第1章 32 「是非君にも、このゲームをやってもらいたい」

 ――時刻は18時を過ぎた頃。

 灯夜は愉悦CLUBの2人用のフラットルームで御影を待っていた。昼に本屋で買った漫画は既に読了し、店内の漫画を数冊借りて読みながら今に至っている。

(これ、続きが気になるな。今度本屋で探してみよっと)

 また1冊読了し、次の漫画を手に取っては開く。読み始めて数分経ったところでノックの音が耳に入った。

「正義のヒーロー、ここに――」

「悪は滅びました。お呼びじゃございません」

 御影のお決まりの台詞を言い切る前に灯夜が阻止をする。そして部屋の引き戸を解錠し、御影を中に入れた。


「あ、取り敢えず申しますか。お勤めお疲れ様です」

「お、痛み入るよ。待たせちゃって悪かったね」

「退屈はしてなかったので大丈夫です」

「……みたいだね。『Like a――ライク ア』の14さいしん巻、面白かった? 一番のお目当てだったろう?」

「はい。もう次の巻が待ち遠しいです。……何で知ってるんですか」

「そりゃあその漫画、僕も純粋に好きだからね。13巻もウチの店で買ってくれてたし。それと……」

 御影は灯夜が借りていた漫画の数々に視線を向ける。

「全部違うタイトル、それも全部1巻のみ。試し読みだね?」

「んー、わかるものなんですね。試し読みしてみて気になったのはちゃんとお店で、また1巻から買ってお金を落としたいんですよ。絶版のは致し方無く古本屋で買いますけど」

「うーん実に素晴らしい。こりゃあ全国の志道しじ御影が泣いちゃうねぇ」

「では泣いて下さい?」

「まあ、泣かないんだけど。でも冗談抜きでバイトとしても嬉しい心掛けだよ。ありがと」

「ぁ……。そ、それよりそろそろ本題に入りませんか? 何か見せたいんですよね?」

「うん、そうだね。ちょっと失礼」

 そう言うと御影が部屋の大画面のパソコンを、マウスを動かして操作し始める。

「元々タブレットで見せるつもりだったのさ。ここなら落ち着いて見せれるし、嬉しい申し出だったよ」

「それは良かったです。でも私に変なことしたら……」

 灯夜がバッグから防犯ブザーを取り出す。

「これ、鳴らしますから」

「おお怖い怖い。もしもお縄に掛かるのなら、あと97年は楽しんだ後が良いからそれまでは勘弁願いたいね」

「はいはい」

「……ふむ。まあそれで、見せたいのは動画と言うか…………あ、この日のだ」

 御影が開いたのは時速150kmキロの『MANE DE KILL』の、過去の配信のアーカイブだった。タイムバーを動かし、その中で見せたい場所を探る。

「よし、ここからだ。ところで君は人狼ゲームを知ってるかぇ?」

「知識も経験もありませんが、どういうゲームかは存じてます。でもこれは……知らないゲームですね」

「いや、人狼を知ってるだけで充分だよ。わかるかな、これ。皆はマネキンとなって、この中に紛れてるマネキラーって壊し屋に壊されないように施設内のあちこちを修繕していくんだ。もし壊された残骸を発見したら通話で話し合い、議論でマネキラーを炙り出して処分してく。後は……見ればわかるかな」

「はあ……」

「で、頭上に『ひょうご』ってあるマネキンが僕。配信はこの時速150kmって人のだけどね」

 灯夜が部屋に備え付けてあるヘッドホンを装着すると、御影は止めていたアーカイブを再生させた。


『それじゃ、この10人でやっていきまーすよろしくお願いします!』


 ――――。


『もーう漬物石さん初手キル何度目やねん!』


 ――――――。


『ほっほう? 確かに途中までロスさんと一緒にいたけどね――』


 ――――――――。


『ちがっ、俺はやって――ッ! あー、吊られるかぁ……』


 ――――――――――。


『よっしゃ! ひょうごさんナイスゥ! あぁーもう負けるかと思ったー』

『あっひゃっひゃっひゃっひゃ……。いやーでも時速さんがあそこでキメラを解き放ったお蔭だよ』


 結果は時速150kmとひょうごがマネキラー。時速150kmは途中バレて分解されてしまったがひょうごが狂言や巧みな嘘を交えて孤軍奮闘、マネキンをマネキラーと同数の1体まで追いやり、2人が勝利した。

「……まだ見るんですか? これ」

「いんや、もういいよ。ありがと」

 感想戦がわちゃわちゃと行われている中、御影がアーカイブを停止させた。灯夜はヘッドホンを外す。

「ふぅ……。それで、これを私に見せてどうしようと言うんですか?」

「そうだね、単刀直入に言おっか」

 灯夜の問い掛けに御影はワンクッション置き、一呼吸すると真面目な声のトーンで言った。

「是非君にも、このゲームをやってもらいたい」

「……理由をお聞かせ願えますか?」

 その声と表情に軽いノリでの勧誘ではないと感じ取った灯夜は、御影にこう問いただした。

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