第29話 山小屋での夢

「成る程ね…。全てはグレゴール様の為に婚約解消を申し出ていたのね?本人は知らないうちに幼馴染と既にラブラブになっていたとは…」

 と私は一通りの話を聞き終えた。


 質素な山小屋の中は私とジークフリート様と二人きりである。一応食事も用意されている。


「すみません。僕も知らなくて…。でも改めてサインをいただきたいです」

 と言う。


「?ジークフリート様…。婚約破棄書はさっき川に破り捨てましたので婚約破棄自体無効で今まで通りなのに何故書き直す必要が?」

 それがわからなかったので聞いてみたらぼっとジークフリート様は赤くなりもじもじしながら


「そそそれはそのう…ケジメというか…これは僕が大切に持っていたいのです。僕とマリアンネ様が本当に婚約者になれた日の証として…宝箱に入れておきたいんです!」

 と言うから私も恥ずかしいし胸きゅんである!それって…気持ちが通じ合った本物の恋人となった証を持っておきたいってこと!?


 やあだあー!!ジークフリート様ったら!!

 と脳内が花畑になる私だがいくら恋人となったからと言って好きな人の前で醜態を晒せない。

 キリっとしながら公爵令嬢らしく


「でも本当にいいのですか?ジークフリート様!?私は悪魔令嬢と呼ばれて恐れられておりますし別れるなら千載一遇のチャンスですのよ?」

 と私は言うと


「そんな事僕は気にしてません!マリアンネ様のそれは思い込みです!周囲からは恐れられていると感じられている様ですが一部はその赤い瞳に魅せられるという意味で悪魔令嬢と言われているのです」


「えっ!?」

 知らなかった。


「だから僕なんて貴方に相応しいのかいつも不安で今までビクビクしており…中々勇気が出なくてすみませんでした。それにこの気持ちも条件が始まりようやくわかり出しましたし…このまま婚約破棄は嫌だと思っていました」

 とジークフリート様は恥ずかしそうに言った。


 まぁ!なんていじらしい!!


「い、今は違うと言うのですか?私の事怖くないのですか?」

 と言うとジークフリート様がふふっと少し笑い


「はいっ、条件をクリアしていく中でマリアンネ様の意外な一面も発見しましてとても可愛らしく普通の女の子みたいに思えました。あっ、すみません、失礼でしたか?


 僕みたいなものが……やっ、やっぱり身の程知らずでしょうか?僕なんて…」

 と今度はしゅんとして犬みたいだ!かーわーいーいー!!


 こほんと私は咳払いし


「そそそれは…ジークフリート様は今…私にメロメロになっていると思っていいのかしら?」

 と聞いてみると赤くなりながらも


「は、はい!寝ても覚めてもマリアンネ様のことしか頭にないです!好きです!愛してます!どうか僕のことをよろしくお願いします!」

 と頭を下げてきた!!

 やだ!寝ても覚めてもなんて!!もう死ぬ!そんな嬉しいこと言って!!私はどうすればいいの!?


「そう、そんなに私の事が好きでここにサインを入れてほしいなら…条件があるわ。今まで散々私を振り回したお詫びに…」


「お、お詫びに!?」

 と少し不安そうな顔でこちらを見るジークフリート様に思い切って提案した。


「…お、お詫びに私に一生愛すると言う証のキスをしていただきますわ!もしかしたら嘘かもしれないし。公爵家の地位が欲しくて近寄ってくる者もいますし…本気でジークフリート様が想ってくれ…」

 と説明の途中でガシっと顔を挟まれジークフリート様の綺麗な瞳に私が映り込んでいた!!赤くなりつつも真剣な顔でどんどん距離が近づく!


 えっ!!?

 近っ!

 急にドキドキしてきた!!

 いやキスしろとは言ったけどそんな!まさかいつもみたいにおどおどしてからかと思っていたけど!


 ジークフリート様は更に近くなり


「マリアンネ様…僕は家の事で貴方を好きになったのではないです…」


「は?ふ…え?」

 と思わず油断して顔が崩れ私は真っ赤になってしまう。触れられた手が熱いわ。こんなに近くにジークフリート様の顔があるなんてえ!どうしようどうしよう!死んじゃう!

 心臓発作で死ぬ!

 ジークフリート様は長いまつ毛をゆっくり閉じるとそっと私の唇に優しくキスした。


 瞬間私はもはや完全に時が止まったように動けなくなった!!


 頭の中が真っ白だ。


 ようやく何が起こってるかとりあえず確認。

 あれ?今何されてる?


 あれ夢?


 ジークフリート様と私今…ききききききききききききききききききききききききききききききききききききききキスしてません!?


 あれ?何か長っ!!

 あれっ!?息苦しっ!


 するとようやく離したジークフリート様もやはり真っ赤になりそして至近距離でにこりと見たこともない顔で微笑み私は胸にドスンと矢が刺さる。


 真っ赤になりくたっとした私を支えるとペンを握らせて


「マリアンネ様…サインをお願いします!」

 と言うのでもう私はふらふらになりつつも


「ふ、ふぁいぃぃ…」

 といつもなら綺麗な字で書くのに力が入らなくジークフリート様が上から私の手を握って一緒に私の名前を書いてくれた。ふぁ!ジークフリート様とキスして手を握られてる!!

 現実が追いつかないしこれは私のいつもの妄想と夢なのかしら?


 ようやく書き終わるとジークフリート様は嬉しがり


「マリアンネ様!僕とても嬉しいです!夢みたいだ!!ありがとうございます!大好きです!」

 と言われまたジークフリート様が近寄り今度は額にキスされ瞼や目元に鼻先…頰とキスされて最後に青い瞳にまた私が真っ赤な顔で映り…再び唇へとキスが落とされたのだ!!


 もう夢か現実かわからない。

 いや夢だわ。きっと。こんなことジークフリート様が出来るわけないし!!

 ともはやパンク寸前だったので私は


「こ、これは夢だわ?」


「えっ!?」

 と夢の中のジークフリート様は驚く。


「そうです、私はきっと今夢を見ているのですわ!ジークフリート様が私にキスなんてするはずがない!」


「ええー!?マリアンネ様!?」


「それにやられっぱなしもいけませんわ!」

 どうせ夢なのだからとジークフリート様の首に手を回して今度は私からキスをした。ビクッとジークフリート様が驚いて少し跳ねたが構わず何度もチュッチュッとキスを落とすとジークフリート様がぼうっとしてきた。


「ふあ…マリアンネ様……やり過ぎです…」


「あら…私を愛しているのでしょう?」


「ふえ…愛してますぅ…」

 すっかり溶けそうになるジークフリート様ともう一度キスした。


「ああっ…夢みたいです…」


「あら、これは夢ですわよ」

 と言い切るとジークフリート様は


「ええと…そうですか…夢なんですね。そうですよね!」

 と夢の中のジークフリート様も納得してくれたわ。そう夢なのよこれは!


「夢なら僕の膝に乗ってくれますよね?」

 と聞かれ私はうなづく。


「もちろん乗れますわよ。ご飯もあるし食べさせ合いっこしましょう」

 と私はジークフリート様の神聖なお膝に乗りジークフリート様はキスしつつも私に食べ物を運んだ。


 何て幸せな夢なの?


「何て幸せな夢だ」

 そっくりそのままジークフリート様が言う。私もジークフリート様の方に食べ物を入れてあげ二人ともにこにこしながら


「あら、美味しいわ」


「本当に。美味しい…」

 と言い合い、その間も何度かキスを交わしながら食事を取った。

 そしてすっかり食事が終わると眠くなりジークフリート様と手を繋ぎソファーに寄りかかった。頭はジークフリート様の胸へ預けてうっとりとうとうとする。ジークフリート様もうっとりとして私の肩を片方の手で抱き、もう片方は私の銀の髪をいじりたまに髪にキスをしてまどろんでいた頃、突然に


 コンコンとノックされた。


 え?


 するとガチャとシモンが入ってきて


「あ、お二人ともイチャつき中すみませんが…そろそろ家の者が心配するので帰りますよ?」

 と言った。


「は?ちょっとあんた…夢にまで出て来ないでよ?」

 と言うとシモンは


「お嬢様…夢じゃありませんよ?何言ってるんですか?もう夕方ですよ?さっさと帰りますよ?」

 と言う。


「は?」


「は?ってなんですか?それとも二人ここに残り一夜を共になさりたいと?ええ、私はそれでもいいですけどお父様は学生のうちからそんなふしだらな娘に育てた覚えは…と怒られますがいいのですか?」


「待って…それは嫌。お父様は怒ると怖いの……え?これ…夢じゃないの!!!?ひ、ひひひひぃーーーー!!!???」

 と私はとうとう目の前が真っ暗になって倒れた。

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