない為素直に応じる。


 子爵は誰よりも信頼出来る娘―ルディアから事前にある程度の対応の仕方を聞いていたので、それ程緊張する事もない。



 謁見の間には王と宰相に加えて近衛兵は当然として、これから争い合う相手のゼンベル侯爵までもが居合わせた。


 政治に疎いフェルミト子爵は何が何だか分からずにいたが、話が進むに連れ理解した。


 つまりは王家が仲裁に入るのだ。


 問題はその内容に関してであった。



 不幸な行き違いでゼンベル侯爵家とフェルミト家は開戦前だと聞いている。


 元々は侯爵家側の有責であったが、随分と反省している様子。フェルミト家側も強力な魔法で侯爵家の庭を破壊したのだから、水に流して婚約を結び直してはどうか。



 王家はゼンベル侯爵家寄りのようだ。


「お言葉ですが、娘は絶対に婚約を結び直す事はないと申しておりました。」


「それを何とかするのが親の役目だろう。」


 王はそう告げ、宰相も追従する。


「そもそも、上位の貴族に嫁がせる事が出来るのだからフェルミト子爵にとってもそう悪い話ではないでしょう?」


「私では娘に言う事を聞かせるのは難しいのです。それに説得するつもりもありません。これ程侮辱されて黙っていたのでは、我がフェルミト家は舐められます。」


「上位貴族と下位貴族との出来事なのですから、他家に舐められるなどと言った風にはなりませんよ。」


「……。」


 それでも首を縦に振らない子爵に対して、王は厳しい表情で視線を向け…


「王命だとしてもか?」


 そう言い放った。


 今の王家はフェルミト家を完全に舐めている。そう子爵は見て取った。


 上位貴族なら下位貴族に対して無礼を働いてもお咎めなしだと、王がお墨付きを与えたようなものだ。


 こんな王国に仕えるなど馬鹿らしい。


 今までそれなりに尽くしてきた王家に対し、ムクムクと叛意が湧いてくる。


「王命だとしても娘に言う事を聞かせる事は出来ません。」


 キッパリと子爵は宣言した。



 嘘は吐いていない。特級魔法を使える娘に無理矢理言う事を聞かせるなど、土台不可能な話。


 娘が特級魔法を使えることを敢えて子爵は告げなかった。


 そして一級レベルの無資格魔法士が多数所属している事も…。



 何故言わなかったのか? 子爵は自分の娘-神童ルディア―にフェルミト家の戦力を秘密にするよう言われていたからだ。



 先の王の発言から、王家を巻き込んで戦争になっても構わないと子爵は既に考えていた。


「王命を断る等正気の沙汰とは思えません! フェルミト子爵は考え直すべきです!」


「何故そう意固地になる? こちらは謝罪までしただろう!」


 ゼンベル侯爵は謝罪したつもりなのだ。


「謝罪? 特にそのような事をされた記憶はありませんが?」


「上位の貴族がこれ程譲歩した。これが謝罪でなくて何だと言うのだ!」


 子爵はここに来てようやく理解した。あれは謝罪だったのだと…。


 勿論あんなものを謝罪だと言い張られたところで、はいそうですか。では許しましょうとは普通ならない。普通はならないのだが、下位貴族は上位貴族との戦争を避ける為に呑み込むのが通例だ。


 フェルミト家が例外なだけである。


「あれが謝罪だったとは寡聞にして存じませんが?」


 ここで宰相が言葉を挿む。


「三世代前の貴族であればそれが慣例でした。今でも一応は謝罪とみなされます。」


「そうでしたか。では謝罪は受け取ります。婚約は破棄して頂きますが。」


「何故だ!?」


「娘が無理だと言っていますので…。」


(無理矢理婚約させたところで、ルディアは事あるごとに侯爵邸で魔法を放つだろうしな。)


「それ程まで娘が大事なのか? フェルミト家が困る事になったとしても?」


「…はい。」


 そう言って圧力をかけてくる王だが、子爵にしてみれば困る事になるのは王家と侯爵家の方だと思っているし、実際にそうなるだろう。


 40年以上も戦争の無い世が続いた王国では、相手の戦力を把握するという基本的な事さえ怠る程に平和ボケしていた。


 王家も侯爵家も…そして宰相もフェルミト家の正確な戦力を把握していないのだ。


「もう良い。下がれ。王命を断った事、覚悟しておくことだ。」


 フェルミト子爵は黙って頭を下げ、謁見の間を立ち去る。


 彼は野心なんてものは欠片も持ち合わせていなかったのだが、常々貴族間のやり取りが鬱陶しいと思っていた。


 今までは政治に疎いという理由もあり、王家を力づくで簒奪する事等考えもしなかったのだが…


 フェルミト家には神童ルディアが存在している。何をやらせても完璧なルディアがいれば政治面は何とかなると彼は考えていた。


 後は理由を付けて王家を打倒するだけ。戦力は過剰な程に揃っている。


 今回の一件で恐らく王家とも戦争になるだろう。しかも王家側からの理不尽な理由でだ。


 正当性はこちらにある。先に前もって他の貴族家にこの事実を知らせておけば、戦争でフェルミト家が王家を打倒してしまっても、他家の反感を少しは抑える事も出来るだろう。


 他の貴族家が逆らうようなら徹底的に潰してしまえば良い。それだけの力がフェルミト家にはあるのだ。

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