第4話  絵師のエドワゥ・ポアロ

 12年後___


「お嬢様、欠伸はみっともないですよ。品位が落ちてしまいます。

 それが、僕の絵に現れたら、どうします?」


「エドワゥ……欠伸くらい見逃してくださいな。もうこうやって、あなたがあたくしの肖像画を描くようになって、何枚になるとお思い?」


「10枚でしたか……?」


「12枚ですわ!!」


 あたくしは持っていた扇を思い切りピシャリと閉じた。


「それもこの家を継ぐのではなく、お嫁に行くための肖像画ですわよ!!」


「そうでしたね~」

「それというのも、長くお子の出来なかった叔父様に嫡男が生まれて、お父様がその子に家督を譲るなんて言わなければ……あたくしがこの伯爵家の当主でしたのに!」


「ハワード様、可愛いですね。」


「エドワゥ!!お前誰の味方なの!?知ってますわよ。お父様とも関係ありますわね?」


 絵師のエドワゥは図星をさされて、絵筆を落としましたわ。


 この25歳の絵師、五年前にあたくしの見合い肖像画を描かせるためにお父様が連れて来たイケメンで金髪、神秘的な銀色の瞳をしていました。

 直ぐに気に入って、関係を持ちましたけど結婚だなんて考えていませんわ。

 だって、結婚相手には財力を求めますもの。


「僕と結婚の意思はないのですよね?

 お嬢様は……だったら、僕のプライベートには踏み込まないで下さい」


「それはそうですけど、お前をお父様と競っているというのが、面白くないのですわ」


「僕を、男娼と勘違いしてるのですか?僕はただの絵師です。伯爵はパトロンですよ。後ろ盾無くしては、この時代、絵師はやっていけませんからね。

 お嬢様、椅子に座り直してください。顔はこちらに、にこやかに微笑んで」


 あたくしはふてくされて、言われた通りにしましたわ。


「それで?今度は何処に持って行く絵なのです?」


「砂漠のオアシスと言ってましたね」


 あたくしは吐く真似をして扇で自分を扇ぎましたわ。

 

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