第2章 12 『ねえ道瑠ーもうやだぁこの人!』

 ――――――。


『えっと、つまりあのメッセージ打ったのも、話があるのもお兄さん……ってことですか?』

「そ。僕から『話したい』って唐突に言われたら警戒しちゃうかなーって思って、道瑠くんを利用したってワケよ」

『利用……』

「あるてさんも今に……大人になるに連れてわかってくるかもね。人間、利用出来る人や物は最大限利用するのが最大の処世術なんだよ……っと、そんなことを伝えたくて電話したかったんじゃなかった」

『はあ……』

 御影について、道瑠から以前色々と話を聞いていたあるてだが――あの時は御影について「行く行くは印象良くしていきたい」と言ったものの、当然すぐにそんな時は来ない。

「何時ぞやのナンパの件。あの時は本っ当に申し訳無かった。ずっと謝りたかったんだよ」

 御影が前々から謝りたいと言っていたことも、あるては道瑠を通して知っていた。

「重ね重ね、申し訳ない」

 実際にその謝罪を聞いたあるては、御影の真摯とも受け取れる声に対して口を開いた。

『……もう良いですよ。そのことで、もう私は道瑠を――さんを許しました。元凶の道瑠さんを許してお兄さんを許さないなんてこと、出来る訳無いじゃないですか。でも出来れば初めから止めてもらいたかったです』

「あ、普段道瑠くん呼び捨てにしてる感じ? 僕の前でさん付けは要らないよ。僕のことも御影って呼んで欲しい。んーでまあそうなんだけどねぇ」

 いつものように、御影の声は唐突に切り替わる。

「ほら、知ってると思うけど僕って自分が楽しむ第一だからさ。まさかこんなことになるとも思わず、面白そうって思いには抗えなかったんだよねー」

『……話には聞いてましたが、良い性格してますよね』

「おやおや? そんなこと言っていーのん? 僕にとって最高の誉め言葉の1つだよ?」

『ねえ道瑠ーもうやだぁこの人!』

「あっははは……。ごめんね? こんな兄で」


(挿絵)

https://kakuyomu.jp/users/ankm_aaua/news/16817330658312192854


 今まであるてが出会った人の中で、トップクラスに御影が無敵な人のように思えてきてしまった。同じように思ったのは顕子、灯夜に続き3人目だ。

(あれ……? これは周りが強いのか私が弱々なのかどっちなんだ……?)

 そして思わずこう思ってしまった。

「二人して酷いなあ。アー、ナキソウダー」

「はいはい。……本当にごめんね? あるて」

『? 道瑠がそんなに謝らなくても……』

「こんなでもさ、兄さんが謝りたかったって気持ちもさっきの謝罪も本物だから。弟の僕が言うんだ、信じて欲しい」

『……道瑠。ちょっと御影さんと二人で話がしたい。悪いけどちょっと席を外してもらっていいかな?』

「え? あ、うん。わかった」

 あるての要望に応え、道瑠は椅子から立ち上がった。


 ――ドアの開閉の音を確認したあるては話を続けた。

『それで……御影さんのことは正直まだ印象が……。それに今思い返してもあのナンパは最高最悪にウザかったです。ですが、悔しいけど道瑠と知り合えた切っ掛けの一つが間違い無くあのナンパと御影さんなんですよね』

「言ってくれるねぇ。道瑠くんが『言葉がショットガン』って言っていたのも頷けるよ。して、それで?」

『ちょっ、それ話してたんですか!? あー、えっと……それで、それは感謝しています。有難うございます。私からも、それは伝えなくちゃなって思ってました。思ってたより早く伝えられて良かったです』

「……そっか。ひひッ、じゃあさ。そっちがショットガン撃って来るなら僕はロケットランチャーで反撃しよっかな!」

『へ?』

「それを聞く限り、あるてさんにとって道瑠くんは特別な、大切な存在のように聞き取れるんだ。それを道瑠くんに察されないように席も外してもらった。……あるてさん、道瑠くんに惚れてるね? ヒュウッ!」

『なッ! ち、違います! 道瑠は私の友人の一人でッ、そりゃ、初めての男友達なので色々まだわからないこともありますけど、でも、友達は全員大事なので――!』

 その声は、明らかに動揺していた。

「あーっひゃっひゃっひゃっひゃ……。よーしよし、わかった。今のみぃかげさん最高に気分が良いから一つ、道瑠くんに関する特ダネを教えちゃう!」

『な、何ですかそれは!?』

 そして食い気味とも警戒とも取れる様子のあるて。

「もう今後、道瑠くんはあるてさんが傷付くようなことしないと思うよ? まあ、この世に『絶対』なんて言葉は無いし、図らずもってケースもあるから一概に全否定は出来ないけど」

『……どう言う意味ですか?』

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